複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照3900ありがとう御座います ( No.353 )
日時: 2014/12/05 02:19
名前: メルマーク ◆gsQ8vPKfcQ (ID: mJFNTt4F)

044 カメルリング王国ルート


 僕は念願の騎士になって、更には魔導の才能もあって、次の戦争での活躍に期待されていて—そして今、黴臭い部屋の隅に座って分厚い本を読まされている…。
ルークは膝の上に広げた本から目を上げた。波紋のように文字が広がっては波打ち、表面を撫でればじんわりと広がっていくあまたの不思議な文字たち。じっと見ていると頭がおかしくなりそうだった。

(なんかちょっと違うんじゃない?)想像していた先の戦いに備えるための訓練は、剣を振り回し、素早く身軽にかっこよく魔導を使いこなすことだったのだけど…。
完璧な座学で、しかもたった一人で図書室に放置されて、ちょっと不満気味のルークは自分を慰めるために腰のベルトに刺した果物ナイフにそっと触れる。
触れさえすれば紫の電光がパシリと走り、今までの出来事全てが夢ではないと思い出させてくれる。

「君は確かに魔導剣士だけど、呪詛を全く知らないからね」
魔導士たちのリーダーたるユニートは三日前ルークに、人差し指で眼鏡を上げながらつづけた。
「雷属性と地属性だけでいいから呪詛を丸暗記して来て。僕たちが関わる訓練はそれからだよ」
ルークはため息をつきながら両手を丸めて疲れた目をごしごしとこする。今何時なのだろうか。ユニートにそういわれてからこの図書室に閉じこもりきりだから、時間の経過がまるで分らない。
ご飯はラグにより三食運ばれてくるが、いまだミルフィーユと国王との論争が続いているためか雑談をする暇さえなく、ラグは申し訳なさそうに立ち去っていく。

「さてと」ルークは雷属性についてまとめあげられた本を小脇に抱えて、ドアノブをひねる。
そろそろ暗記の成果が見たい。
豪奢なカメルリング城内から出て、広い庭園も後にする。向かう先はここから数十分の、先日破壊された美しき白亜の修道院跡地。帝国の賊たちの奇襲により崩れ落ちたあの跡地ならば、いくら雷を落としたところで被害者は出ないだろうと考えたのだ。
先日初めて人を刺したが、それは帝国の賊に対し激しい怒りを感じたからであり、王国の罪なき人々に対してはそのような考えは出なかった。
しかし、ふとある時毎に—とくに武器を所持して近くに立つ人物に対して、僕を殺すつもりなのではないか?という考えが浮かんでくるようになってしまった。
ひとたびその思いが心に浮かぶと、あの時少女を刺した時のような薄黒い感情が鎌首をもたげる。それがたとえ仲間であっても。


 白亜の庭園は破壊されてからというもの、さらに古代遺跡のような神秘的な雰囲気を増しており、息をのむほど美しかった。
砕けた真っ白の外壁と、物寂しげな雰囲気で辺りを包むそよ風が、少女を刺してから少しおかしくなったルークの心を和ませる。
ルークは深呼吸をしてから、果物ナイフを引き抜き、口を開いた。
「『シンティア』」
流れるように口ずさむと、言葉が形をとってナイフから紫色の光がほとばしる。放電状態のナイフを振りかざしながら、ルークはさらに続ける。
「『ラディエル』 『エクレール』!」
途端に周囲が一瞬目もくらむような光に包まれ、その一秒後には白く帯電した紫の雷が鞭を打つように手近な岩に叩き落ちる。さらにルークを中心として円状に雷が連続的に落ち、転がっていた瓦礫が砕けとぶ。
その破壊音に驚いてルーク自身が首を竦め、驚いたように息をのむ。
まるで大砲の集中砲火を受けたみたいだ。自分の半径2メートル円状が黒こげになっていた。