複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照4000ありがとう御座います! ( No.363 )
- 日時: 2014/12/09 00:36
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: mJFNTt4F)
参照三千&四千記念 番外編026 魔法使いの弟子
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小屋が丸焦げになるほどの激しい炎だったのに、不思議なことに火傷1つ無い。そもそも、あの炎はいったいー?
沢山の疑問が頭の中で渦を巻くけれど、フィアの足は立ち止まることなくずんずん突き進んでいく。
ここは闇オークションの行われていた奥まった市場からは遠い、合法で安全な正真正銘の活気あふれる漁港市である。
自らの出身国へと帰る為に何とかして船を探すつもりで市を歩くのだが、どれも漁船、旅行用の大型船は見えない。
しかも見つけたと思えば貴族用らしく、近寄るだけで用心棒らしき人物に近寄るなと追い立てられる。
「ちっくしょう。アタシだって好きでこんなとこ来たわけじゃないってのに」
さっさと帰りたい、そう思いながら自然と目は人ごみの中へ向けられる。市場で楽しそうに笑い合う人の波に、共に拉致されて売られた仲間の姿を探すが、いない。あの火事の後、バラバラに逃げ去ったがどうなったんだろう…。
「あぁ、腹減ったぁ」
しかしすぐその思案も空腹にかき消され、フィアの目は自然と屋台へと向けられる。
出身国から着の身着のまま連れ去られたため、大胆にカットされたへそ出しツナギ服の他は何も持ち合わせがない。
こりゃ泥棒でもするしかない?って、人を勝手に拉致しても許される国なんだから泥棒したって支障ないんじゃないの?と逆に開き直ったフィアは、ポケットに両手を突っ込みながら、できるだけ掴み掛りやすく、尚且つおいしそうなものがないかと物色し始める。
立ち並ぶ屋台は四つの柱を支柱に、上から日除けの大布を掛けただけの質素なつくりだが、売られている商品はどれも上等でなかにはぎょっとするほど高い値のつけられたものまで並んでいた。
そうしてうろつくこと二十分程度、やっとめぼしい獲物に目を付けたフィアは、屋台の親父が少し目を離したすきを見計らってそれをつかみ、身を翻して走り去ろうとする—のだが。
その腕をむんずと誰かがつかみ、ほとんど聞き取ることが難しいぼそぼそとした声がフィアを咎めた。
「ちょっと……駄目だよ、泥棒は……」
「んだよ離せって!」
腕をつかまれてぎょっとしたものの、相手が自分より小柄でひ弱そうな子どもと知り、フィアはその腕を音を立てて振り払い怒鳴りつける。
その少年は長く伸びた緑色の前髪のせいで目が隠れ、ひ弱そうなイメージだったが、どうやら正義感は見かけより有るらしい。
はたかれた腕をまた伸ばし、逃げようとするフィアの腕をまたつかもうとする。
弱そうなガキのくせに、なめてんのか?と腹を立てた瞬間、再びあの現象が巻き起こる。
怒りに関節に力がこもって思わず握りしめていた今回の獲物—おいしそうなタコスのようなものが、突如音を立てて燃え上がる。
ぎょっと目を見開いたフィアの目の前で、はっと息をのんだひ弱そうな正義少年は、次の瞬間には右手に持っていた白い杖を振り上げて何か叫んだ。
「『 』!」
聞き取れず、訳の分からない言葉が放たれるとすぐ、フィアの手の中で燃え盛っていたタコスが激しい冷気に包まれて、青白く凍り付いていた。あまりの冷たさに手に激痛が走り、フィアは思わずそれを放り棄てる。
「おいおい、何なんだよ?」
自分の体から不定期に表れる炎、そして今目の前でじっとこちらを見つめるひ弱そうな正義少年の、あの行動の末のタコス冷凍。
と、集中しすぎて分からなかったが、自分とひ弱少年の辺りに人だかりが出来つつあることに気付き、フィアは逃げようと後退する。
しかし、後ずさりしたフィアの靴のかかとが、何者かにぶつかって止まる。振り返れば、自分の腰ほどにようやく届く背の、黒と白を基調としたドレスに身を包む女の子が、ピンク色の杖を片手に、ニコリと笑っていた。