複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照4100ありがとう御座います! ( No.367 )
- 日時: 2014/12/11 23:10
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: mJFNTt4F)
参照三千&四千記念 番外編029 魔法使いの弟子
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「うらぁっ、アーリィ様直伝の『ベルミリオ』!」
どがぁんと爆発音が響き、あたりの空気がびりびりと振動する。
地面に巨大な穴が開き、そこから煙と紅色の炎とがゆらゆらと立ち上る。
その破壊音に耳が痛くて、両耳を押さえながらキオはぼそりとつぶやく。そろそろ反撃しないと。このままでは僕の鼓膜が破れてしまう。
「…『セティファウンテン』」
白い杖をさっと振り上げて紡いだ呪詛が、爆発を起こした彼女の足元に魔術を発動させる。
純白の氷が噴水のようにフィアの足元から吹き出し、彼女の視界を奪う。そして渦高く噴き出すその氷の噴水が彼女の黒い肌に触れるとすぐ、白く稲妻が走るように凍り付かせていく。
「『クロウカシス』!『フェリシタルフリーズ』!」フィアが反撃する前に、キオは次々と呪詛を唱えていく。
ぶすぶすとくすぶり、普段なら木漏れ日さえ受け付けない暗い樹海に明るい炎の赤を点らせていた辺りの雰囲気に、凍てつく白が舞い降りる。
『クロウカシス』により辺りに雪が舞い降り、そして『フェリシタルフリーズ』により雪がふれた地面が見る見るうちに凍り付き、地面から牙をむくように鋭い氷の針が突き出る。
その針に軽く指で指図すると、地面を走るように氷の針がフィアめがけてジグザグと突き進んでいく。
このままでは体中に氷が突き刺さり、あわや大惨事というところで、フィアがふんと鼻を鳴らして叫ぶ。
「『ヴァスティン』!」
アーリィのピンクの杖をまねて、赤いビーズをじゃらりと巻きつけたフィアの黒い杖がさっと振り上げられれば、冷え切った森の穢れない白い雪の上に、燃えるような赤い炎が噴き出す。市松模様に火柱を上げた炎の壁が、フィアに迫った氷の針を蒸発させる。
そして、にやりと微笑んだかとおもうと「『インフェスティオ』!」と声高らかに勝ち誇ったように叫ぶ。
『インフェスティオ』は禁じられる一歩手前の炎の魔術だ。もともと弱い魔力の持ち主でも家一軒くらいは軽く爆破できるほどの威力を持つ。
キオはちらりと弟子二人の戦闘を傍観している師匠、アーリィに目をやるが、彼女は止める気は無いようで、キオは小さくため息をつく。
ぐるぐると炎の竜巻が巻き起こり、既に数本の木々が巻き込まれて
焼けつくされている。その巨大な炎の塊が自分めがけて降ってくるのだがキオは慌てずつぶやく。
「『リュシレーン』」
すぐさま分厚い氷の壁がキオの辺りをぐるりととりまき、灼熱の炎の攻撃をきっぱりとはねのける。
それに腹を立てたのか、フィアはあろうことか、現在残っているうち一番威力の高い炎属性の呪詛を叫ぶ。頭に血が上るといつも何でもかんでも爆発させようとする。彼女の悪い癖だが、そのスタイルが師匠であるアーリィに気に入られており、事実高い攻撃魔術に特化しているゆえんでもある。
「これでどうだ、『インフェルノ』!」
「じゃあこっちも…『コキュートス』…」
そんな攻撃に特化した彼女と正面からぶつかって怪我一つしないのは、キオ自身が鉄壁の防御に特化しているからだろう。
「炎地獄に氷地獄ねぇ…さすがアタシが育てた弟子だけあるわね!」
目の前で樹海が焼け焦げ凍り付き、爆発し砕け散り、もう荒野と化しているのだがアーリィは気にしていないように微笑む。
今では恒例となった弟子同士での実践訓練のため、樹海の一部が犠牲となっている。いまはフィアが弟子入りしてからようやく一年になる。今ではよくなついて自国へ帰ることも返上しアーリィ様アーリィ様とよく慕ってくれる。
…二人とも腕前もかなりのものになり、自慢の弟子たちになった。
そしてようやく彼らに名誉ある役目が回ってきた。
「これなら戦争に出しても心配ないわね」
そうつぶやいたアーリィの声に、少しの心配も不安もなかった。
しかし、いざその戦いの舞台に弟子とともに参戦すれば、意見を変えざるを得なくなった。
帝国と王国との、狭間にある特殊な鉱山をめぐる大戦が開始すると、アーリィはフィアとキオを連れ、王国の兵士たちを何人も葬った。一年、二年…王国の兵士たち、傭兵たち、騎士たち、そして魔術師魔導士たち…沢山葬った。
やがて帝国にいた魔導士たちが全滅した。王国の魔術師もまた、数十人、戦火のもと、花弁が散るように息絶えた。
魔力を持つものは特殊で強力なことから、子供から老人まで無理に駆り出された結果だろう。王国も帝国も、使えるものは何でもいい、とばかりに戦場に放り込んだ。その結果、歴戦の騎士たちにあらがうことが出来ず、次々と墓標が立ち並んでゆく。
そんな光景の中で、三人は黙って杖を振り回し、呪詛を叫び続けた。
あとちょいと
ちょっと訂正
- さぁ 正義はどっち ? 参照4100ありがとう御座います! ( No.368 )
- 日時: 2014/12/12 00:11
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: mJFNTt4F)
参照三千&四千記念 番外編030 魔法使いの弟子
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「沢山の仲間が死にました…」
戦争がはじまり、2年と9カ月がたとうとした頃、15になったキオが疲弊したようにつぶやいた。新たに墓標を立てたためか、その両手は泥で汚れている。今日もまた、知り合いが死んでしまった。騎士の、やさしそうな青年だったのに。その彼を埋葬して、うつむいたようにキオが言う。
「いつまで続くんでしょうね、アーリィ先生…」
暗い顔でつぶやいたキオに、同じように疲弊したフィアが、しかし気丈に声を上げて見せる。
「アタシらが頑張るしかないだろっ!それで、勝って、また三人でロリータ服の注文しに行きましょうね!それで、アイスでも食べて、それから…」
「そうね。こんな戦争、さっさと終わらせて、アンタたちとのんびりバカンスでもしたいわね!」
フィアの言葉に、アーリィも疲れた顔を上げて、微笑んで見せた。
けれどその願いなど、叶いはしなかった。ふと目を離したすきだった。弟子たちなら大丈夫と、離れたのがいけなかったんだ。
気付けば血だまりの中、アーリィは座り込んでいた。辺り一面、王国も帝国も関係なく、死体が転がっている。
その中で、ふんわりと広がるゴシックロリータ服をまとう少女の目の前に、二人の人物が横たわっている。その人物たちの両手を握りしめながら、アーリィは血眼で叫んでいた。
「『ディア』!『リフル』!『ミレレラティール』!」
癒しの呪詛を言えるだけ叫ぶのだが、目の前の二人の、見るに堪えない深く切り込まれた傷口はふさがらない。血が流れ出し、浅く呼吸するその息が、やがてとだえる。
「フィア?」
先に呼吸を止めたのは19になったばかりだったフィアだった。黒い肌に赤い血がはね、彼女の持つ杖のように鮮やかに色づいている。
アーリィがあわてて体をゆすれば、その手に大切そうに握られた黒い杖が、音を立てて転げ落ちた。
「————!!」
最期の言葉も何も聞けず、最愛の弟子が息絶えたことに赤い目を見開くアーリィは、呼吸を荒くしながらもキオに目を向ける。彼の方はまだ息があり、しかし長くはないとわかる。
その血に染まる手を取ると、アーリィはつぶやく。
「二人ともアタシの弟子だったのに…絶対にアタシが救って見せる…!」
そんな師匠の顔を見て、息も絶え絶えにキオが、アーリィがこれからしようとすることに気付いたように、首を振った。
今にも閉じそうな琥珀色の目で、いつも彼がそうしてきたように、間違いを犯そうとする人々へ厳しい口調でダメだよ、とつぶやく。
「ルールは守らないと………例えアーリィ先生でも……」
「アタシに使えない呪詛なんてない。たとえそれが『 ・ ・ ・ 』だとしても!」
あぁやっぱりね、というようにキオが眉を寄せる。その言葉はキオには聞き取ることが出来なかった。しかし、その存在はずっと昔から知っていた。読むこともできなかったけれど、古い遺跡に記されている文字。その逸話は魔術を学んだ物の間では、少しばかり有名な伝説とされている。
「やっぱり…アレはアーリィ先生のことだったんです…ね。でも、そんなこと—」
してもらいたくない、と口の形だけでつぶやいたキオは、血だまりの中で最期の呼吸を吐き出した。
ふたつの亡骸に寄り添って、アーリィは杖を掲げる。かつて自分の母親がそうしたように。死者の再生を願って、その禁忌中の禁忌の呪詛を口ずさむ。
「『 ・ ・ ・ 』」
しかし、あの時母親が祈るように叫んだ呪詛は、あの時と同じような効果をもたらしてはくれなかった。
すさまじい痛みが心臓をわしづかみするようにアーリィに襲い掛かり、激痛の声を上げる。自分の体に、キオやフィアの傷とだぶるように同じところが裂け、血が流れ出す。
その傷をいやそうと、癒しの呪詛をつぶやこうとして目を丸くする。
癒しの呪詛をすべて思い出せなくなっていた。自分には禁忌の呪詛を成功させるほどの魔力がなかったせいだろうか?その反動によるものなのか?
痛みを抱えながら、アーリィは目の前の二人に目を向ける。そして、二度と目を開くことのない最愛の弟子たちを前に、もう金輪際ないだろうと思うほど、むせび泣いた。
とある遺跡に、ある伝説とされる呪詛とその物語が記されているという。高い魔力を持つ古代の民が、一人娘を亡くし、涙にくれたとき、その母親が、命と膨大な魔力をもってして、娘を生き返らせた—。
そして娘は蘇るのだが、その姿は永遠に時計を止めたまま、死ぬこともなく、老いることもなく、永久に朽ちることがなくなったという—
『 ・ ・ ・ 』、すなわち命に代えて死者をよみがえらせる伝説の呪詛。
その死者をよみがえらせる呪詛の伝説には、その少女のその後は記されておらず、確かに記されているはずのその呪詛は、いまだ誰にも解読されていないという—