複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照4200ありがとう御座います! ( No.382 )
- 日時: 2014/12/16 23:13
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: mJFNTt4F)
044 ミカイロウィッチ帝国ルート
高いアルコールに引火して、瞬時に燃え上がる炎に驚きの叫び声が上がる。男は全身火達磨で、驚愕の表情で何か叫ぶが言葉になっていない。
「誰か水もってこい!火消せ!」「な、何やってるの!?」
カウンター席に座った大男が頭やその広い肩から炎を上げて悲鳴を上げる様子を見て女将さんが信じられないとツヴァイを振り返る。
しかしツヴァイは微笑みを浮かべ、そのオッドアイで燃え盛る大男を眺ている。
その光景をあっけにとられて見ていた盗賊団たちだったが、やがてふと、奇妙な事に気付く。
いつまでたっても焦げ臭くないのだ
激しく燃え盛る炎はけれど、鼻につく肉を焼くようなにおいは全くしない。
その異様さに、燃える本人もやっと気が付いたようだった。暴れ狂っていたその身体を止めて、震える声を絞り出す。
「あ…熱くねぇ…?」
その身体から炎を噴出させてつぶやいた言葉に、クククっと笑ってツヴァイが得意げに声を上げる。
酒場の全員の視線を一身に受けて怪しく言って見せる。
「どう?これがボクのマジック。燃えない人間…気に入った?」
「きみがあんなマジックするからぼくまで変な目で見られたじゃない」
「いいんじゃない、別に?ボクのおかげで王室に招かれることになったんだし」
その猟奇的なマジックの後、火傷1つ負わなかった男の話は瞬く間に広がり、その噂は深夜から昼間に至るほんの短い間に人々の間に駆け巡った。
演目が衝撃的過ぎたせいもあるが、そのマジシャンが左右の瞳の色が違い、相方が天使の生まれ変わりのようにきれいだと知れて、ますます噂は大きくなる。
やがて、その噂は暗躍組の活躍もあって騎士や小間使いを媒介して王家にも知れて、彼らは王家に招かれることになり、急きょ彼らのために晩餐会までが開かれることになった。
「晩餐会には貴族共がたくさん来るからな」シェリル皇女に拉致されてからは彼女がパーティー好きだったこともあり、勝手知ったる口調でヴィトリアルが言う。
「お付きの小間使いのふりすりゃ、楽に忍び込めるな」
「ややこしい招待関連のアドリブはリンに任せればいいわよね」
アーリィの言葉に、リンが小首を傾げてほほ笑む。
「任せてください!慣れてますから」
その後ライヤが皆の小間使いの服を調達しに行き、まだ寝たりないものはライヤが根城にしている宿で爆睡したり、足を延ばしたいものはフードをかぶって出歩きに行く。
今晩まで、各自自由行動だった。
「なんだって…ナトリウム…?液体の?何を言ってるのかわからんが、それは薬草なのか?」
その自由時間中に、ツヴァイとウィンデルはまだまだ自分たちへの注目度を高めるために宣伝をしながら、今宵の手品に必要なものを買い求めて市場をうろついていた。
「液体のストロンチウム、銅、カルシウムでも何でもいいからさ、無いの?」
けれどなかなか手に入れたい薬品がなく、三番目に立ち寄る薬師の店にもそれらはなかった。
ため息をついてもういいやと店を出るツヴァイに、福音の足音が聞こえてくる。
というよりはぶつかったという方が正しい。
ツヴァイもその人も思い悩んでいたことが原因で、両者が衝突する。
「っとと、ごめんなさい!…あ」
その人物は14歳のツヴァイから見てもかなりの童顔であり、瞳の黒い、灰色の髪の少年だった。
しかし一応背は彼の方が高い為、エディと同い年くらいかな?と目測する。
その人はツヴァイとウィンデルの事をうわさで耳にしていたのだろう、よろけたツヴァイに手を貸しながら、そのオッドアイに反応して口を開く。
「もしかして、今夜の晩餐会に出る二人組の手品師さん?」
「そうだけど?」
体勢を持ち直し、だがこんなことをしている暇はない為、それじゃとさっさと次の店に向かおうとするツヴァイ達だったが、その童顔灰髪少年の行動の方が素早かった。
彼のその黒檀のような両目が彼らの出てきた店に向けられると、口を開く。
彼は何やら悩みながら歩いていたらしいが、ツヴァイやウィンデルがどこから出て来たかくらいは覚えていたようだった。
「薬師の店に行ってたみたいだけど、どこか悪いの?」
「ううん、実を言うと手に入れたいものがあったんです。でもどこにもなくて困っちゃった」
そう首を振って愛想を振りまくウィンデルに、通りすがる人々が視線を向けたり振り返ったりする。
そして興味をそそられたのか、ぶつかってしまってお詫びしたいのか、それがどういった物なのか、一緒に探してあげようかと提案するその言葉に、ツヴァイはどうせ無駄だろうけれどと口を開く。
「液体の銅、ナトリウム、ストロンチウム、カリウム、バリウム、ルビジウムにホウ素。それと、ホウ砂にポリビニルアルコール」
なにそれ、と言われるのが関の山。さっさと違う店に向かおうと踵を返しかけた途端、その童顔灰髪少年はあぁ、それならとにっこりほほ笑んだ。
「僕についておいでよ。知り合いの発明家はそういう化学薬品も取り扱ってるから」
マニアックな化学薬品と元素の名前出しちゃったけど…わかる人にはわかる…