複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照4200ありがとう御座います! ( No.386 )
- 日時: 2014/12/20 14:14
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
045 ミカイロウィッチ帝国ルート
童顔灰髪少年の案内により、今宵晩餐会の開かれる王城の側、通称貴族通りと呼ばれる高級住宅街にやってくると、彼は足を止めた。
「ここだよ」
言われて見上げれば大きな屋敷。帝国では貴族並みの地位にいるツヴァイでも感心するほどの大きさだった。
入って、と通される大きな館に、この案内人である少年は少し不釣合いだった。この国の一般的であろう放牧民の姿に、喧嘩でもしてきたのだろうか、少し服の裾が土や血液や重油で汚れている。
「ここには僕の後継人みたいな人が住んでるんだよ。すごくお金持ちの発明家で色々な職業の人から発明品を頼まれているんだよ。ただ…」
じろりと見られた意味が分かったのだろう、その少年は物知り顔で微笑んだ。
長い廊下のあちこちに散らばる釘や歯車や何かを組み合わせた金属製の物体などを飛び越えながら、その少年はふいに声音を落とす。
振り返ったその顔が少し苦悶に満ちた悩ましげな表情になった。
「今はある発明で忙しいんだ…でも、僕が代わりに対応するから安心して」
しばらく設計図を飛び越える、ネジや釘の山を迂回する、工具の山をジグザグと進むという作業を繰り返し、やっと薬品の倉庫兼化学実験室にたどり着いた。
火薬系に使える薬品以外はあまり手を付けないから滅多にここには来ないんだ、というその少年に定価ほどの金額を渡し、念願の薬品を手に入れたツヴァイはにやりと笑う。
そして少し作業が必要だから、と少年に了承を得て実験を開始し始める。そしてその発明家の物であろう大きな白衣を身にまとうと、白衣を引きずりながら嬉しそうに実験を開始し始めた。
それを呆れたように眺めたウィンデルだったが、少しでもいいと今夜のターゲットである王女についての情報を得ようと灰髪童顔少年に話しかけた。
「王女は大変な麗人というのは聞いたことあるけれど、すごい魔法使いなんですって?」
白い体にオレンジと茶色のつぎはぎを当てた可愛い猫のパペットを動かしながら、ウィンデルは愛らしく首をかしげてみせる。
その無邪気な微笑みに惑わされた人々は多く、この少年も簡単に気を許してそうなんだよ、と頷いてしゃべりだした。
「フランチェスカ様は平和主義者なんだけど、途轍もない魔力を持ってて—この前帝国の賊集団が修道院に襲撃してきたときなんか、一人で大勢の敵を、まぁ、御幣はあるけど撃退したようなもんなんだよ」
表面には出さずに、ウィンデルはその微笑みの裏で少し冷や汗を流す。
帝国の賊集団だったとこんな平民らしき人物までが知っている…そのことに少し戸惑うが心に仮面をかぶって驚いて見せる。
「へぇ、帝国の回し者だったんだね、驚いちゃった。帝国と王国って今冷戦なんでしょ?帝国の刺客だってどうして知れたの?」
犬のパペットで口元を覆って心底びっくりしたような顔をすると、弟でも見るような優しげな眼付きでこちらを見るその童顔少年は腕を組んだ。
「なんでも襲撃集団に帝国の黒騎士らしき人物がいたっていうんだ…それと情報屋みたいな人が進言したらしいよ。あいつ等は帝国の回し者らしいって。まぁ結局、王国の王女を襲いそうな奴らなんて帝国以外考えられないしね」
へぇ、と相槌を打ったウィンデルは結局ばれるであろうその情報を売り、それ相応の報酬を手に入れたであろうその情報屋の正体を脳裏に思い浮かべ、少し冷たく微笑む。
その人物は今頃王国のメイドでもたぶらかして、王城侵入のために必要な衣装でも調達している頃だろう。
「国王様のおひざ元の事をそんなに知ってるなんて、ここの発明家さんって相当腕がいいんですね!王宮専属の発明家さんなんですか?」
にっこり褒めてさらに情報を引き出そうとすると、突然爆墳が上がり、ツヴァイがせき込みながらその煙の外へ飛び出してくる。
「だ、大丈夫?何の試薬で燃やしたの?」
「ま、マグネシウム…」
涙目で咳するツヴァイの言葉にあぁと微笑んで灰髪童顔少年はそれじゃと棚から大きな缶を取り出し、燃えるマグネシウムに何かを振りかぶせる。
するとたちまち消火され、彼は窓を開けたり薬品のふたを閉めたりとてきぱきと行動し始めた。
「水で消火しちゃダメってよく知ってるね」
「僕も一応発明家一家の居候だからね」
ツヴァイのちょっと感心したような言葉に、その少年は嬉しそうに微笑み、一応完成した薬品と物体をビンに詰めてツヴァイとウィンデルに手渡す。
じゃあ完成したから、と帰ろうとするツヴァイを少し恨めしげに眺めたウィンデルはあともうちょっと情報を引き出そうと粘る。
爆墳が起きなければ王国の内情に詳しいこの人物からさらに王国の最新情報を聞き出せたはずだったのだが、仕方ない。
「ぼく王国の話を聞くのが好きだから、またここに会いに来ても良い?」
とびきりの笑顔でそういうと、驚いたことにこう告げられる。
「良いけど、たぶん今日の晩餐会にあえるんじゃないかな」
Mg+水は爆発しますよ!