複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照4300ありがとう御座います! ( No.387 )
日時: 2014/12/21 16:00
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

046 カメルリング王国ルート



もっと集中しなくちゃ、そう考えることもなくなり、やがてその黒い眼はぼんやりと空をゆっくり旅する雲に向けられる。
魔導書を開きっぱなしで芝生に寝転がって両頬杖をつくルークの脳裏で、何度も何度も先程の光景が繰り返される。
投獄されたラグと、怒り狂うミルフィーユ。そしてミルフィーユに殺戮兵器を発明しろと迫る国王様。
「ねぇ」
急に声を掛けられてルークは飛び上がった。
「ご、ごめんなさいユニートさん!僕ついぼうっとしちゃって—」「僕だよ、僕」
慌てて放りっぱなしだった魔導書を両手ですくうように抱え上げ弁解するルークに、声を掛けた少年、シランは面白そうに笑う。
「ユニートさんも王女様も、もういないよ。夕方にはもう城内にいないと危ないからって国王様のお達しでね。ユニートさんは一応魔導団長だし、今頃王女の警護にあたってるんじゃない?」
「そうなんだ…」
あいまいにうなづいて、ルークはそこで初めて空が茜色に染まっている事に気付く。ぼうっとしていて貴重な一日を不意にしてしまったようだ。
戦争まで一か月切ってるのに、と苦虫を噛み潰したようにしかめっ面をするルークの腕をつかみ、ぐいぐい引っ張りながらシランが言う。
「聞いたよ。発明家一家の執事が投獄されたんだってね」
引っ張られた勢いで立ち上がったルークは、左手に魔導書を抱え込んだまま頷く。
先程からそのことについて逡巡していたのだが、自分にできることはない。発明家一家の弟子のようなルークは、同じように王国の魔導剣士であり、ラグを助けようとミルフィーユに協力しようとしたのだが、止められてしまった。
私なら一人で大丈夫、ルーク君は修行を頑張ってくれ、というミルフィーユの言葉に従がって、今ここにいるのだが…まったくもって集中できなかった。
すると、シランがルークの腕を引っ張りながら外庭から王城に向かって歩き出し、言う。
「今からさ、その執事君に会いに行こうよ!」
ルークは目をまん丸くし、瞬時に頷いて走り出した。


王国の希少な存在である魔導剣士と幻術師は王国内でそれなりの権力があるらしい。
城の地下、薄暗い牢獄のあるらせん状の洞窟のような牢獄を警護する見張り兵にラグに面会に来たといえば、すぐさま通り抜けることが出来た。
「気味悪いね、ここ」
カメルリング王国はもともと乾燥した土地だが、この地下牢獄は湿っぽい。地下であるため肌寒く、温暖な地上とは比べ物にならない。
「牢獄が快適な場所だったら、牢獄の意味ないからね」
だがシランはけろりとしており、壁にかかるわずかな灯りを頼りにラグの投獄された牢屋を目指す。
どうやら何年も前から投獄されていたであろう人相の悪そうな輩を過ぎ、7番目の狭い牢屋に、その身なりの良い小さな執事は居た。
「ラグ!」
寒さに震える姿を見るなり思わず飛びつこうと駆け出すルークが、柵に激突して頭を押さえる。
ここは薄暗いうえに、柵が弓状に囲われている変わった構造のため、ちょうどルークの頭の位置だけが外側に出っ張っていた故の出来事だった。
「大丈夫ですか?!」
ルークの声に反応して顔を上げたラグが、激突音にびっくりしながら執事らしく頭を押さえてかがみこむシルエットに声を掛ける。
「初めて見たよそんなことする人」
しかしシランは腹を抱えて笑っており、壁からカンテラを外してルークの顔を覗き込む。
「大丈夫?君石頭なんだね、怪我1つしてないよ」
その言葉にほっとしたラグは、弓状の冷たい鉄格子を両手でつかみ、彼らを見上げる。
たった一人で心細かったのだろう、やっと見知った顔に再会できて安心したようだった。
「ご主人様はどうなさってますか?」
「ミルフィーユさんは今、ラグを助けるために一生懸命発明してるよ。だからすぐこんなところ出れるからね。安心していいよ」
ルークがまだ痛い頭をさすりながらやさしく言えば、ラグはちょっと嬉しそうな顔をするが、その笑顔が曇る。
「僕のせいでご主人様は殺戮兵器を作ることになったのですね…」
カンテラのぼんやりした光に照らされて、その目に涙が浮かぶのがかすかに見えた。そのまま小さな両手で顔を覆い、涙声でか細くつぶやく。
「僕は執事失格です…」
小さく肩を震わせるその姿に、ルークまで悲しくなるが、ふと頭の中で妙案が泡のように浮かんでくる。
(僕が代わりに作ればいいんじゃないかな)
そうすればミルフィーユさんは平和主義のまま、ラグも悲しまなくて済むんだから。
ふと目を落とせば服の裾に酸化して黒ずんだ血液が見える。先日刺した似非シスターの物だ。
どうせ僕はもう平和主義者ではない。それどころか戦争に加担する魔導剣士だ。
どうせここまで来たのなら、結局同じじゃないか。
小さく笑って、ルークは自分とラグどちらも慰めるようにつぶやいた。
「大丈夫だよ。僕がなんとかするから」



遅くなりましたがっ参照4300ありがとうございます!!