複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照4300ありがとう御座います! ( No.393 )
日時: 2014/12/23 20:39
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

048 カメルリング王国ルート



まだ日が昇る前に朝食を済ませたルークは、発明家の邸宅を後にした。あれからミルフィーユは設計図を1つ完成させたようだった。そしてルークが用意した紅茶を一気飲みして、苦いねと文句をこぼして以来一言もしゃべらずに再び設計図に手を付け始めた。
どうやら彼の発案した、殺戮兵器ではない兵器とやらは複数存在するらしい。
しかしいくら詮索しても、その内容物に関して何も教えてくれなかった。
(手伝おうにも僕には修理以外出来そうなことないしなぁ)などと考えながら歩いていると、早朝だというのに何やら街が異様に騒がしい。
戦争が一か月後に迫ったと国民にもついにばれたのだろうかと勘繰るが、うわさ話に花を咲かせる彼らの顔色は悪くない。むしろ興奮しているようだ。
どうしたんだろうと首をひねりながら歩いていると、前方で深くフードをかぶった二人組が、早起きな町娘たちに囲まれながら何か楽しそうに話しているのが見えた。
その側をゆっくり通り過ぎると、話の内容が聞きとれた。

「人が燃えたのに火傷1つしなかったなんて、絶対うそでしょ?」
「ホントだよ。左右の目が色違いの子どもが、大男を燃やしたの。…兄さんと一緒に見たんだから。ね、兄さん?」
「俺の妹が嘘つくわけないだろ?ソイツらは二人組の旅芸人で、芸人の中じゃ一二を争うようなすごい手品師らしい。何でも、王国には王様に最高の手品を披露するために来たらしい」
「へぇそんなにすごいんだ。私たちも見てみたいよね!まだここら辺にいるの?」

人が燃えたのに火傷もしないの?と興味を持ったルークだったが、彼らに駆け寄ってあれこれ詮索したい欲求をぐっと我慢する。
これから剣術を白騎士のラルスに教えてもらうのだから、遅れるわけにはいかない。王女が襲われてからというもの、白騎士・魔導・傭兵の3団長は代わる代わる王女の護衛についており、ルークにつきっきりで指導は出来ない。時間は有効に使わなければならない。
やることは山ほどあるし、時間は限られている。魔導に剣に発明…。しかし、左右の目が色違いの人間なんて初めて聞いた。どんな人なんだろう?それに最高の手品っていったい?
それからの間、王城へ向かう足が止まりかけるほどその手品師二人組のうわさが通りのあちこちから矢が投げられるように飛び交い、ついに王城にたどり着いてからもその噂が途絶えることはなかった。
王室のメイドや騎士たちの間にもそのうわさは広がっており、ついには剣術の手ほどき後、ラルスがそう言えばと言い出すほど広まっていた。


「今夜晩餐会が開かれるようだよ。なんでも、有名な手品師が王国に来たらしくて、国王が噂を聞きつけて晩餐会を開いて招いたらしい。君も国王に魔導剣士として出席することが認められているらしい」
師匠からもらい受けたという純白の剣を鞘に納めながら、汗だくで練習場の床に寝転がるルークに声を掛ける。
ラルスの言葉に、フランベルジュと同じ重量の長剣を片手に伸びていたルークがそうなんですか、と荒い呼吸の合間に吐き出す。
タコが出来そうなほど強く握っていた長剣をその手から滑り落とすと、ルークはでも僕は練習しないと、と体を起こしながらつぶやく。
「ツバキ団長に言われているんです。今までで一番使い慣れているのは果物ナイフなんだから、それを伸ばしなさいって」
「そうだな…」
ルークの表情を眺めながら、干し草色の髪をすき上げるラルスは昼まで何時間も剣を振り回していたというのに疲労の色1つ浮かべていない。
重い鎧を脱いでいたこともあるが、この人はまだまだ実力を出し切っていないんだなぁと寝ころんだまま見上げたルークはちょっと恨めしげな顔をしていたのだろう、ラルスが困ったように微笑する。
「まぁ、気になったら少しでも顔を出せばいいさ。根を詰めすぎてもよくない」
そしてルークに大きな手のひらを差し出しながら、「さぁ、今日の午前の修行は終わりにしよう」と朗らかにほほ笑んだ。


白騎士は忙しい。国王の近衛兵である名誉ある立場のラルスは魔導剣士の育成を命じられていたが、それでもルークに割ける時間はわずかだった。
今日は珍しく時間を割いてもらえた方で、午後の鍛錬までしてくれるそうだが、やはりそれは深夜ぎりぎりの遅い時刻だ。
それまでは自主練しているほかない。運が良ければ傭兵のジョレスやノイアーを捕まえて相手をしてもらえるのだが、彼らも戦争がまじかと迫り暇ではない。
素人相手よりもプロ同士で鍛錬した方が自分の為になる。
仕方なしに魔導書を読みふけるのだが、やらなくてはいけないことが多すぎて無駄な不安がルークを責めたてる。
発明・魔導・剣…それに加えて惑わすような今宵の晩餐会。
居ても立ってもいられずともかく昼ご飯をとろうと発明家の本へ帰る途中、思い悩んでいたが故店から出て来た人物と正面衝突してしまった。
慌てて謝ると、色違いの目がこちらを見上げていた。