複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照4400ありがとう御座います! ( No.398 )
- 日時: 2014/12/27 03:02
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
050 カメルリング王国ルート
「たぶん今日の晩餐会で会えるんじゃないかな」と二人組に返事して見送ってから数時間は経過しただろうか?
魔導書を膝の上に乗せたまま化学実験室のほこりをかぶった椅子の上でぐるぐるとまた考え事をしていたルークは、古ぼけた鳩時計を見上げてその秒針を凝視した。
全くもって動いていないその時計は朝だか夜だかわからないがちょうど六時で停止している。
この瞬間があの時計みたいに停止すればいいのに…。そんな考えを振り切ってルークはしっかりしろと魔導書に目を戻す。
ぐにゃぐにゃと湾曲する古代の文字たちがルークをからかう様に浮かんでは消えて、その書物に託された物と隠れん坊しているみたいだ。
けれど努力は報われるもので、その呪詛との隠れん坊は最終ページをめくることでやっと終結した。
丸一冊を読み解き終わり、遠い祖先の血縁からたまたまルークに授かった魔力と呪詛とがようやく結びついて体になじむような気がする。
「変な本だね君は。僕の頭の中に全て吸い込まれちゃったみたいだ」
ルークは読み解いたことですっかり変貌した魔導書に呟き掛ける。最初に戻ってページをめくっても、もうすっかり白紙になっている。しかしルークが指先で触れれば、そこからインクが滲み出る様に文字が再び見えてくる。
僕の魔力の中に文字が溶けてしまったのかな。そう文字をなぞったルークは考える。
「次の魔導書も読み込まなきゃ」呟き、ついでにと伸びをしながら固まった肩をほぐして考える。
ついでに、ほんのちょっと、晩餐会に顔をのぞかせよう。芸人の手品を見てみよう。
晩餐会の賑わいっぷりは、開始したての午後7時半ですでに好調だということがわかる程だった。会場は城内だというのに、招待されない一般市民達が王城前まで押しかけ、門番達がそれを押しとどめる。それを横目にルークは城に入り、会場を目指す。途中ルークを一般市民と勘違いしものすごい剣幕で追い出されそうになったが、無事到着すればちょうど手品が披露されているところだった。
広いホールに、玉座が四つ。国王夫妻とフランキール王子が座っており、フランチェスカ王女は姿が見えなかった。
だがそんなこと直ぐに忘れてしまうほど、その見世物は心を奪うものだった。
オッドアイ少年が円形の舞台に美少年を誘い、その周囲に油をまいてにんまりしながら炎を放つ。
炎の輪の中に囚われた美少年。それを息をのみ眺める人々。
美少年が踊りを舞うように人々を魅了しながら炎に手を振るようなしぐさをすると、辺りを取り囲む炎の色が七色へと変化する。
右手を軽く振れば赤い炎が緑へ、青へ、紫へ。そして左手を振れば炎が金色に輝き出し、彼がウウィンクしながら両手を掲げると炎が美しいピンク色へ変貌する。
そのたびに歓声を上げていた人々は、次にオッドアイ少年に注目する。
彼が運んできた大樽をひっくり返すと、中から世にも奇妙な物体が踊りだす。
真紫の大型犬ほどの半透明の物質は、でろでろと動いていたがやがて徐々にオッドアイ少年の後をついていくようにずるずると動き出す。
その不気味な物体の正体が掴めず人々が絶句していると、オッドアイ少年はにやりと微笑む。
あれはいったい何なんだ?あんな生き物見たことがない。そう言った声に、
「コイツはスライム。勿論生きてない。けど動くんだ」と友達でも紹介するように軽く言ってのける。
現にオッドアイ少年が歩けばずるずると後をついてくるその巨大スライムに、人々が息をのむ。中には錬金術で作り出された生命体では?と疑うような掛け声が飛ぶが、オッドアイ少年はにこやかに無視する。そしてそのスライムに炎を鎮火させると、美少年を救い出しお辞儀して見せた。
もっと見たい、そう心から切望したけれど、ルークはその欲求を胸にしまいこみ会場から立ち去る。
最後まで見続けたら牢獄に囚われたラグやミルフィーユに申し訳ないという気持ちが勝り、おまけにフランチェスカ王女が欠席した理由を知り自分も見習わなきゃと思ったからだった。
戦争開始まで一カ月を切る今この時に、めでたいことなど考えられないと自室に籠るフランチェスカ王女は、ユニートやリグ僧侶、キリエ牧師達と共に癒しの呪詛を習得しているという。
「僕も頑張らなきゃ」
聞けばそのほか沢山の知り合いも晩餐会に不参加だった。シランはここしばらくの間忙しいルークの代わりに、ラグの話し相手になることを引き受けてくれ、今晩もラグの側についているという。
ただ錬金術師のカルマは手品を見破ってやろうと意気込んでいる為か、研究室の扉を開いても中は空っぽだった。
さぁやるか!と意気込んで棚から癒しに関する魔導書を引いてしばらくすると、扉の開く音がした。
カルマが帰ってきたのだろう、と振り返らずに静かに薄暗い部屋の一番奥で本の読み時を開始したルークに、聞きなれない声が届く。
「ホントに本ばっかだな。—で、どいつを盗りゃあいいんだ?」