複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照4400ありがとう御座います! ( No.399 )
- 日時: 2014/12/27 18:34
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
046 ミカイロウィッチ帝国ルート
晩餐会は今宵七時半より開始される。だが開始の二時間前にはすでに、会場に押し掛ける招待客であふれていた。
登場と同時に歓声を浴びて城内部へと導かれていく劇団組の二人は、溢れるばかりの人々の波に使用人に化けた仲間を見つけ、ちらりと目で合図する。彼らは人の良さそうな笑みを口元に浮かべ、微笑むように目を細める。
うまくやれよな、そんな無言の視線を交し合った後、二人は拍手喝采の中をすました顔で歩いていく。
晩餐会の催されたホールは広く、高い天井と豪華なステンドグラスが張り込まれた大きめな窓が印象的な所だ。
飴色の分厚い窓からは、入れないというのに淡い期待を抱いて群がる市民の姿と、それを押しとどめる騎士たちの攻防が見下ろせる。
国王の開会の挨拶中、ウィンデルは目を人々の波の中に巡らせていた。
先程の発明家の居候という灰髪童顔少年を見つけることが出来れば、王女を攫った後わざわざ会いに行かなくとも今ここで情報収集ができる。
しかしながら、彼の姿は見つけることが出来ない。ま、いいかと心の中で独り言をいうウィンデル。目当ての王女は何故か出席を拒んだのだが、こちらにとって都合がよい。
本当は王女に手品に参加してもらい、アーリィ・メルキオーゼの使い魔であるドッペルゲンガーとすり替え、幻術で精神を弱らせて拉致する予定だったのだが、不審がられたり申し出が却下された場合面倒事になる。
その点部屋で大人しくしてもらった方が襲いやすい。
「—では皆の者、今宵の晩餐会を存分に楽しむがよい」
国王の挨拶が終わり、王の側近がウィンデルとツヴァイに手品を披露するように声を掛ける。
ワルツを踊るような円形の何もない空間に二人で進み出ると、ウィンデルは思い切り愛想のよい笑顔を存分にふりまく。
「さぁ、それじゃあ皆様!お楽しみください」
舞台に炎が放たれれば、驚いたように人々が目を見張る。炎の渦に囚われたウィンデルが天使の笑みで両手を振り上げれば、その炎の色が七色へと移り変わる。
一体この中で何人が僕の手品のタネをわかってるんだろう、とツヴァイはマッチ片手に辺りに目を向ける。
特定の金属を液体にして炎に投げ込めば、炎色反応が起こり、炎の色が変わる。
そして目の前でぶちまける樽の中身、巨大な紫のスライムには鉄粉が交ぜてあるから、ボクの服の中にある磁石に反応して生き物のようにあとをついてくる。
適当に観客の中にいる人を選び出し水と酒をぶっかけて燃やす手品は、炎のすさまじい熱エネルギーが水を蒸発させる為にほとんど使われて、人の皮膚を焼くほどのエネルギーが無いから熱くないのだ。
その他にも長年使用して錆びた鎧を酒を使って錆を消し去り新品同様にした。
なかでも観客の反応がおかしかったのが、鉄をも溶かす威力のある酸と触れれば皮膚を溶かす水酸化物系の酸を混ぜて、飲んだ時だった。
それがどれほど危険かを見せつけた後に、二つを混ぜてコップに注ぎ、青ざめるウィンデルと共に乾杯して飲み干すと、悲鳴がいくつも上がり、卒倒しかけたものもいた。
そのためか、衝撃的な演目の合間合間に、ウィンデルがぼやくようにツヴァイに呟く。
「危ない橋は渡りたくないよ。特にきみとはね」
まだまだこれからなんだけど、と言えばげんなりするウィンデルに、ツヴァイはにやりと微笑んだ。
そんな猟奇的な演目の裏で、王城の召使いの格好をした5人がそれぞれ行動していた。
不参加の王女と師匠と兄弟弟子を探す幻術師兄妹とアーリィの三人組、王城にあるという魔術研究室より魔術に関するものを強奪するヴィトリアルとリンの二人組。ライヤは偵察を行う身の上から、危険な表舞台には姿を表わせず王女拉致後の脱出ルート、馬車、農民の服を調達している頃だ。
「いーい?王女を捕まえたら黄色の花火。撤収の合図は真っ赤な花火だからね!」
「念のため、王女をとっ捕まえてから一時間以内には撤収するからな?撤収花火を確認したらすぐ脱出しろよ」
別れる間際お互いに念を押しあい、イヴとクウヤが真剣な面持ちで頷く。
イヴとクウヤにとってはこの作戦は4年もの間引き裂かれた師匠と兄弟弟子との再開の可能性を示唆するものであり、彼らの顔には緊張の色が見える。
「よし、それじゃ解散。うまくやれよな」
トレードマークのバンダナを解き落ちてくる髪をかき上げながら団長が言えば、それぞれ何事もなかったように、すれ違うように歩き出しながら解散した。
「ライヤさんの調査によるとここらしいです。魔術の研究室というのは…」
王国のメイド服に身を包むリンが小さな地図から目を上げて言えば、使用人服を身にまとうヴィトリアルがその扉をゆっくりと開ける。
なかは薄暗く、四角く切り取ったようなこの入口の輪郭だけが光源らしい。
四方を囲う本棚に目をやり、本嫌いなヴィトリアルはあきれたようにつぶやく。
「ホントに本ばっかだな。で、どいつを盗りゃあいいんだ?」