複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照4500ありがとう御座います! ( No.402 )
日時: 2014/12/30 01:11
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

047 ミカイロウィッチ帝国ルート



「誰ですか?」
本棚に並ぶ異様に分厚い書物を呆れたように眺めていると、突然薄暗い部屋の奥から声が聞こえてくる。
おおっと、誰かいたのかよ?と、その完璧に気配を消していた人物に目を向ければ、暗闇に小柄なシルエットが浮かんでいる。
誰も来ないと高をくくって机に突っ伏して馬鹿みたいに分厚い本をめくっていたのだろう、突然の来訪者に虚を突かれてびっくりしている。
「こんな所に何か用ですか、えっと…メイドさんと執事さん…?」
だが長時間暗い部屋にいる為、戸惑っているが声からして少年の小さなシルエットはすでに視覚の情報を得てこちらに声を掛けてくる。
まだ目が慣れないリンとヴィトリアルは、相手が何者か把握できていないため無下に行動できない。
しかし、リンがアドリブを聞かせてツインテールを揺らしてお辞儀する。
「上の使いに参りましたが、よろしいでしょうか?」
「あ、えっとご苦労様です」
リンがそう声を掛ければ、そのシルエットが立ち上がってこちらに歩いてくる。
目の前まで来ると相当な童顔の少年で、エディと大して背の高さが変わらない。その少年を見下ろしながら、コイツをどうしようかと目で一瞬会話し合ったリンとヴィトリアルは、だが行動に移す前に質問される。
「どれか本を持っていくんですか?さっき、どれを取ればいいんだっていってたから…」
黙っているとその少年は穏やかにほほ笑みながら二人を見上げてつづける。
「魔力がない人にはどの魔導書がどれだかわからないと思うので、僕が手伝いましょうか?」
(ってことはこれ全部が魔導書か?)
闇に慣れてきたその目を瞬時に走らせて見える部分にある分厚い書物の数を数えれば、30冊程度であり、おまけにこのチビ少年が一冊所持している。
全部を運び出すことはさすがに出来ない。できれば一番使えそうな本を数冊、さらに魔法剣とやらを奪いに行きたい。
リンがどうしましょうか、とこちらを見るので、ヴィトリアルはそのチビ少年を見下ろし人の良さそうな笑みを浮かべて言う。
カモがネギを背負ってきたのなら、とっ捕まえて料理してやるのが礼儀だろうとばかりに、「それじゃあ」と微笑んだ。


ページを開けば全くもって理解できない内容に首をひねれば、そのチビ少年はあぁそれは、と択一説明してくれる。
まるっきり三歳の子どもが乱暴に書き殴った絵のようにしか見えないのに、それは炎に関する呪詛がまとめられている、とか氷の呪詛についてのなんたらかんたらと指でなぞって言ってくる。
「お前詳し—」その横からの解説にヴィトリアルが思わずいつもの口調で言いかければ、リンがそれをかき消すように咳払いして代わりに使用人らしい正しい言い方で言う。
「貴方様はとても詳しいのですね。とても助かります」
「ところで、どの魔導書を頼まれたんですか?」
役に立ってよかったと笑顔になるチビ少年が、すでに机中に半開きで並ぶ魔導書を見回しながら首をかしげる。
部屋にある魔導書の約半分が並べられており、リンによってひそかに属性順に分けられていた。
その言葉に悩んだように腕を組んだヴィトリアルは、ちょいちょいと手招きしてリンに小声で相談する。
「エドウィンは炎属性だったんだよな?レイは風属性であのチビ魔女は、まぁ、もう魔導書なんか必要ないか」
だが相談される側のリンにすれば、シェリル皇女にいきなり偵察に行っておいで放り出されただけで魔術に関する情報どころかレイという人物が誰だか知らないので、小首をかしげるしかできない。
ただ、「エディお嬢様はまだ魔術に目覚めて間もないので、炎属性の魔導書はあった方がよろしいかと」と助言する。
そうだな、と頷き合って小声での会談を終わらせれば、チビ少年はすべての書物を机に積み上げているところだった。
「炎属性と癒し属性についての一番貴重な書物—」
そう言えばさんざん悩み切ったのち、チビ少年はこれかなと三つ程度の分厚い書物を指差す。
それを小脇に抱えながら、ここまで協力したチビ少年に最後の問いを掛ける。
「それから魔法剣を持ってくるように頼まれましてね」
さらりと言えば、チビ少年は分厚い書物を両手に抱きこちらに背を向けたまま少しの沈黙後尋ねてくる。
「隊長のルイさんに頼まれたんですか?」
えぇまぁと返事すれば、少年が笑顔で振り返り、その途端早口で何か告げられる。
途端にすさまじい落雷音が炸裂し、出口の側の本棚が爆発し傾いで出口を塞ぐ。
ライヤの情報網を持ってしても魔法剣の在処は得られなかった。なのでこの人の良いチビ少年を利用できるまで使おうとするが、やはりここまでのようだ。
「帝国の刺客ですね」と物騒な顔をされてしまえばもうやることは決まっている。
リンは開いている手を既にマインゴーシュを握っており、ヴィトリアルは背広の下にベルトで固定した長剣の柄に指を伸ばし引き抜く。
このチビ少年をさっさと料理して、魔法剣を探さなければ。