複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照4500ありがとう御座います! ( No.407 )
日時: 2015/01/03 04:29
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

048 ミカイロウィッチ帝国ルート


魔導書を抱えてこちらを見つめてくるその少年は、魔法で攻撃してきたにもかかわらずあまりにも無防備で幼く見える。
実はリンと同い年であるが、リンの方が背が高くその童顔と相まってこれからヴィトリアルと共に少年を痛めつけなくてはならない事を躊躇させる。
(気絶させてしまえば、痛めつけずに済む…。これもお嬢様のため)
リンは握りしめたマインゴーシュを軽く振りながら、少年の隙を窺うように間合いを詰めるヴィトリアルに習う。
魔法使いと戦うとなると、剣攻撃者は接近戦に持ち込むしかない。とにかく魔法を発動させなければいいのだ。


「おいチビ、お前は魔導士か?魔法使いか?ん、まぁ…喉切っちまえば魔導士でも魔法使いでも同じか?」
小脇に抱えていた分厚い書物を足元にばらばらと落としたヴィトリアルが、片手剣をぶらぶらさせながら場違いのように陽気に尋ねる。
急な問いかけに少年は一瞬なんでこんな時にこの人こんな質問するんだろ?と戸惑いの色を見せたが、黙り込む。
ますます警戒の色を強めた少年は、後ずさりしながら本をさらにきつく抱きしめた。
そして片手でベルトに触れながら、バチバチと音を発しながら何やら早口で何かを唱える。
だが唱え終わる前に、ぶった切るようなヴィトリアルの片手剣の攻撃に身をすくませたように目を見開き、あわてて後方へ逃げるように転ぶ。
だが本を抱えてうずくまり、殺人犯でも見るような目つきで見上げる少年に一撃加えようと剣を翳すその瞬間、思わぬ反撃を食らった。
少年が所持していた分厚い本を、ヴィトリアル目掛けてぶん投げたのだ。
それを体をひねって避けた隙を見計らい、少年が何か叫び声をあげる。
呪詛か何かを唱えようとしたのだろうか、しかし寸でのところでリンが少年を押し倒し、その口を平手打ちの如く思い切り手でふさぐ。
そして後頭部をマインゴーシュの柄でぶん殴ろうと振り上げ、はっと驚きで目を見開いた。
少年が明らかに目の色を変えて、どこから取り出したのか分からない小型の包丁を躊躇うことなくリンの胴体ど真ん中へ突き立てようと振りかぶる。
だがヴィトリアルがリンの襟首を引っつかみ、後ろへ思いきり引いて少年から引き離し、的を失った包丁は床へと突き立てられる。
バチバチ電光がはじける包丁が床を焼き、焦げ臭いにおいが辺りに立ち込める。
「妙な包丁ですね…あれってもしかして魔法剣ですか?」
少年が包丁を床から引き抜き、据わった目でこちらを見る。その光景を警戒しながら見たリンは、その特徴的な電光を発する包丁と寡黙になった少年を見てゼルフに聞いた話を思い出す。
エディを背後から刺して麻痺させた少年。魔法剣を二つ所持していたという。
たぶんな、と頷く言葉にリンも目の色を変える。
「お嬢様を刺した少年が、まさか貴方だったとは」
もう手加減は無しです、という口調で吐き捨てるようにリンが目に怒りを灯して言えば、少年は確信したように目を細める。
心なしか先程より少し大人びたように見える。
「やっぱり、帝国の手先だったんだ…」そうつぶやいた少年はパシパシと音を立てる包丁をゆっくり構える。
迎え撃つようにリンが仁王立ちし、素早く絨毯を蹴り上げ突進する。
包丁のひと振りを避け、ツインテールを揺らしながら少年の腹に膝蹴りを一撃食らわせる。
ぐっと短い悲鳴を上げた少年は、だが素早く口を動かして両手でリンに掴み掛る。
その瞬間上半身に凄まじい衝撃が走り、一瞬思考も何もかも停止する。
声も何も出ない状態で電気が体中を走る感覚に息を呑んでいると、分厚い魔導書が少年の頭目掛けていくつも投げられ、少年が一冊の角をもろに眉間に受けてリンから手を放す。
「電気系の魔導士ってのは厄介だな。途中で切りかかればこっちまで感電だからな」
言いながらも角が尖っている魔導書をあえて選び、ばしばしと少年にぶん投げながらヴィトリアルが面倒臭そうに音を上げる。
「っ!」
仕返しとばかりに本を投げられ、身を縮める少年は包丁をぐっと握りしめ反撃の瞬間を狙う様に部屋の奥へと後退していく。
リンが感電のショックから回復し、ふらつきながら立ち上がり傾いで棚の外れた木枠を掴み上げ、鈍器のように構える。
「それでも、すぐに兵士たちに連絡されては困りますから…倒さなくちゃ」
片手に尖った角の魔導書、片手に木の板を構えた二人組に挟まれ、少年はさらに後退していく。
魔導書が投げられると、少年は本をそっと蹴って更に部屋の隅へ追いやっていく。
その様子をじっと見ていたヴィトリアルは、少年の行動の意味がただ単に本の攻撃を防ぐためだけでは無いことに気付いてにやりと笑う。
「なんかおかしいと思ったら、そういう事か。魔法が使える癖に広範囲攻撃してこないのは、この魔導書も一緒に黒焦げになっちまうからか」
言うなり魔導書を抱えてその数多のページを掴み、「貴重な魔導書を破られたくないなら降参しな」と笑った。