複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照4500ありがとう御座います! ( No.408 )
日時: 2015/01/05 22:20
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

049 ミカイロウィッチ帝国ルート



「ここね」
城の最上階であり最南端に位置する日当りのいい廊下を進めば、大きな両開きの扉が見えてくる。
T字に伸びた廊下には赤い絨毯が流れ、たかが廊下だというのにやたら凝ったデザインの紋章が柱や淡い色のステンドグラスに目立つ。
おそらくカメルリング王家の紋章なのだろう。
「ライヤの地図によればここが王女フランチェスカの部屋で、反対側が王子の部屋らしいわね」
地図をたたみながらアーリィが準備は良い?と言えば、イヴとクウヤは頷き合う。
「ここでミスする訳にはいかないんだ。まだシランと師匠を探せてないからな」
「見つかるよね?」というイヴの小声に、クウヤは力強くうなづきながら扉を三度ノックした。

どうぞ、という柔らかな声に導かれて扉を開けると、そこは風のよく抜ける美しい部屋だった。
全体的に白く、バルコニーと部屋とを仕切って風と踊るレースの長いカーテンがなびく日当りのいい部屋には4人の人物がいた。
皆床にしゃがみ込んでおり、牧師と服装からは職業が判別できない者に囲まれて王女がこちらを不思議そうに見つめている。
扉から彼らまでの距離は結構遠いが、彼らが一冊の大きな書物を囲んでいる様子がよく見える。
「どうなさったのですか?」
居住まいを少し正しながら王女が微笑みを讃えながら言えば、イヴとクウヤは同時に口を開く。
「 カプリコルン 」「 サギッタリアス 」
その言葉に彼らが眉根を寄せる頃にはもうそれぞれの部屋が開き、王女を除く3人の男—牧師と、三つ編みを銀髪にした男と手品師のような紫の服の眼鏡をかけた男—は五感覚を見えない部屋に閉じ込められ、驚いたように辺りに目を向ける。
彼らの視界にはそれぞれ何処か別の場所が広がり、クウヤかイヴが部屋を閉じない限りそこから抜け出すことは出来ない。仮に蹴飛ばされたり声を掛けられたりしたとしても、五感がすべて閉じ込められているために全く気付くことはない。
一方で王女に掛けられた「 カプリコルン 」では、王女の心の中の野望が彼女自身を捕え、彼女は慌てふためくように辺りを見回す3人の男に囲まれながら安堵に満ちた表情で床に膝をつく。
両手を組み合わせて涙目で遠くを見つめ、もう何も心配する出来事は起きないというような表情で彼女は海のように深い色の瞳をそっと閉じる。
涙の粒が柔らかな頬から転がり落ちると、イヴとクウヤの後から扉を開けて入ってきたアーリィが、後はアタシの仕事ね!とピンクの杖を振り上げる。


レースのカーテンからそよぐ風を受けて翻るゴシックロリータ服が白を基調とする部屋でやけに目立つ。
「『ヴェニーテ』!」その彼女が声高らかに唱えれば、幸福顔で涙を流す王女の前に真黒に淡くにじむ魔方陣が出現する。複雑な輪と文字がぐるぐると回転するその中へ、まるで手招きするように手を翳しアーリィは微笑んだ。
「おいでなさい、セイリーン!」
言われればすぐ、影のようにじんわりとしたシルエットが浮かび上がる。
それは身にまとう服のシルエットが少し異なっているだけで、召喚者のアーリィの影そのものに見える。
「へえ…これがドッペルゲンガーか」
表情さえ見て取れないその小柄なシルエットをまじまじと見つめる幻術師兄妹に、アーリィは得意げにほほ笑んでから命令に映る。
「そこのフランチェスカ・ギミナー・カメルリングに化けなさい」
「オッケィ」言われてすぐシルエットがはしゃいだように返答し、徐々に影のように透き通る体が王女の体へと変貌していく。
長くとぐろを巻く薄茶色の髪が床にこぼれれば、そこにはアーリィと目線を合わせて膝立ちする馬号事なき王女が居た。
少し異なると言われれば、その可憐な顔に浮かぶ笑みがどこか飢えたような人恋しさに見える事だけだった。
「完璧でしょ?ねぇ完璧でしょっ?」
おぉとその変身ぶりを見ていた兄妹が関心の声を上げれば、ドッペルゲンガーであるセイリーンはニヤッと笑ってアーリィに顔を寄せ、しつこく問いかける。
それをあーはいはい、と慣れた手つきであしらうとアーリィは人差し指をセイリーンの鼻先に突き付けて一気にしゃべりだす。
これ以上構ってらんないわという態度なのだが、セイリーンはニコニコしながら見つめ返す。
「アンタは王女で、兄と国王夫妻と共にこの城で暮らしてる。平和主義者で強力な攻撃魔法と魔導剣士の素質を持ってるの。属性は雷」
すると王女の可憐な顔で笑みを浮かべていたセイリーンが不満そうにつぶやく。
「今回は爆弾で暴れられないの?」
「アンタは強烈な平和主義者なんだからね?」そのぼやきに念を押すようにアーリィが口調を強める。
「それとここに転がってる男三人組はアンタの付き人で、その銀髪三つ編み男ならボコボコにしてもいいわよ?とにかく最低でもアタシ達が樹海につくまでの数日間は王女の不在がばれないようにして欲しいのよ」
いいわね?と強く言うと、セイリーンは合点と微笑んだ。