複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照4700ありがとう御座います! ( No.417 )
日時: 2015/01/12 01:35
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

殿堂入り記念 番外編032 メイドと騎士と仲介人
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「今日はあのお嬢さん一度も靴を踏まなかったね」
「はい!安心して見ていられるようになってうれしいです!」
そんな会話が繰り広がれらるのは、彼女たちが初めて出会った舞踏会から三カ月程度経過した頃だった。
今宵も開かれた舞踏会で、部屋の隅で並ぶミレアとリンはもう心を許した者同士話に花を咲かせていた。
リンの雇い主である伯爵の一人娘がようやくワルツを踊りこなせるようになり、話したことはなかったけれどミレアもそんな彼女をこの三か月間見守っていただけあって親心のような気持ちを覚える。
もっぱら二人の会話はお転婆だという伯爵の娘の事と同じく傍若無人な皇女を中心に回っており、お互いの仕事の苦労話などに交じって時おり自らの出自などが話題に上っていた。
「そういえば今日はね、私の古い友人が剣の舞に参加するのよ」
なのでミレアのその言葉に、リンはもしかしてと推測を口にすることが出来た。
「そのお方は大戦後に出会ったっていう、二—グラスさん?」
リンの言葉に頷きを返したミレアは、あと数十分後に開始される剣の舞にかなりワクワクしており既にそわそわと大時計の方へ目をやっている。
「ゼルフ・二—グラス、ゼルフはね、見たらすぐわかると思うよ。いっつも仏頂面なんだから」
まぁでもやさしい性格だけどね、と付け加えたミレアは何やら渋い顔になって腕を組み、困ったようにリンにぼやき掛ける。
「ゼルフは良いやつなんだけど、剣一筋の真面目な奴だから鍛錬を欠かさな過ぎて同僚の誘いを断ったりして、クールすぎて怖いやつだと思われがちなのよ!」
損してるのよね、と熱心に唸るように言うミレアを眺めながら、リンはその人はいったいどんな人なんだろう?と首をかしげていた。

大時計がその時刻を知らせれば、ダンスホールから貴族達が自然と退いていく。
退かなければ齢12の幼い皇女がいつも欠かさず握りしめているムチの一撃を食らうことになる。
人形のように愛らしい皇女にムチでぶっ叩かれることに快感を覚える一部の異常嗜好な輩はここにはいないらしく、大人しく空になったホールへと黙々と剣を携えた騎士たちが整列してやってくる。
皆黒騎士団ということで黒い軍服に身を包み、剣の色はそれぞれ柄の部分が騎士団中の階級ごとに色分けされており、その色が暗くなればなるほど腕が立つという証明になる。
ミレアはその整列の中にすぐゼルフを見つけ、リンに肩をぶつけてあれよと顎で示して見せた。
「あの仏頂面の黒髪の奴がゼルフ。すぐわかるでしょ?」
ところがリンからの反応がなく、見ればじいっとゼルフを見つめて沈黙している。
その反応に小首をかしげていると、皇女のムチの合図で黒騎士たちが鮮やかな手さばきで剣を振り上げ剣舞を開始した。
刀身の長い剣が交差すると、重く寒気が走るほどの冷たい金属音が響きわたる。
本当は相当な重量のある剣を長時間振り回し続け、普段なら振り回す範囲を超えるほどの滑らかな動きをするその騎士たちにミレアは深く感嘆し、息をするのも忘れて見入ってしまっていた。
ほんの三十分程度の剣の舞は、同じように息をのむ人々の目前で徐々にスピードを落としながら終幕を迎えた。
きれいにそろう一礼をしたのち、再び黙々と退場した黒騎士団を見送りながらミレアがすごかったねと言えば、あっけにとられたように目をまん丸くしたままリンはこくりと頷いた。
「はい…すごかったです…私も短剣を扱うので同じ剣士として尊敬してしまいます」
「私もあんな風に格好良く舞ってみたいけど、近衛騎士団は皇女様の護衛が第一だからね。できないのよ」
まぁそんなこと言ったってしょうがないけど、と腰に手を当ててミレアが言えば、ちょうど皇女が舞踏会の終わりを告げるところだった。
舞踏会が終わってしまえば、リンと再び会うことが出来るのは次の舞踏会の夜だ。
ちょっと寂しさに襲われたミレアは、思い切って言ってみる。
「今度の週末に、一・二時間でいいから散歩でもしない?私訓練ばかりでリンと話してると気晴らしになるから—」
すると打てばなる様に、リンも笑顔で頷く。
「はい、よろこんで!」


コッコさん今晩は!コメントありがとうございますっ!
メイドと騎士と仲介人は五話ほどの予定です。
いやぁ、書いてて和む!死人が出ない番外編はいいですね!

さぁ 正義はどっち ? 参照4800ありがとう御座います! ( No.418 )
日時: 2015/01/16 00:19
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

殿堂入り記念 番外編033 メイドと騎士と仲介人
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待ちに待った休日の暮時、ミレアとリンは仕事着のまま街に繰り出していた。休日と言えど、彼らは雇われ住み込みの身の上のために、ほんの三十分前まで休日返上でそれぞれの仕事をこなしていた。
そしてようやくの空き時間に、疲れ果てていた二人は街の喧騒から遠い海辺へと足を向けていた。
「あぁー疲れた」
「そうですね…」
もう少し早ければ藍色の海に沈みこむオレンジの夕日を拝めただろうが、来るのが遅すぎたようだ。
既に光を失い、海の彼方からうっすらとその境界線が見分けられる程度の海に、二人して目を向けてため息をこぼす。
するとリンが手に提げていたバスケットを思い出したように掲げ、ミレアに微笑む。
「私お菓子を焼いてきたんですよ」
「ほんと?」
その言葉に疲れ切った表情をぱっと明るく変えたミレアが明るい声でバスケットを覗き込む。
やはり女性というのは甘いお菓子が大好きなのだ。包まれた甘い香りに歓声を上げながら、ミレアはまるで世界一大きな宝石を恭しく抱え上げるように焼きたてのパイを両手で包み込む。
そしてそれにかぶりつくと、感激したように言葉にならない歓声を上げ続ける。
「同僚達にも食べさせてあげたいよ!今日は朝から皇女様が私たち近衛騎士団をあしらいにあしらって…今頃みんな大変だろうなぁ」
それを嬉しそうに眺めていたリンが、「ぜひ、ミレアの友人さんにも食べて頂きたいです!」と朗らかに笑ったその瞬間、ミレアはよし!と立ち上がる。
腰回りに巻いてあるメイド服の短いエプロンにバスケットを乗せ、さぁ私も食べようといざ手を突っ込みかけたリンに、ミレアは口元にパンくずを付着させながらにんまりと笑む。
「よしっそれじゃ行こ!」


あっけにとられたどころではなく、彼女の行動力に唖然としていたリンだったが、気付いたころには引き返すにはもう遅く、すでにミカイロウィッチ宮殿が見えてくる。
渦巻き状に螺旋を描く長い上り坂は、敵襲の戦力をそぐためであり、いわば心臓破りの坂でもある。
登る馬車の馬さえも憂鬱そうに坂を上り、乗客数が多ければひどい時には途中で停車して休憩を挟まなければならないほどだ。
しかしここは通称貴族街。平らな土地には一般市民が住み、坂には貴族たちが暮らしている。
宮殿へ近づくにつれて彼らの階級が上がり、眺めも良くなる。
これもまた、敵襲の到来から遠ざかるためであり、平民たちは貴族の、平民と貴族は宮殿の盾でもある構造になる。
そんな坂を上りきり、ミレアとリンはすぐさま宮殿内の騎士たちの集う部屋へと進む。
どこもかしこもきらびやかで、ここに盗賊が居ればたった一センチ壁を引っぺがしても一年間は遊んで暮らせるぞ!?と驚愕し実際に行動しかねなかっただろう。
「相変わらずすごいですね…こんなところまで手をかけているなんて…」
一歩進めば次から次へと立ち並ぶ精巧な細工の施された廊下や柱に目を奪われる光景に、リンは驚くどころか呆れてしまう。
ミレアは慣れたもので、別に今更驚くこともないよとさっさと進んでいく。
そうしてようやく騎士たちの待合室につけば、そこには疲れ切った騎士たちが長椅子にねそべってぐったりと沈み込んでいた。
「みんなお疲れ様!差し入れがあるよ!」
しかしずかずかとミレアが部屋中央に進み、寝椅子に沈み込む彼らに声を掛ければ、彼らは差し入れぇ?と疲れ切った顔を上げる。
リンがバスケットを小さく掲げて見せると、甘い香りをかぎ取ったのだろう、疲弊しきった騎士たちがゾンビのようにリンに群がる。
「おぉ、ウマそう!」「パイだ!」「やった…!今日遅番でよかった!」
たちまちワンホールのうちほとんどが騎士たちの腹の中に納まり、騎士たちは次々にリンにお礼を言い、やがてミレアの紹介でリンと彼らは友人のように言葉を交わし始める。
やがて時計の鐘が重々しく鳴り響き、リンは騎士たちとミレアに別れを告げてバスケットを腕に提げながら宮殿の外へと歩き始める。
しかし、どうにも内部が広すぎて、歩いても歩いてもたどり着けない。
そうしてようやく、外へとつながるであろう小さな木の扉を見つけ、そっと開けた。


相当古く、さらに相当使われていないであろうその扉の奥は、星に照らされる岩肌の目立つ小道だった。仕方なしに扉を潜り抜けて進めば、開けた風景は息をのむものだった。
せり出しむき出しの岩肌にうっすらと生える植物が潮風に揺れ、岩肌にたたきつける波の音がする。
目の前をさえぎるものは何もなく、あるのは広く見渡せる海と、空だ。
「だれだ?」
そして、その崖のふちに座り込んだ、一人の男が見えた。投げ出した片手には長く切れ味の鋭そうな剣がにぎられており、リンの登場で、まるで構えるように体に引き寄せる。
リンはナイフを構えそうになるが、その男の顔に見覚えがあり、さらにその男がミレアの友人であるゼルフ・二—グラスであることを悟る。
しかしゼルフの方は当然リンの事を知ら無いようで、怪訝そうにメイド?と訝しがっている。
むしろ宮殿のメイドとは異なるデザインのメイド服を着用しているのだが、それすらも気付いていないようであった。
「ここには掃除するようなものはないぞ?」
そういうゼルフに、リンはそうですか、と言って踵を返そうとするのだがふと目を落とすとバスケットに残る3切れのパイが目に映る。
ちょっと怖そうな雰囲気のゼルフにおずおずと、しかしミレアからさんざん良いやつで雰囲気で損をしているだけの男だと聞いていた為、勇気を振り絞って声を掛ける。
「ゼルフさんですよね?私、ミレアの、友人です。これ食べませんか?」
ぎろりとした鋭い目で見られていた為おどおどした調子になったが、ミレアの名前が出てくると彼の視線の鋭さがそがれた気がした。
しばらく黙り込んでいたゼルフは、リンをひとしきり眺めた後、思い出すようにゆっくりとつぶやく。
「—ひょっとして、メイドの、リン…か?」
リンが驚いて頷けば、「ミレアがよく話して聞かせてきたからだいたいのことは知ってる」と続ける。
そして、「ミレアを構ってやってくれてありがとう」とほんのちょっとだけ微笑みを浮かべて見せた。
その笑顔に衝撃を受けながら、なるほどこれはミレアの言う通りだとリンは納得して彼に近寄り、バスケットを彼に差し出した。
出会い頭はこのまま殺されるのではないかというほど怖い雰囲気だったのに、今では安心して側にいられるほどの雰囲気を醸し出している。
「これは…?」
「ミレアに作ってあげたパイの残りです。ミレアの同僚さんにもおすそ分けして、余った分ですけど。よければ食べてください」
バスケットを受け取り中身を眺めた後、不思議そうに尋ねるゼルフにパイを薦める。そうか、なら、とバスケットを膝にのせてパイを取り出したゼルフは、一切れをリンへと差し出す。
リンはそれを受け取り、ゼルフの横へ並ぶと一緒にパイを食べだした。
「うまいな」
「ありがとうございます!」
そんなたわいない言葉しか交わさなかったが、何となく孤高なオオカミや犬が撫でるのを許してくれたかのような気分に浸り、リンは少しうれしくなった。
一つ残ったパイを半分こしながら、リンは黒い海を眺めながらゼルフに声を掛ける。
「ところでこんなところで何をしていたんですか?」
「剣の修行。訓練場ではあまり集中できないんだ。もともと、小さい頃から自然の中で鍛錬していたからかもしれない」
言いながら、今度はゼルフが首をかしげながらリンに問う。
「なぜこんなところに来たんだ?」
言われてリンが道に迷って適当に扉を開けたらここにたどり着いた経路を説明すると、ゼルフが立ち上がり、それじゃ城門まで送ってやろうとまたほんの少しだけ微笑んだ。






ゼルフさんとリンさんのやりとりに何故か萌える自分がいる…
そして参照4800感謝します!
期末テストが発生してくる頃なので更新がのろくなります…しかし二月ごろには終わるのでまた一日一更新を保持できそうですね!