複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照5000ありがとう御座います! ( No.423 )
- 日時: 2015/02/02 17:36
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: A1qYrOra)
殿堂入り記念 番外編035 メイドと騎士と仲介人
———————————————————————————
たどり着いた館には庭仕事をするメイドが数人おり、庭先に可憐に花を咲かせた植物の剪定やら水やりやらをしていた。
その中に、リンは居た。
「あちゃー、リンは今日仕事ってわけね」
遠目からでもわかるメイドたちの仕事具合を眺めながら、ミレアはせっかくのチャンスなのにと頭を抱える。
しかし今日はどういうわけか女神に微笑まれたようにつきが回ってきたらしい。
しばらくすればメイドたちが笑い合いながらバスケットを片手にわらわらと館から出てくるではないか。
「じゃあ、私たちの買い出しはこっちだから—」またね、と数人のメイドたちが1人市場や店の方向とは別の海へ足を向けかけるメイドに声を掛けて手を振る。
それに手を振る彼女こそ、待ちわびたメイド、リンだった。
リンは茶色のバスケットを少し重そうに揺らしながら歩き、その足を海辺へと向けて進んでいく。同僚も誰もいない道を見回し、ミレアはよし!と心の中で叫ぶ。
そこですかさず「いくわよ!」とゼルフの腕を引っつかみ、リンの前に飛び出した。
「ミレア?ゼルフも…いったんどうしたんですか?」
急に思いもよらない人物の襲来に、最初ひったくりか何かかと思ったらしくナイフをポケットから取り出そうとしたリンが、驚きに声を上げる。
「お前に会いに来た」とここでゼルフが言えば完璧なのに、と思いながらもミレアは二人とも任務が休みになり、リンに会いに来たことを告げる。
「そうなんですか」嬉しそうに笑うリンだったが、彼女は今日は休みではないらしく今はお遣いの最中らしい。
それじゃあ邪魔ちゃ悪いかぁ、せっかくのチャンスだったのにとすごすご尻尾を巻いて引き下がろうとするミレアに、リンはよければと誘い掛ける。
「私のお遣いというのは、海辺へ行っているお嬢様へ届け物をすることなのです。たいていその後延々と絵を描くお嬢様を無言で眺めているだけなのですが…よろしければご一緒しますか?」
「え、いいの?」
虚を突かれて目をぱちくりするミレアに、さっそく海へと足を向けながら、「黒騎士と皇女様の近衛兵が居てくれると、安心ですから」とリンは朗らかに笑う。
たどり着いた場所はロマンチックなところだった…もしもその人物が野性的な人ならばという意味では。
断崖もいいところ、穏やかな波のうねりを遠目から恋人と一緒にうっとり眺めるなんてもんではなく、荒波が砕け散り浜辺へと繰り出してくるものにきつい波の一撃を食らわせるようなところだった。
イメージと全然ちがうじゃない、とげんなりするミレアの視界にキャンバスを小脇に抱えてぼうっとしけた海を眺める少女が映り込む。
ぎざぎざの牙のような岩に囲まれて、絵筆を力なく握っている少女は毎回舞踏会に足を運ぶ例のお嬢さん。こちらに気が付くことなく海へ視線を投げている。
このまま放っておいたら海に身投げするんじゃないかというほど一心に海を眺めるのだが、リンは優しげな笑顔で彼女の方へ歩いて行った。
遠目からリンがお嬢さんに絵具のチューブか何かの一式といくつかのマフィンを手渡しているのが見え、受け取った少女は少しだけ笑顔になった。
「実は今日伯爵様とお嬢様が喧嘩をなさいまして。それで少し落ち込んでいるのです」
少女から離れた所へ三人雀の子どものように並んで座り、波の音にかき消されないように声を貼りながら会話する。
波の音がすごすぎて、少女の耳が獣並によくなければこの会話は聞こえないだろう。
「それで今日はマフィンなんだな」
ゼルフが差し出されたバスケットから取り出したマフィンを少し掲げ、つぶやいた。
どういうわけで今日がマフィンなのかわからないミレアだったが、自分の知らない話を、リンとゼルフが二人で共有している事実にうれしくなる。
「そうなのです」
リンが頷き、自分もマフィンを取り出して光にすかすように少し眺める。
そんな二人を眺め、もう少し押しがあれば…とミレアは若干もやもやしつつも口元に笑みを浮かべてマフィンを頬張る。
この二人を見ていると、やはり心の底からお似合いだと感じる。
このやり取りを飽きもせず眺めるのもいいかも、と思いながら今日行こうと予定していた喫茶店やら恋人たちに人気なスポットを頭の中でぽつぽつと浮かべてみる。
でもまぁリンが仕事だししょうがないか、次の時にでも二人を連れてってあげようとしぶしぶかき集めたデートスポットを頭の中にしまい込み、一秒一秒消費されていく自分の休日をかみしめていた。
その時刻が来たとき、ミレアは大当たりだわと思わずにはいられなかった。
まるで最初からお膳立てされたように、辺りの雰囲気が徐々に美しく変化していく。ぎざぎざの牙のような岩たちは赤く染まり、のたうち回る様にうねる海は大人しく息をひそめはじめ、冷たい金属のように曇っていた灰色の空は雲があるからこそ美しく赤い夕焼けを受けて言葉も出ないほどに綺麗に染め上げられている。
赤い光の中で、少女が立てたキャンバスと少女の黒い影だけがぽっかりと浮かび上がり、どこか不思議の国へ迷い込んだみたいに感じる。
「綺麗ですよね、ここ」
ゼルフやミレアが言葉を失っていれば、リンが口を開き、二人を嬉しそうに振り返る。
「あぁ、本当にきれいだな…」
ゼルフがゆっくりとうなづきながら小声でつぶやいた。波のうねりが静まったおかげで、その小さな声が聴きとれる。
その目がこの光景を心に永遠に焼き付けようとするようにすべての輪郭をなぞる様に動く。
「私、ここが好きなんです」
「俺も好きだ」じっと景色から目をそらさずに、ゼルフが頷きながら言う。その様子を嬉しそうに眺めながら、リンが繰り返すように小声でつぶやく。
「はい…私も好きです」
そうして、二人して顔を合わせて、ちょっと照れくさそうに笑い合う。
その光景を見て、ミレアはまったくこの二人はと思いながらも、やれやれと首を振る。
今まで自分があくせく策を巡らせて二人をどうにかくっつけようと頑張ってきたのが無駄じゃないか、と微笑みながら美しすぎる景色へ独り言ちる。
はたから見れば二人のやきもきする無駄なやり取りは、当の本人同士にとってはどれも大切なやり取りだったらしい。
結局この二人は、放っておいたって二人でどうにかできるのだろう。私が無理に引っ掻き回せば回すだけ、成就するのも遅くなるんじゃないかな?とミレアは胡坐をかいて頬杖をつく。
真っ赤な景色がやがて夜に溶けていき、その姿が跡形もなくなるその時まで、誰一人その場を離れる者はいなかった。
あの後すぐだっただろうか、二つの驚きがミレアに元へ転がり込んでくる。
結局その夕日を境にリンとゼルフはどちらからともなく恋人同士と認識したらしく、ミレアのまねをして二人に世話を焼く1人が二人の関係をからかったところ、驚いたように「もう恋人同士だけど」という発言をしたという。
あの夕日に対しての「好き」という言葉が彼らにとっては告白と同等の物だったらしく、ミレアは頭を抱えたものの待望の恋人になってくれたようで何よりだと、もうそれ以上突っ込むのをやめた。
そしてあの奇跡の休暇を作ってくれたかわいそうな皇女の新たな獲物というのが、なんとゼルフの妹、レイ・二—グラスであったという事だ。
大戦で生き別れたものの、黒騎士という兄の噂らしきものを聞きつけてやってきたところ、旅中での戦歴をかぎつけた皇女により半ば拉致されるように連れて来られたという。
レイは兄に恋人ができたということに目を丸くしていたが、すぐにぺこりと頭を下げて「兄をどうぞよろしくお願いします」とすぐにリンを受け入れたようだった。
「どうしたんだミレア?」
ふと声を掛けられて、ミレアは物思いから醒めたように目の前の二人へ視線を向ける。
幸せそうな二人を眺め、ミレアは酒のジョッキを掲げて何でもないわと首を振る。
「ちょっと今までの苦労を思い出してたのよ。いろいろあったからさ」
何の苦労?と小首をかしげる彼らを笑い飛ばしながら、ミレアはそれじゃあいろいろと乾杯しましょとジョッキを掲げる。
リンとゼルフは首をかしげていたが、それでも微笑んでグラスを掲げた。
「じゃあ乾杯っ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
番外編 メイドと騎士と仲介人 終
やっと期末テスト終わりましたっ
そして番外編も終わりました!実は一度書き上げてたんですが、内容が何となく気に入れなくて書き直したんです。
でも書き直してよかったと思うような出来になってよかったです!
どうしてもゼルフさんが告白するシーンが想像できなかったために、こういう「夕日好き告白」になりましたが…これもこれでありだとry
ありがとうございました!
っというか、参照5000超えましたね!ありがとうございます!番外編フラグはですね…ちょっと折らせていただきますっ←
これからは時間が取れるようになったのですが、本編の方をいい加減に行こうと思うので、5000の記念は本編終了後か何か、きりが良くなったときに立てさせてもらいますので!