複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照5000ありがとう御座います! ( No.426 )
日時: 2015/02/03 19:10
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

カメルリング王国ルート 052


目の前に転がっているのはあの二人組ではなく、正真正銘の王国の使用人らしく、びりびりと痺れながら床にうずくまっていた。
その恐怖で見開かれた眼は、なんでこんな目に?といまだに状況が理解できてい無いようで、ルークも同じ気持ちだった。
大きく切り裂かれたように開け放たれたぎざぎざの出口から廊下の先を首を巡らせて見回すも、あの二人組はどこにもいない。赤い絨毯に木くずが散らばり、あの電撃を喰らって痛めつけられた魔導書の焼け焦げた切れ端とまじりあって散っている。
それを踏みつけながら、ルークはため息をつく。
ほっとしたのもあるが、帝国の差し金に逃げられてしまった。魔導書を犠牲にしてとった行動がこれでは無駄になったかもしれない。
「…っと、ごめんなさい!だいじょうぶですか?」
そこではっと我に返ったルークは、あわてて不慮の事故とは言え自分が感電させた人物へと顔を向ける。
その使用人は声を上げられ無いようだったが、それでも少し痙攣しながらゆっくりと頷いてルークの手を取り絨毯に腰を下ろす。
「本当にごめんなさい。敵かと思ったので…」
「お—とが…聞こえ…て」使用人は時おりしゃくりあげるように体を震わせて体内に走る電撃の残滓をやり過ごしていたが、そのせいでうまく舌が回らないらしい。
けれど、ルークの起こした放電による爆発音を聞いて何事かと様子を見に来たらしいということはわかった。まだ感電でふるえる使用人をすまなさそうに見つめながら、ルークは思い立って研究室の中へ走る。
「僕はまだ癒しの呪詛は勉強したてで…上手く使えるかわからないけど」
言いながら、研究室の床に散らばる魔導書を一冊一冊かき集めて地属性についての魔導書を探す。
その中で一番早く見つかった地属性の魔導書を開き目的の章を高速で斜めに読み解きながらふと、背筋の凍る思いがして背後を振り返る。
地属性の魔導書…なんかいつもより少なかくなかったか…?
慌てて机の上に積み上げられるだけ魔導書を積み上げ、数を数えて息をのむ。
数冊が破れたり焦げ付いたり、ページに切れ込みが入っていたりしており、綴られた文字たちの動きが弱弱しく渦巻いていたが半分以上の魔導書はかろうじて原形をとどめていた。
しかし、数が足りないのだ。

 どんなに数えても29冊。慌てて使用人に駆け寄り、問い詰めるが感電のせいで頷いているんだが否定しているんだかよくわからず、ルークは焦りながら手元にある魔導書を開き目当ての呪詛を探す。
それはささやかな癒しの呪詛だが、焦っていたこともあり読み解くの手間取ったが、ようやく数分後その呪詛で麻痺を癒す。
「『チェロット』」
「‥‥」
ささやかな癒しにより、麻痺が体からほぐれるように取れていき、使用人はぶるっと体を震わせて脱力した。
そして口もきけるようになり「どうも」と頭を下げる。いえいえ悪いのは僕ですから、と受け答えしながらもルークはすぐに本題に入る。
まずいことになったかもしれない、と心臓が急き立てるように激しく動き回っている。
「逃げていく二人組を目撃しましたか?彼らは分厚い本とか持ってました?むしろどっちへ逃げたんですか?」
やつら、帝国の差し金みたいなんです。だから早く何とかしないとまずいことに…とせかせば、使用人は廊下の先を指差してあっちへ行った、と声を詰まらせながら言う。
「本は持ってたか…思い出せないんです。飛び出してきた人があんなに血まみれだったんで…」
よしあっちだな、追いかけようと意気込んでいたルークはその言葉にえっと声を上げて思わず使用人を凝視してしまった。そしてすっとんきょうな声で聞き返す。
「血まみれ?」
「はい。その絨毯にも痕が…」
使用人は座っている絨毯の一部を指差してみせる。確かによくよく見れば、不可思議な色の斑が絨毯に転々と付着している。
それは一部分を見れば大したことないのかも、と思える量なのだが、それが延々と雪に記す足跡のように続いているのだ。
「…ありがとうございます。僕は彼らを追うので、すぐ敵の侵入を誰かに伝えてください…」
言い捨てて、その血の跡を猟犬のようにたどりながらルークは走り出した。