複雑・ファジー小説

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照5000ありがとう御座います! ( No.429 )
日時: 2015/02/04 18:33
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

カメルリング王国ルート 054



「花火の音ですね」
何の音だろ?というシランの声に、牢屋の鉄格子を両手で握り締めながらラグが耳を澄ませながら言う。
「へぇ花火かぁ。そういえば晩餐会の余興に芸人が来てるんだっけ・・・」
思わず反射的に頭上を仰いでシランが牢獄の床に胡坐をかく。
唯一の光源といっていいほどのつたないカンテラの灯りが、かろうじて天井の存在を教えてくれる。その分厚い壁を通り越して、重たい音の炸裂音と人々の歓声が聞こえてくる。
城の地下にある牢獄にまで聞こえてくるなんて、結構大きな花火だなぁ。
「ご主人様は以前、火薬を発明なさいまして。その時に花火のことも一緒に研究されていたので、よく目にしました」
ラグが主人との思い出を、まるで温もりを求めるように、喋ればしゃべるだけ自分自身が温まるかのように一生懸命思い出して話す。
大切な人々、師匠や弟子仲間との予期しない別れを経験したシランは、ラグの心境を容易に想像できるため、穏やかな笑みを浮かべて頷いて話を聞いてあげている。
誰しも大切な人と離れ離れになれば、その思い出にしがみつきたくなる。ひと時も忘れることなどできはしないのだ。
考えるのをやめれば、胸を焼き焦がす激しい痛みに襲われる。その痛みは物理的ではないものの、命さえ奪いかねない重苦しい痛みだ。
それを四年もの間抱えてきたシランにとって、ラグの気持ちは痛いほど分かる。
鉄格子の隙間に手を滑り込ませ、すっかり冷え切って小さく震えるラグの肩に手を置きながら、シランも願うようにつぶやく。
「だいじょうぶ。またきっと再会できるよ」

赤いカーテンが開かれ、夜空が縦長に切り取られた大窓がいくつも並び、それぞれの空に黄色の鮮やかな花火が踊る。
「ほぉー、見事ですなぁ」「綺麗ねぇ!」「あれだけの量となると相当な手の込みようですね」
晩餐会の会場にいる者達が口々に歓声を上げてその花火たちを見つめて色めき立つ。その会場内で警護に当たる—といってもほぼ観客の一人になりつつあるが—ツバキは懐かしそうにその花火を眺める。
花火といえばツバキの出身国である和の国でも名産品で、夏になれば祭りに欠かせないものだ。その中でも特に線香花火がすきなのだが、西洋にはどうやら無い様で、そのたびに文化の差異を感じていた。
「ここは眺めがいいですね」
と、隣に立つ白い鎧を身にまとうラルスが声をかけてくる。白騎士団長のラルスと傭兵団長のツバキは部下達の合同試合などでも面識があり、ツバキにとって異教徒仲間リグ僧侶と部下であるが慕ってくれているノイアーやジョレスに順ずるほどの親しい人物だった。
「ここなら花火と同じ目線だから首が痛くならない」
ラルスが満足げに言うが、ツバキは首を傾げて言う。
「わっちは見上げる花火の方がすきでありんす」言いながら、真正面できらきらと散る花火を凝視し、何か物足りなさを感じる。
「それに、花火は建物の中からではなく外で見るもので、外の暗闇に咲くからこそより花火が美しく感じ取れるのです」
そんなツバキを不思議そうに眺め、ラルスはでもと声を上げる。
「外に長時間突っ立っていたら虫か何かに刺されるし、第一あの爆発音がうるさいじゃないか」
ラルスの言葉にこれが西洋と東洋の違いか、と笑みを浮かべながら椿はやれやれと頭を振る。
もしいつもネガティブなことをつぶやくリグ僧侶がいれば、「長時間外に突っ立っていたら風邪を引くかもしれない。風邪は万病の元で死ぬこともあるんですよ」と付け加えるに違いない。
「あの胸をたたくような音と、火薬と煙のこげた香り、時には虫に刺される・・・それすべてが花火を楽しむということでありんす」
和の国の楽しみ方を伝えれば、ラルスは和の国って不思議な国だなぁと渋い顔をした。

その頃和の国的な花火の見方をしている人物がいたが、まったく持って楽しめていないように見える。
それもそのはず、歓声を上げて興奮する暴徒と化した平民達を怒鳴りつけながらの花火見物ほど楽しめないものは無い。
むしろ、うるさいし火薬くさいしあがればあがるほど平民達が熱狂するからさっさと消えろ!と心の中で思うほどだった。
「もう我慢できないぞ!お前ら鎌でずたずたにされたいのか!」
人々の暴走は門番と配属された騎士の数人では抑えきれず、たまたま休暇中付近を通りかかったノイアーとジョレスなどの数人の傭兵や兵士までが犠牲となる羽目になった。門が閉ざされているというのに、熱狂する市民はその鉄格子にしがみついて動物のようにがんがんと揺らす始末だ。その熱狂振りは恐ろしい。
「今日は休日だったのに何でこんな目に・・・」ジョレスも青筋を浮かばせつつ、ぐったりしながらぼやく。
と、人々の波の向こうに馬四頭引きの馬車がこちらにやってくるのが見えた。
馬に耳栓でもしているのだろう、普通なら花火の爆発音で馬が暴れ狂うはずである。
「おいなんだぁ?まだ晩餐会は終わってないぞ?誰か貴族でも帰るのか?」
ぼやきつつもここで馬が暴走されてはひとたまりも無いので、大門から隠れるように存在する守衛用の隠し扉からこっそり抜け出て、興奮しまくる人々の波を窮屈そうに通り抜けながら、御者に声をかける。
「晩餐会はまだ続いてる—」
「コレは失礼いたしました」
若干イラツキ気味のジョレスに、御者はフードで隠れた顔半分で微笑む。
じゃあ引き返せといわれる前に、御者の男は御者台から降りずに続ける。
「私は晩餐会の芸人の迎えでして。この熱狂振りでは芸人が無事に帰れそうもないため迎えにあがったのです。馬車に乗りさえすれば熱心な観客からも無事逃げ切れそうですし・・・貴族の連中だと思って彼らも気付かないでしょうし」
どうです?と微笑む御者に何か薄ら寒いような気持ちになるが、ジョレスは辺りを見回して納得する。
この熱心すぎる観客を前に芸人達が出てきたら、もみくちゃにされて騒ぎは更に大きくなり収拾がつかない。
貴族連中の馬車にまぎれて出て行ったあとで、芸人が帰ったことを知らせればまだ収拾がつく。少なくとも国王の招いた芸人は怪我をしないで済むだろう。
しっかし、馬車のために門を開けるとなると、城へ暴れまくる群衆が押し寄せるが・・・。
腕組みしてしばし考えた後、ジョレスは頷いて王族の身内でしか乗り入れられない特別な門へと城の内部へと馬車の入城を受け入れた。
「悪いな、ちょっと迂回してくれ。今から王族用の門へ案内する」
言いながら、御者の隣に乗り込んだ。




053の、名前のうしろの数字がおかしい・・・?