複雑・ファジー小説

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照5100ありがとう御座います! ( No.431 )
日時: 2015/02/04 20:30
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

ミカイロウィッチ帝国ルート 051



「おい大丈夫か?」
床にうずくまり小さく縮こまるリンに声をかけながら、カーテンを破りとる。
あのチビガキが攻撃してくる可能性は考えていたが、予想を越える痛手を喰らったかもしれない。
花火の合図に一瞬気をとられたとき、チビ魔導師が人質の魔道書もろとも攻撃し、突然の爆発で何がなんだかわからないうちにリンが血まみれで横に倒れていた。
まぁ目当ての品のひとつは取ってこれたが、と床に転がしてある魔道書に視線を投げつつカーテンで長い包帯を作り上げ、リンを見下ろす。
今のところ出血はたいしたことないが、わき腹に刺さるささくれた木片を早いこと抜き取らなければ、血管に木屑が流れ込み、心臓に達すればそのまま死ぬこともある。
「血の痕で追いかけてくる可能性があるからな、止血するぞ」
「・・・・・・」
無言のリンは両手で押さえていた傷口から手をどけ、赤く染まるその両手で木片を握りしめる。
震えながら木片がばらばらにならないように引き抜いたリンは、そのままの勢いで血にぬれる木片を後方へ投げた。
血がどっとあふれる傷口に切り裂いた絵画のキャンバスをかさぶた代わりにして包帯カーテンを縛り付けるように巻きつければ出血はだいぶ収まった。
「魔道書があるから、エドウィンに治療してもらえば怪我の痕は残らないだろ。ただ、応急処置として縫う必要があるかもしれないけどな」
ツヴァイが白衣を取り戻せば、そのポケットからいつも所持している薬品やら針やらで手術をしたがるかもしれない。
「さぁ、さっさと集合場所に行こうぜ」
窓を開け放しながら言うヴィトリアルが言えば、リンが痛みをこらえてゆっくりと立ち上がる。
「魔、法剣は・・・回収できませ、んでしたね・・・」
窓枠に近寄りながらリンが言えば、ほらさっさと降りろと促しながらヴィトリアルが難しそうな顔をした。
「魔術師相手じゃかなわないからな。魔道書が手に入っただけマシだ」リンがゆっくり窓枠を越えて見えなくなると、帝国の手先は完全に逃亡し城内にはいないと見せかけるために窓を開け放ったまま、ヴィトリアルも窓からぶら下がって地面に落ちた。
目指すはライヤの馬車だ。


二度目の花火の音が耳に届き、タイムアップに伴い途方にくれながらイヴとクウヤの幻術師兄妹は廊下をとぼとぼ歩いていた。
と、前方から突然声をかけられて不思議そうな顔をしながらその人物を向かえた。
「よかった、晩餐会でほとんどの使用人がそっちに回っていたからなかなか人が見つからなくて・・・」
その人物はこの王城の使用人の一人らしく、現在イヴとクウヤが身にまとう使用人の服と同じものを着ていた。
「どうかしたのか?」
師匠ソーサラーと弟子仲間シランを見つけられなかったことによりやりきれない無力感に囚われるクウヤが、興味なさそうに口を開く。
イヴは後方を振り返ったりと、うつろな眼で廊下の先にふと待ち人が現われないかと探しているが、期待はしていないという顔色だった。
「帝国の手先が侵入したらしいんだ。二人組みで・・・」
「捕まったの?」すかさず口を開いたイヴの言葉に、使用人は首を振りかけ、そのまま首を傾げた。
「重症みたいだったからな、今頃捕まったかも?魔法使いみたいな人に追われたからすぐ捕まるだろうし、それで—」
「重症?!」
言いかけた使用人の声をさえぎるように、クウヤが慌てたように思わず叫ぶ。
そして口をつぐみ、ざまあみろだなと付け足す。
帝国の手先の心配をするのかこいつ?というように奇妙な顔をしていた使用人が、まぁいいかと頷いて先を続ける。
「それで帝国の手先の侵入をみんなに報告しなくちゃいけないんだ。手伝ってくれないか?」
「・・・私たちのほかに手伝ってくれた人はいるの?」
イヴがじっと使用人の顔を見つめたままたずねれば、使用人は首を振る。
「皆出払ってて見つからなくてね。君たちが最初だけれど—」
その先まで言わせずに、イヴが口を開く。
「 サギッタリウス 」
途端に使用人がはっと目を見張る。
彼の目の前にはどこか別の情景が移り、その五感すべてを幻術に囚われ、もうすでにこちらの声も届かない。
そのまま彷徨える人物のようにふらふらと歩き出す使用人に、イヴは最後の望みなのだと、小さなマスコットをくくりつける。
「私は師匠やシランに・・・会いたい・・・。コレを手がかりに私たちが近くにいることを知って、探していることも知って欲しい・・・」
くくりつけたマスコットはイヴが縫ったシランと師匠のマスコット。
ふらふらと遠ざかる使用人の動きに合わせてゆれている。
「またチャンスはあるよね?兄さん・・・」
遠ざかるマスコットに願いを込めながらつぶやけば、クウヤはイヴの両肩に手を置いてさぁ行こうと言うように歩き出しながらゆっくりと頷いた。


ちょっと修正