複雑・ファジー小説

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照5300ありがとう御座います! ( No.443 )
日時: 2015/02/08 18:53
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

カメルリング王国ルート 057


 「なんか騒がしいねぇ」などと会話していると突如あわただしい靴音がいくつも聞こえてきて、鉄格子の向こうへ目をやっていたシランはとっさに立ち上がる。
夜遅い地下深くの牢獄に人々の慌てた声が反響して、恐ろしい化け物の声のように聞こえる。
「一体なんですか・・・?」
鉄格子にぎゅっと捕まっていたラグが怯えた顔でシランを見上げる。その不安そうな顔にわからないと首を振って、背中に背負う薙刀に手を伸ばし構える。
けれど現われたのは敵ではなく、単なる王国の騎士たち。手にカンテラを下げて、シランの姿を見つけるとすぐ駆け寄ってきた。
「幻術師殿、ここに不審者は来ませんでした?」
不審者?と腕を組みながらシランは不思議そうな顔をして首を振る。
「見てないけど・・・」
騎士たちは立ち並ぶ牢獄へ一通りカンテラの明かりを向けた後、ポケッと突っ立っているシランに事情を説明し始めた。
 「ルーク様が?お怪我は・・・?!」
ルークが帝国の差し金らしき二人組みと一線交えた、と聞いてあわてて牢獄の中からラグが声を上げる。
騎士は困ったようにカンテラの灯りをあちこちへと向け、誰かを探しながらシランに話を続ける。
「怪我はしてないが、盗まれたものがあるらしくて。それに、魔導団長様達3人が失踪してしまったのです」
「ユニートさんと・・・?後は誰?」えっと声を上げながらシランがたずねれば、キリエ牧師、リグレット僧侶の二人も失踪したと告げられる。
「王女さまのところに行ってたんじゃないの?」
「晩餐会開始三十分ほどは共にいらしたそうですが、それからは別行動だったそうで・・・王女様のお部屋にも三人方はいませんでした・・・」
ふーん?と首を傾げるシランは、どうしてもあの三人組が王女のもとを離れる様には思えず、信じられない。
しかしそれなら、と思い付きを手当たりしだい言うように鉄格子に寄りかかって言う。
「じゃ、修道院跡地にでも行ってるんじゃない?」
しかしすぐにそれはないと首を振られる。「門番は三人を見なかったと、そう言っていましたので城のどこかにいるはずなのですが」
実に不気味な失踪事件だ、とばかりに騎士が顔をゆがめる。
そして少し疲れたように肩を落とすと、それではとカンテラ片手に来た道を戻ってゆく。
「我々は捜索を続けなければなりません」
そして消える際に、帝国の血まみれの二人組みが城を抜け出たところも門番は目撃していないので、気をつけてくださいと忠告して去っていった。


「へぇー・・・賊の侵入だってさ。魔道書盗られちゃったね」
騎士たちを見送った後、鉄格子のそばに座り込んで驚いたようにシランが言えば、ラグは不安でたまらないと頷く。
「まだ城内にいるのでしょうか?」
「さあね。ここには来やしないだろうけどさ」
人事のようにさらりと言ってのけるシランだったが、こつ、こつ、と響いてきた突然の足音に呼吸を潜める。
「・・・・・・」
ラグも気付いた様で、怯えたような表情で暗闇を凝視する。
と、牢獄の門番が靴音に気付いた様で、なにやら会話のやり取りが聞こえる。
「こんなところで何をしている?・・・おい、聴いているのか・・・?」
と、
段差に気躓いたような音がし、床に派手に転がる音がする。
一体なんだ?と首を伸ばして門番の方を凝視するシランだったが、ラグのいる牢獄は入り口から曲がったところにあるため、音しか聞こえない。
だがやがて、うろたえるような恐がるような声が聞こえてくる。
「どうしたの・・・?」
シランは思い切って薙刀を構えながら門のほうへ歩き出し、そこで床に倒れる人物と、それを見下ろして気味悪そうにしている門番を見つける。
「あぁ、幻術師様・・・」シランの存在にありがたいと微笑みながら、門番は足元に転がる使用人のような服装の男を指差す。
使用人のような服装の男は、仰向けに転がっても尚なぜか両手両足を突き出して歩くような仕草をし続けていて不気味だ。
「たぶん、酔っ払いですよ」
言いながら乱暴に肩をゆする。おきろと怒鳴りつけられても夢遊病のように足を動かし続けている使用人は、目を覚ます気配はない。それどころか、目は開いていて、うつろなゾンビのようだ。


「気味悪い奴だ。・・・・?」
と、門番がその不気味な使用人の腰に手を伸ばし、小さな人形をつまみあげて顔をしかめる。
「のろいか何かの類か?どう思います幻術師様?」
そんなわけないだろ?といわれると思ってか冗談交じりのつもりか、乾いた笑みを浮かべながら門番がその小さな人形をシランのほうへ突きつけると、シランは唖然としてその手から薙刀を取り落とした。
「ちょ、っと・・・まってそれ・・・」
言いながら落とした薙刀をまたぎ、必死に手を伸ばす。
半ば奪い取るように門番から人形をひったくると、信じられないと目を見開く。
「うそだ・・・僕のじゃない・・・よね?」
右手で二つのマスコットを握り締めながら、左手で腰のベルトに結わえる三つのマスコットを取り外して膝を付き、床に並べる。
包帯の巻かれた二つのマスコットと、作った覚えのない自分自身を模したマスコット、そして自作した大切なイヴとクウヤを模したマスコットの五つが仲良く並び、シランは絶叫しそうになった。
「うそだろ、血まみれの二人組みって・・・!そんなことないよな?!」
五つのマスコットを抱え上げ、殴りかかる勢いで夢遊病状態の使用人の胸倉をつかみ、壁にたたきつけるように無理やり立たせる。
十秒ほどにらみつけた後、その仕草や状態などからその男が幻術に掛かっていることを仮定し、小さくつぶやく。
「 火の第九室 解除 」
その言葉が吐かれればすぐ、夢遊病状態の男ははっと目が覚めたように辺りを見回し始め、胸倉をつかみ上げられて壁に押し付けられるこの状況が理解不能とばかりにきょろきょろしだす。
「おまえに幻術をかけたのは、このうちの誰だ?!」
そんな男を解放し、その眼前に三つのマスコットを突きつけて叫べば、門番からも使用人の男からも異様な目で見られる。
しかししつこく攻め立てれば、使用人の男は見覚えがあるのだろう、若草色の髪のマスコットと、深緑の髪のマスコットを選び、頷く。
シランはうそだろとい痛げに顔をゆがませると、何度もいやいやと首を振りながらふらつく足取りで牢獄から飛び出す。
手当たりしだい目の前のものをすべて壊してしまいたくなる衝動に駆られながら、シランは息を切らせて走りながらルークを探す。
(ルークが攻撃して負傷させた人物が、もしかしたらイヴとクウヤかもしれない)
確認しなければわからないけれど、とにかくルークはその二人組みを追いかけている。
どうにかしてその二人を見つけ出して逃がさなければ。このまま王国に囚われたなら、彼らは拷問にかけられたり殺されるかもしれない。
(そんな最悪な再会はいやだ!)
ルークならわかってくれるはずだ。友人同士なんだから、と奥歯をかみ締めながら、岸達や使用人にぶつかりつつ、廊下を走り抜けた。



今回は長い・・・!