複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照5300ありがとう御座います! ( No.446 )
- 日時: 2015/02/13 19:27
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
カメルリング王国ルート 058
「これは…」
魔術研究室の惨状を目の当たりにすると、カルマはうむ、と困ったような声を喉から絞り出した。そしてバラバラに砕けて傾ぐ本棚を片手で撫で、焦げ臭い室内の机上にある魔導書を一瞥する。
今にも崩れそうなアンバランスな本の塔へ手を伸ばし、一冊一冊を慎重にめくりながら、カルマはその被害に顔を曇らせた。
「その…ごめん…魔導書…」
壊れた扉からカルマの挙動を見守っていたルークが、口ごもりながら謝るとカルマは黙って首を振る。
表紙や内部が放電爆発により黒ずんだ魔導書を閉じ視線を上げずにルークに一言投げかける。
「盗まれた一冊のことは残念だよ、でも修復が必要だが29冊は無事だから良しとしよう」
果たしてその半数が無事と言える状態なのか怪しかったが、それらの親でもある製作者のカルマがそういうのなら無事なのかもしれない。
半数が失われたと考えていた分だけ、少し気分が軽くなる。けれど修復は大変な徒労になるに違いない。
二人組の侵入者を逃しただけでなく、魔導書を一冊盗られ、その上研究所を半壊したルークは、沈んだ顔でツバキと合流すべく廊下をとぼとぼと歩く。
その隣を腕組みしながら歩くカルマは、魔導書の修復よりも大ごとだとぼやく。
「問題は研究所だ。窓のない部屋を新しく探さねばならない…」
「僕も一緒に探すよ」
カルマはその言葉にそうかそうかとありがたそうに頷き、今度の研究室はもっと頑丈で座り心地の良い机があればいいなぁと赤い目を輝かせる。
「どうせなら今度はちゃんと寝るところがある部屋を探したらいいのに」「机に座って研究の途中で意識を失うのが良いんだ!」
などとやり取りを交わしていれば、徐々に見えてくる扉。その扉を見てルークは重々しく黙り込み、うっかりとその内部をやわな人物に見せないために閉ざされた扉をノックする。
扉はすぐに開き、ツバキが顔をのぞかせルークとカルマを見下ろす。
「あぁ」
二人組が最後に立ち寄った部屋に何か手がかりがあるかと捜索していたツバキは、ルークとカルマを見ればすぐ口元に笑みを浮かべた。
「手がかりは何かありました?魔導書の行方…とかは」
うっかり、年寄めいた言葉遣いをするが14歳の少女におびただしい血の跡を見せないようにと扉を閉め、廊下に並んだツバキは首を振った。
「残念ながら何も。絵画が鋭利な刃物で切り裂かれた跡と、血痕と、裂かれたカーテンの他は足跡くらいしか残っていない」
言って、着物の帯に帯刀した刀の柄に手を掛けながら、行方不明者もまだ見つかっていない、と不安そうにつぶやく。
失踪者の僧侶と魔導士二人とは友人であり、残る1人の牧師は先日彼女の傭兵団員となり、面識があるだけに不安が募るのだろう。
「わっちは窓の外をもう一度捜索するけれど、二人はどうする?」
まぁいい、とかぶりを振ってツバキは廊下を歩き出し、後をついてくる二人に優しい声色で尋ねる。
「日が昇る前には、新しい研究室を探さないといけないので城内に残ります」
その問いかけに立ち止りながら返答すれば、気を付けてと言い残してツバキは去って行った。
廊下でその背中を見送り、それじゃ部屋を探そうかとカルマとルークが目を合わせたとき、ツバキと入れ違いでこちらに走ってくる人物が目に留まる。
「シラン?」
「ルーク!聞きたいことがあるんだ!」
血相を変えて走り寄るシランは、息を切らせながらルークの眼前に3つのマスコットをぶら下げた。
これがどうしたの、と面食らったようにルークがシランを見返せば、いつもの能天気な砕けた笑みの代わりに脅かすような口調で尋ねられる。
「ルークが攻撃した二人組の侵入者って…この二人、じゃないよね?!」
息が切れるのさえもどかしいとばかりにあせった口調で問い詰めるシランに、カルマが不審げに眉を寄せる。
「一体どうしたというんだ」
「いいから…答えろって!」
これにはルークもびっくりしてしまい、シランを凝視してしまう。普段温厚な彼はこんな風に人にどなったりしない。
なぜシランがこんなに興奮するのか分からない、と戸惑うルークだったがマスコットをもう一度眺め、首を振る。
「違うよ。確かに男女だったけど、髪の色とか違うし。包帯も巻いて無かったし」
本当に?!と叫ばれ、こわごわと頷けば、シランは力が抜けたように絨毯にへたり込んだ。
そして心底安堵したように、良かったと連呼しまくる。
だいじょうぶ?とこわごわと肩を叩くルークを見上げ、シランは朗らかに笑う。
そして思わずといった感じでマスコットを握りしめて喋りだす。
「4年間離れ離れになっていた二人がさっきまでここに居たんだ。きっとまだどこかにいるんだ。僕を探してるんだよ」
どういう事?と廊下に突っ立ってシランを眺めているルークとカルマに、シランはある幻術師の事を話し始めた。
パソコンがようやく絶不調から立ち直ってくれましたので、更新を再開できそうです!