複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照5300ありがとう御座います! ( No.447 )
日時: 2015/02/13 19:28
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

カメルリング王国ルート 059


 数年前まではミカイロウィッチ帝国に住んでいたのだと、シランは言った。そこで、特殊な幻術師を師匠に、二人の兄妹と言述の修行をしていたという。しかし、大戦をきっかけに師匠がシランと兄妹を連れて逃亡を図った。
けれど大戦で深手を負った師匠は弱っていき、やがてある出来事が発生しシランは師匠とも兄妹ともはぐれてしまった。
しかし、その兄妹がシランを探しにこの王国へ姿を現し、ほんの数時間前には王城へ侵入して居たらしく今もどこかにいるという。
「どうしてそんな解釈が出来るんだ」
カルマが腕組みしていえば、シランは五つに増えたマスコットをベルトに括り付けながら言う。
「幻術に掛かった使用人がいて、そいつがこのマスコットを持ってたからね」
立ち上がり嬉しげに眼を光らせたシランは、ベルトに仲良く並ぶマスコットを揺らして歩き出す。
「このマスコットのモデルは僕と、師匠とイヴとクウヤなんだ。間違いないよ僕を探してるんだ」
そしてまるで隠れん坊の鬼にでもなったように二人を探しに行こうとするシランへ、ルークは疑問をぶつける。
「なんでわざわざそんな回りくどい合図をするのかな。シランを探してるって聞きまわって歩けばいいのに」
その問いにまったくもうとばかりに振り返り、腰に手を当ててシランが答える。
「そりゃ僕は希少な星の幻術師なんだから、騎士たちや使用人に聞きまわったって教えてはくれないからだよ。それに不法侵入だろうし」
たぶん変装か何かして聞きまわって教えてくれなかったからこういう合図を送ってきたんじゃないかな、と頬っぺたを引っ掻くようにかいてシランが憶測を言う。
「それならば、そんな希少な幻術師のうわさをどこでかぎつけたんだか」
深く考えず、さっさと研究室を探しに行きたいという口調でカルマが言えば、シランは紅い目を数秒瞬かせた。
ルークはカルマに促されて歩き掛けたが、その言葉を頭の中で咀嚼するうちにその足取りが止まる。
「本当に…どこでその情報を…知ったんだろう」
よく考えれば考えるほど、知ってはいけない事実を偶然知ってしまった気分になる。
振り返って目を合わせると、シランも不安そうに立ち尽くしていた。
「はぐれた後の四年間、僕はずっと王国にいた。でも…師匠とイヴとクウヤから今の今迄連絡はなかった…」
恐る恐るというように、シランが口を開く。指先が不安げに服の裾を引っつかんでいる。
「だってあんなに仲が良かったんだから…居場所を知ればすぐ訪ねてくるはずだし…」
事実を知るのが怖いという感じで、でも知りたいという様にぽつぽつと断片的にしゃべるシランに、カルマがズバリ言う。
「ほんの最近、シランがここにいるという情報を得たということになる」
ほんの最近、希少な星の幻術師の存在情報が、どこかから漏れた。もしくは、ほんの最近、人目のある場所で希少な星の幻術師がその幻術を披露した事で、情報が漏れた。
「ほんの最近、そんな事件はなかったかね?」
ほんの最近、というワードがじわじわとシランの背筋を冷たくしていく気がした。
心当たりがあるが、そうするととんでもない事実に行き当たることになる。真相までたどり着きたくない。
「でも妙だね。こうも立て続けに王城に不法侵入者が来るなんて。それも同じ日に」
これがとどめのように、シランが小さく声を漏らした。カルマは憶測の上に疑問を素直に純粋に積み上げていっただけだったが、シランの頭の中ではその言葉が次々とパズルのように組み合わさっていき、一つの事実へと彼を導いたらしかった。
カルマの言葉とシランの狼狽ぶりから、ルークはゆっくりと口を開く。
「もしかして…」
先を言わないでほしいというような視線にさらされながらも、これは重大事態なので言わずにはいられない。
一旦口をつぐんだルークは、一つ一つ初めから事実の姿をかたどろうとしゃべりだす。
「先日の修道院襲撃事件で、僕を襲った帝国の黒剣の男はフランベルジュと果物ナイフを盗ろうとした。でも取れなかった」
君とリリーさんが阻止してくれたから。とルークは呟く。
「そして晩餐会が開催された日、帝国の者らしき侵入者が現れてフランベルジュを再び盗もうとして魔導書を盗んでいった。もう二組の侵入者は君を探しに来ていた‥‥」
ルークのもったいぶった言い方が気に食わないらしく、カルマがそれらを総称して考えられることを横から言う。
「つまり、こういう事だろう?襲撃事件の起きた日、シランは幻術を使った。その相手は帝国の者だった。そこから今回の事を結び付ければ簡単に答えは出る」
ふんと鼻を荒らしながら腰に両手をあてて、カルマは言い放つ。
「シランの弟子仲間の兄妹は、帝国の差し金だということだ」