複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照5600ありがとう御座います! ( No.454 )
- 日時: 2015/03/10 22:34
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
ミカイロウィッチ帝国ルート 059
「大丈夫なのですかね、あの人たち…」
「大丈夫だろ、たぶん」
「兄さんもアーリィも無事だと…いいけど…」
化け物から15分程度離れたところで肩を寄せ合い、小休憩をはさみながら樹海の方へと視線を巡らせる。
視界の端にはリンの手当てをするツヴァイがおり、実験体の反応をみるようにじっとリンに注目している。
「ぼく怖いです、こんな怖い目にはもう会いたくないですよ」
ウィンデルはため息をつきながらよろよろと立ち上がり、「足痛いから湿布頂戴」とツヴァイの白衣を引っ張って催促する。
ツヴァイは「ん」と無造作に適当な薬品をウィンデルに押し付けて、リンをつっついたり脈をしきりにとってポケットをかきまわし薬品をたくさん取り出している。
その妙な行動に、押し付けられた薬品から目を離してウィンデルが隣から覗き込むように首を傾げて尋ねる。
「どうしたの?具合…よくないの?」
リンの青ざめた顔を一旦見た後、ツヴァイがその質問に答えず逆にウィンデルへと尋ねる。
「包帯ある?」
ないよそんなの、布なら少しは、と面食らうウィンデルの代わりにヴィトリアルが包帯を放ってよこす。
「ほらよ、容体は落ち着いたか?」
投げられた包帯を受け取ったツヴァイは、ちいさくかぶりを振る。
引き延ばした包帯を服の上からぐるぐるときつく巻きつけ、余った包帯でリンを担架に固定する。
「あんまりよくないね。傷口が開きかけて、化膿してる。消毒薬があればいいんだけどボクそれ持ってないから膿を今取り除くこともできない」
このままいけばあと数時間のうちに高熱にうなされるかもね、とツヴァイは言葉の端に少し楽しむような声音を含ませながら言う。
そしたらこの薬を試してみるよ、と豆粒ほどの錠剤が詰まった小瓶をポケットから取り出して楽しげに振って見せる。
リンをこのまま実験体にするつもり?とイヴがやれやれとかぶりを振り、リンの顔色を覗き込む。
樹海は相変わらず薄暗く、もうじきくるであろう昼間の垂直な光を浴びてもなお鬱蒼と茂る葉のせいできっと始終この調子なのだろう。
その薄影のもとリンを見ると、とてつもなく具合が悪く見える。顔が青ざめており、呼吸も弱弱しい。医療関係に詳しくなくともリンの状態がまずいということは素人にも分かる。
けれど今は鎮痛剤を投与する他にしてやれることはなく、唯一の有効な手立ては一刻も早く野営地へとたどり着き、帝国へ運ぶことだ。
化け物の咆哮が遠く聞こえ、一斉に黙り込んだ一行はやがて黙々と野営地へと移動し始めた。
木々を揺らす風に塩味が帯びてきた。それにより元気づけられて、一行は進む速度を上げた。
耳を澄ますと波が転がり砕ける音が聞こえ、しばらくして幹の合間に野営地が見えてきた。
「つきましたね、やっと!」
木製の船と数人の乗組員たちが見えるとすぐ、ウィンデルが歓声を上げる。その嬉しさあふれる歓声に気付いて、乗組員たちが一行を温かく迎えた。
「数が足んねぇんじゃねぇかぁ?」
ぼろぼろの帰還者たちを船に引き上げてやりながら、ナポレオン帽の船長が不思議そうにつぶやく。
「ことによると、出港を遅らすことなるぞ」
潮風にさらされて肌触りの荒くなった服から鎖付きの時計を取り出し、樹海へと視線を投げる船長。
そんな彼にヴィトリアルが床に座り込みながら声を上げる。
「奴らの事は構わない。出航してくれ」
いいのかい、と船長が時計を仕舞い込み、じっとヴィトリアルを見る。
「あいつらがそうしてくれと言ったんだよ。それよりこの船に消毒液とぺてぃナイフあるか?あるならすぐ用意してくれ。怪我人が今まずいことになってるんでね」
茶化すようににっと笑みを浮かべて言うヴィトリアルに、船長は片眉をあげつつも部下たちに錨を上げろと命令を出す。
そして船員用の簡易ベットに横たえた少女のために、船に積んだ救急セットを取り出して、にこやかにそれを受け取る白衣少年に声を掛ける。
「ソイツの怪我はそんなにひどいのか?船が出れば結構揺れる。あいにく船医はいないから大掛かりな手当は出来ないぞ…?」
しかしツヴァイはペティナイフ片手に無邪気そうに笑う。
「大丈夫、手術くらいなんとかなる…たぶんね?」
まさかお前が手術をするのか?と唖然とする船長をよそに、助手役を買って出たイヴが包帯をたくさん抱えてツヴァイの後に続いた。
船室にはいる間際、船長に「私も心配」とつぶやく。
「麻酔はいっぱいあるみたいだから、変なところ切っても大丈夫…だと思う。少なくとも痛くはないと思う」
ぼやくようにいうイヴだったが、余計船長をぎょっとさせるだけで逆効果である。立ち聞きしていたウィンデルが青ざめた様子で目を丸くし、船長と目を見合わせた。
大丈夫なのか?というようにお互い肩を竦め、動き出した船の甲板で胡坐をかくヴィトリアルへ目を向ける。しかしヴィトリアルも同じように肩を竦め、さあねというように無言で返答して見せた。
4月までには終わると宣言してたのに…っ
いや、まだ間に合うか?!
5600ありがとうございますっっ