複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照5700ありがとう御座います! ( No.465 )
- 日時: 2015/03/17 19:35
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
カメルリング王国ルート 062
リリーやシランと共に城下町を見て回るにはあまり楽しいとは言えない時刻だった。開いている店は酒屋がほとんどで、その多くがシュタイン亭のような気軽に誰もが戸を叩ける雰囲気ではない。
喧嘩の怒号が聞こえたかと思えば、野次に似た歓声と何かをぶんなぐる鈍い音が響いてくる。
リリーは素知らぬ顔で通り過ぎ、ルークもシランと顔を見合わせいくら帝国の手先だとしても怪我を押してこんなところへは絶対に入り込まないだろうと頷き合う。
けれどリリーはルークとシランを税関まで送り届けたのち、この酒場も調査しなくてはと脳内で小さくつぶやく。
そんなことは露知らず、貴族街とは反対方向の小ざっぱりした通称庶民街の家々が肩を寄せ合う通りまで来ると、ふいに頭上の暗闇で何か巨大なものがはばたいた。
鳥の柔らかな羽ばたきとは違い、まるでコウモリがパタパタ飛ぶような音だ。
「何…?」
わずかな街灯の明かりをたよりに音の正体を突き止めようと頭上を見上げるが、その物体は何か長くとぐろを巻くように状態を持ち直し、夜空に消えていく。
一瞬蛇みたいなうろこがびっしり見えた気がするが、思い違いだとルークは目をこする。
「姉さんがブラックローに伝令を伝えに行ったみたい」
暗闇に目をすかすように細めながらリリーが言う。もう見えなくなった軌跡を追いながら、ルークが目を丸くした。
「リリーさんにお姉さんがいるんですか?もしかして、さっき話してた赤毛の女の人?」
うん、と姉リレーナとうり二つの赤毛を揺らしてリリーが頷き、マントを翻してきびきびと先を歩き出した。
「リレーナ姉さんは白騎士の団員で、ルーク君が城に来るちょっと前からある問題ごとを抱えていて、あまり部屋の外に出てくる機会がなかったんだよ」
ふうん、とシランも興味深そうに頷くところからすると、シランもその問題ごととやらは知らないらしい。深く聞かない方が良いのかと遠慮していると、リリーは歩きながらマントの端をいじくるようなしぐさをした。
「ラルス白騎士団長と結婚した後、二人で旅行だとかでほんの少しの間ハートレイ公国のエルシュノートという辺境の地へ行っていたんだよ—」
困惑したような、ただちょっと面白がるような半々の笑いを浮かべてリリーが呟くが、驚愕の事実にルークが大声を上げ話の腰を負った。
「えぇっ、ってことはリリーさんはあのラルスさんの義理の妹ってことに?むしろ、結婚してたんですかラルスさんは!」
これから飲み明かすために店から店へとはしごをかけていた酔っ払いたちが振り返るほど、ルークの声は出かかった。
それをややびっくりしたようにリリーが頷き、続きを言うのだがそれには今度はシランが絶叫する。
「エルシュノートから帰ってきた姉さんは、ドラゴンと一緒に帰ってきたんだ—」
「ドラゴン!そんなのが存在するんですか?!」
まぁ秘密兵器として温存していたから知らない人がいてもしょうがないとリリーはドラゴンの存在をすんなり認める。
「ウソ、あれって絶対作り話ですよ?もしかしてユニートさんが使うような使い魔みたいなやつですか?」
私も姉さんも魔術には精通してないから詳しくは知らない、とリリーは面倒くさそうに言って先を歩き続ける。
「ただ国王様は帝国との戦いで訓練したそのドラゴンを使用するらしいね…どうやったかは知らないけどリレーナ姉さんになついてるらしい」
「カルマに聞けば詳しく話してくれるかな?」
ドラゴンなんて僕は見たことないよ!とシランが目を輝かせて言うが、リリーは首を振る。
「夢中になっているうちにドラゴンに食われるかもしれないからと、カルマという魔法使いにはドラゴンの存在は教えていないと姉さんが言ってた。もし魔法使いの使い魔ならそのドラゴンを召喚した奴はエルシュノートにいると思うけど…」
ここから海を隔てたところにある島国だとリリーは言うが、ルークは聞いたことがなく首をひねる。
そうこうしているうちに、ドラゴン話譚は終了した。税関が遠目に見えてきたため、リリーはそれじゃと足を止めた。
「二人は税関での不審人物の調査が終わったら、シュタイン亭でジョレスたちと情報交換をして、異常がなければ城へ帰ってくるといい」
たまにちょこちょこ出てくる、ハートレイ公国のエルシュノートはちなみに次回作の舞台だったり