複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照5700ありがとう御座います! ( No.466 )
- 日時: 2015/03/17 23:02
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
カメルリング王国ルート 063
税関の役人たちに聞いたところ、ここを通り抜けた人物は今夜は多いそうだ。
「今日は王城ですごい晩餐会があったそうだからねぇ」
顎をさすりながら、ぜひとも自分も見たかったとおじさんたちが笑い合う。ハルバートの柄を握るよりビールジョッキを握っていた方が嬉しいに違いない。
「ちょっとでも妙な人たちは居ませんでした?血まみれだとか、妙に挙動不審だったとか…」
それでもしつこく問いを重ねていけば、税関の手の空いた連中までも一緒に記憶を紐解いて協力してくれる。
「人って言ってもねぇ、馬車が多かったから人の顔はあまり見なかったし。地方の役人の婦人とか郊外に住む貴族たちの馬車の中は詮索できないからね」
中途半端な権力者たちはすぐ血筋とか秘密主義を引っ張り出してきて庶民を見下すからなぁ、とハルバートを抱えた兵士がぼやくように肩をすくめていう。
「以前それで名誉棄損だとかで護衛に切り殺されかけたやつもいたし、暗殺者を送り込むようなやな奴もいるんだ」
暗殺者ときいてリリーを思い浮かべたルークはひきつった笑みを浮かべる。
「今回もここから出ていったほとんどの馬車がそういった連中だな。他はロバ引きの幌馬車と、徒歩での出国だけだ」
血まみれなんてやつがいればすぐ保護する、以前地方の貴族の娘さんがぼろぼろにやつれて歩いてきたときもちゃんと保護を申し出たくらいだ、と彼らは腰に手を当ててつづけた。
「ありがとうございました」
彼らにお礼を言い、神妙な顔をしたままルークとシランはシュタイン亭へと足を向ける。
呼び鈴とおかみさんの明るい声に迎えられて、ほんの少しだけ気分が明るくなるけれど、同じように辛気臭い顔をした仲間を見て、また表情が曇る。
「いらっしゃいボウヤたち!」
ルークを見るとカウンターから身を乗り出すようにしてシュタイン婦人が朗らかに笑いかける。
そのカウンターにはジョレスと、カウンターに突っ伏すように顎を乗せるノイアーがおり、いつもの常連客がまばらに席についている。
「よぉ」
ジョレスの隣に座ると、嫌な予感の前触れを感じてかジョレスがぎこちなく笑いかけてくる。
ノイアーは目だけをくるりと動かして、ルークとシランを見上げた。
女将さんはカウンターに肘をつき、片手でフライパンを操作しながら軽く声を掛けた。
「そういえば最近ミルフィーユさん達こないけど、万能シェフロボットでも発明したのかしら?」
ニコニコした明るい冗談だったが、ルークは二人のことを思い出して、日が陰る様に暗く笑みを返すだけ返したっきり、その話題に触れる前にジョレスに話し出す。
「そうか…こっちも似たような情報だけだな。血まみれの二人組や不審者は確認できなかったし、いたとしても花火騒ぎで発狂したたちの悪い酔っ払いどもだけだったぜ」
一通りルークの話を聞いた後、ジョレスが視線を落としながら言った。
「ジョレスさん、このマスコットに似た人たちは居なかった?」
すかさず右手に握りしめていたイヴとクウヤと師匠のマスコットをジョレスに突き出しながら、期待したようにシランが目を輝かせる。
人形をみて、ノイアーとジョレス、シュタイン婦人までもが不思議そうに首を傾げた。
「見てないぞ」眠さのピークが過ぎたように少し充血した青い目でマスコットを見つめながらノイアーが首を振る。
ジョレスも知らないという様に肩肘をついた。
「なんだ、じゃもう城へ行こう?ツバキさんやラルスさんにも報告した方が良いだろうし。いい加減ユニートさんも帰ってきたかもしれないし」
しょぼくれながらマスコットをベルトに括り付け、シランがため息をつきながら号令をかけ、カウンターから離れる。
その途端、シュタイン婦人がシランを呼び止めた。
「ちょっとまってボウヤ、そのマスコットの二人組、見たかもしれないわ」