複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照5700ありがとう御座います! ( No.467 )
日時: 2015/03/17 23:36
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

カメルリング王国ルート 064



背中をかがめ、風の抵抗を少なくしながら、リレーナは鱗に覆われたドラゴン—正確にはワイバーンの背中を撫でる。
ワイバーンは爬虫類の足の代わりに、コウモリの前足のように皮膜が張っており、手と翼が合体したような不思議な翼を持っている。
当初この仔を見つけたときは思わず化け物と叫んだが、やけに人懐こいこのワイバーンは今やリレーナの小さな二人目の妹のようだった。
その背中に馬用の鞍を取り付けただけの簡易な装備で空を飛ぶなんてどうかしていると、たまにラルスは文句を言うけれどリレーナは戯言と一蹴している。
そもそも成人女性一人を乗せれば、小型のワイバーンには他に重装備を施す余地がない。重い荷物を載せれば飛行速度も遅くなり、矢で狙われたらおしまいだ。
さらにこのワイバーン、翼を持って生まれたように見えるが、とぶことに慣れていない様子でしょっちゅう尾を振り回すようにしばしば回転しながら飛ぶのだ。
重装備がワイバーンに絡まる危険性も考慮すれば、ほとんど命綱なしの方がかえって安全である。

そのワイバーンに乗りながら、リレーナは冷たい夜空を越えてカメルリング王国の遠い海にやっと到着した。
星にかすかに照らされる黒い海に浮かぶ海賊船へふわりと舞い降りるとすかさず海賊船の乗員がサーベル片手に走りこんでくるが、リレーナだとわかれば、彼らはすぐ船長を呼びに走りに行った。
50すぎの黒づくめ、黒い海賊船、顔の大半を覆い尽くす髭の男が出てきて、リレーナを船長室に迎えた。
「おぉ、あのバケモンも一緒だとは…うむ、肉は食うかなこコイツめは」
新し物好きなこの男、シュバルツ・ブラックローは鋭い青い目に好奇心旺盛な色を讃えて、夕食の際に残った肉類をドラゴン目掛けて投げつける。
「しかし、エルシュノートの寂れた田舎町にこんな生物が生息しているとは…私もぜひとも手に入れたいもんだ」
むしゃむしゃ肉に飛びつくワイバーンをにんまりしながら眺め、葡萄酒片手に景気よく笑うシュバルツに、リレーナは腕組みしながら詰め寄る。
「私の大切な相棒の話をしに来たわけじゃない、王国の大事な話をしに来たんだよ、シュバルツ?」
体格のいいシュバルツに、彼の腰かけた肘掛け椅子に乱暴に足を掛けながらリレーナはその鼻先をシュバルツに近づけて威勢良く言い放つ。
のけぞる様にしぶしぶ頷いたシュバルツは、テーブルに瓶を置くと腕組みして話を促した。
「それで?」
「カメルリング城に帝国の手先が侵入したらしい。不審な人物が帝国に向かっていないかどうか、調査してくれないか?その人物どもは手負いらしく、血まみれだそうで目立つらしい」
そこまで言うと、蹴り戻すように椅子から足を引いてリレーナがため息つきながらワイバーンの額を撫でてぼやく。
「だが、まだ見つかっていない。どうやらうまく監視の目をすり抜けて城を…もしかしたらすでに王都を脱出した可能性がある」
見つけ次第叩き潰したっていいよ!とリレーナが強気にいうと、シュバルツは帝国の野郎めが、と何やら悪態をつきつつ、頷いた。
「わかった。私たち海賊は海辺の周囲と、樹海近辺の捜索をする。不審人物がいたらすぐ縛り上げてやろうぞ?」
そうこなくちゃね、というように笑みを交わして、リレーナは挨拶をそこそこにワイバーンの背に飛び乗って、再び空へ舞い上がった。
星に包まれた夜空はまだほの暗く、太陽が地平線から体を起こすにはもうしばらくかかるだろう。