複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照5800ありがとう御座います! ( No.471 )
日時: 2015/03/23 19:42
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

ミカイロウィッチ帝国ルート 061


—これからどうしようか?
扉を蹴り開けたとき、真っ先にそう脳裏にその言葉が響き、ライヤは眠気の去った頭を素早く回転させて今後の行動を考える。
(とにかく、まずしなくちゃいけないのは爆破だな、爆破)後ろから追いかけてくる輩を引きつけながら、ライヤは体の節々が痛むのに顔をしかめつつ貴族街へと走りこむ。
少し上り坂になる貴族街を駆け上がると、背後から様々な声が聞こえてくる。
空を切るような、うなじに嫌な感覚を張り付けたまま少し首を巡らせて振り返ると、幼女と言っていいほどの少女が鎌を振り回しながら駆けてくる。
「おまえ、アイツに幻術掛けるかなんかしろ…ノイアー!生け捕りだって言ったろ!」
そのすぐ後ろに銀髪の例の案内人、人探しをしている紅い目の少年と童顔の少年が追ってきていた。
幻術を掛けられてはたまらないと、速度を上げながらライヤはやがて見えてきた大きな屋敷の庭先に飛び込むように転がり込む。
「あいつ…ミルフィーユさんの屋敷に…!」
怒りを帯びた声をしり目に、芝生の上にわんさかとつんである小ぶりな木箱をいくつか両手に抱え込んだライヤ。
腕の中の一つを素早くつかみ上げ、箱の側面につく錠前に植木の枝を無理やり突っ込み、すぐさま走りこんでくる4人へと放り投げた。
 木箱はタイルに当たると即座に爆発を引き起こした。
飛散する破片を受けて声を詰まらせてうずくまる四人の脇を素早く駆け抜ける。
ワンピースを着て先頭を駆け抜けていた青い髪の少女が破片の突き刺さる腕を無理して振り上げ、鎌で走ってくるライヤの足首を切断しようとしてくるが、それを軽く飛び越えて、ライヤはもと来た道を戻っていく。
目指すは長年住み着いた自分のアジトであるサイオンジ宿である。

サイオンジ宿につくと、経営者が質素な宿の窓を拭いているところだった。
サイオンジ宿という名前に変わる前からの常連客を見ると、経営者が手を休めてライヤに笑いかける。
「おぉ、メルセルムさん、おかえんなさい」
「あーただいま」
手抜きの挨拶を済ませ階段を駆け上がり、自分の借りている部屋を乱暴に蹴破り、ライヤは室内を見回す。
まさに寝に帰る部屋という言葉がふさわしく、借りた当時からほぼ変わることがない家具の配置と、簡易すぎてきしむベットの上のカメルリング王国に関する歴史書の入った肩かけ鞄のほか、大した荷物はない。
ライヤはその分厚い皮の鞄を引っつかみ、ベルトに括り付けた後引き出しを開けてマッチを擦る。
それをシーツに引火させてから出口に向かい、木箱の錠前に異物をつっこみ部屋の壁へ投げつけた。

次の瞬間に待っていたのは、爆発。空気を震わせるような爆発が何度もとどろき、のどかな朝の静寂を完ぺきに破る。
振動でぐらぐらする階段を転がる様に降りたライヤは、唖然として腰を抜かしている経営者に目もくれず、煙をもくもく吐き出すサイオンジ宿から脱出した。
(次はさっさと脱出、と)
爆音に吸い寄せられた人々や、街を巡回する騎士たちを次々と追い越し、ライヤはつい先程まで一緒に徹夜した馬たちのもとへ走り寄り、馬車から一番速い馬をひいて速足で税関へと向かう。
税関の列へ並びながら、ちょっと不安そうな馬の首を撫でて安心させるように少しだけ力を込めて叩く。
「出国の理由は?」
列が切れ、ライヤの目の前に自由への道と最後の邪魔者である税関兵が映り込む。
「実家に帰る為にね」出来るだけ朗らかそうな顔をして、内心の動揺を隠しながら言う。
ほう、と兵士がライヤを眺め、馬を見たのち、少し奇妙そうな顔をした。
「王都から出るにしては荷物が少ないんじゃないか?」
「この中に詰まってるから少なく見えるだけさ」
兵士に見えるようにマントの隙間から鞄をのぞかせたライヤに、兵士はゆっくり頷き交差していたハルバートを軽く上げた。
「ところで、あの騒ぎは何だ?」
「宿が火事になったみたいだよ」
宿の方に背を向けたまま、ライヤは兵士たちの間を通り抜け、いわゆる出国ゲートを直進する。
「そうじゃなくてあれは…?」という困惑した声が兵士たちに反応し、警戒しながら彼らが口を開けている方向を見る。
今しがた出て来た税関に繋がる噴水のある広間に、何かが舞い降りるところだった。
砂が吹き上がり、人々がぎょっとしたような声を上げ、その物体を指差して何やら喚き散らして後ずさる。
ライヤは逃げるのを忘れるほど、その物体に目を奪われていた。
あれは爬虫類か?あんなでかい爬虫類が…空から降りて来たのか?などと呆然として突っ立っていると、その爬虫類へ少年が駆け寄り、何か叫んでいる。
その少年がきょろきょろと首を巡らせる様を見て、ライヤはすぐさま逃げようと馬に飛び乗った。
けれどその少年は目ざとくライヤを見つけたようで、背後を少し振り返った時、少年がこちらを指差すのと、爬虫類が空中に舞い上がるのが見えた。

こりゃ相当まずい、と手綱を握りしめ馬の腹を蹴り、王都脱出を試みるライヤだったが、原っぱに出た途端日が陰る様に何かの影がさっと横切るのを目撃した。
次の瞬間、何かが上から馬をライヤごと釣り上げるように持ち上げ、馬の脚が空中で空回った。
「?!」
馬は悲鳴じみたいななきを上げてじたばたもがき、ライヤはとっさに頭上を見上げる。
すぐ目の前に馬の鞍に似たハーネスと、赤茶色の鱗が見え、力強く羽ばたくたびに鱗の下で筋肉が動くのがわかった。
その翼の合間に女が乗っているようで、彼女はライヤの目をまん丸くする姿に楽しむように微笑んだ後、きっぱりと言った。
「私は王国白騎士団の団員だ。お前を今から城へ連行する。神妙にしろ」
飛び降りようにも高すぎて、下の景色を見たライヤは成すすべなく黙り込む。
風に翻るマントを押さえ、その下にある鞄を撫でながらライヤは途方に暮れつつ頭を巡らせる。
この歴史書—今までの眺望の成果が暗号化され記された記録書—をどうにかして帝国側へ渡さなければ、死刑になった場合、最終調査結果を報告することが出来なくなる。
死ぬ前にこれが帝国へ届かせられれば、運が良ければ助けが来る可能性もある。
(あの皇女サマじゃ、それもないかな?自力で逃げるしか…)
徐々に王都のカメルリング城が迫ってきて、ライヤは小さく喉を鳴らす。
 城にだいぶ接近し、下降を開始したドラゴン。ライヤはじっと地面までの距離を黙想ではかり、安全だと思ったとたん直ぐ飛び降りた。
硬いタイルの上、やわらかく着地してサーベルを抜き、駆け寄る騎士や使用人に向かって威嚇するようにそれを向ける。
「捕まえろっ。ソイツは容疑者だ!殺すなよ!」
上空から赤毛の女が声を上げ、ほこりを舞い上げながら着陸する。
それを横目にライヤはじりじり後退し、どこか逃げ道がないかと目を走らせるが多勢に無勢。飴に群がるアリのように次から次へとわんさか騎士や使用人が飛び出してくるのだ。
サーベルで騎士の剣を跳ね返し、近寄ればぐに切りかかることを繰り返すが、いずれくる結果はわかりきっている。
壁際に追い詰められ、体中に刃を突き付けられたライヤは、目を細めくびをふりふりその手からサーベルを手放した。
「わかったよ、降参だ」
まだ脅すように刃を突き付けたまま、騎士たちはライヤをにらみつけており、ドラゴンに乗った赤毛の女がてきぱきと彼らに指示を出した。
「コイツを地下牢へ連れて行け!直ちに尋問を開始する!そして誰かラルスやツバキに尋問開始を伝えろ!」



今回、長っ
でもやっと、最終章に食い込んできました。いま噛み付いてるくらい…?飲み込みかけてるところ…?
参照5800ありがとうございますっっ
うわわわ、5000祝の番外フラグをへし折ったのに、6000祝のフラグもへし折ることになりそうです…
ちょっと誤字を訂正