複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照5800ありがとう御座います! ( No.472 )
日時: 2015/03/25 00:26
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

ミカイロウィッチ帝国ルート 062



 指についた血を舐めながら、足に絡み付くとぐろを巻いた鎖を見つめる。薄暗い独房の一つに放り込まれ、尋問という名の拷問にかけられたにしては、まだ対してダメージは受けてないな、と一人考える。
まぁまだほんの挨拶程度なのだろうが…。
反対側の牢獄に囚われている小さな少年の方がよっぽどダメージを受けてる、と苦笑いをこぼしてそちらを見ると、柔らかな印象のある少年は暗闇の奥に引っ込み、顔を隠してすすり泣いている。
先程の拷問を目撃して、精神的にかなりショックを受けたらしい。
爪のはがされた薬指をかばいながら、ライヤはまだマントの下にある歴史書—眺望告書—をそっとなでる。
牢獄につくなり拷問を開始し、大人しくしていろと言い捨てがてら、人の爪を一枚剥いで行った赤毛の女だ。戻ってきたら次生きているかもわからない。
どうにかしてこの書物を託さなければならない。

そうこう考えていると。地下牢獄の入り口ががやがやと騒がしくなりライヤは神妙な顔をする。
反対側の少年も身を震わせ、そっと怯えた顔を上げる。
やってきたのは先程のドラゴンに乗っていた赤毛の女であり、鎖を両手にたらしているところを見ると、どこかへ連れて行かれるらしい。
その後ろに同じような赤毛の少女がおり、黒いマントを揺らしながらこちらを覗き込んでいる。
「国王の前で暴れられても困るから…もうちょいと痛めつけておくか?」
「姉さん、普通は手じゃなくて足の爪をはがなきゃ。足をやれば逃走が難しくなるから」
射抜くようにこちらを見る少女はこともなげにそういい、手に鋭利なナイフを持ちながら牢獄の錠を開ける。
そしてライヤの足につく足枷へ鎖を取り付け、無表情のままライヤに話しかける。
「両腕を出して」
—でないと足の爪もとるよ?
そう聞こえた気がして、ライヤはしぶしぶ腕を少女の方へつき出す。手首に巻かれた鎖に南京錠が掛けられるのを眺めながら、どうやって逃走しようかとぐるぐると考える。
どうやらこの赤毛の姉妹には泣き落としも聞かないようだし、折を見て不意を突く逃走を図るほか脱走は無理だろう。
「死ぬ前には—」
「何?」
舌を噛み切って自害をしないようにと、少女がごわごわした布をライヤの口に突っ込もうとする。
ライヤの言葉にその手を止めて、ちょっと首をかしげる少女。
「死ぬ前には遺言くらい聞いてくれるんだろ?」
「あなたの吐く情報がすべて真実なら、遺言のことは考えとく」
それ以上会話する気はないという態度で口にぱさぱさした布を突っ込まれ、ライヤは布をかみしめながら出来るだけすました顔を取り繕った。
牢獄から引きずり出されるとき、遠くで八つの壮麗な鐘の音が響いた。
(やれやれ、ながい一日になりそうだ)



「 アリエス 」
シャボン玉のように淡いシールドに鋭い爪が食い込もうとしたまさにその時、クウヤがアーリィのピンクの杖をひったくって叫んだ。
その途端、勝利の笑みを浮かべていた化け物は、はっと人間じみた表情をする。
血に濡れた口元から荒く息を漏らし、化け物の金色の目がみるみるうちに戸惑いと恐怖に見開かれ、信じられないという様に自身のかぎ爪をじっと見つめている。
「後は、何とか自力で倒して…」目前まで迫っていたかぎ爪がいつまでたっても体に食い込んでこないのを不思議そうに眺めるアーリィに、クウヤが呼吸を荒くして唸るように言った。
「幻術の二股掛けはこれ以上は…ちょっとキツイ」
化け物に二つ、王国の三人の側近たちにそれぞれ1つずつの幻術を掛け、それを維持するにはこれ以上は無理だ。
その言葉に頷き、アーリィはシールドを解除し、クウヤに抱え込まれながらありったけの魔力を注いで息の続く限り呪詛を叫び続ける。
あの化け物の正体を知りたいという欲求よりも、生き残りたいという欲求の方が勝ったようだった。
タガが外れたように繰り出される魔術が、ほの暗い樹海を赤く照らし上げる。

しかし化け物も精一杯の反撃をし、二つの幻術がかかった異常状態にもかかわらず執拗に二人を追い回した。
化け物の通る道が痛々しい血で染められるものの、化け物は足を止めない。
そしてついに、思いっきり体を振り回すようにしなりをつけ二人に尻尾の鞭をお見舞いしたっきり樹海に深く身を沈み込ませて止まった。
尻尾の鞭からアーリィをかばう様に盾になったクウヤだったが、化け物の体力が消耗していたおかげで即死は免れたようだった。
「あー…これは…絶対また骨折れた…」
「ちょっと邪魔よ!放して!あの化け物が反撃してきたら…」
背中の痛みに顔をしかめてうずくまるクウヤの腕からアーリィが焦ったように飛び出し、化け物の方へ鋭い目を向ける。
けれど化け物の様子を見て、アーリィはそっと杖をおろした。
魔力の急速な消耗でふらふらする千鳥足で、化け物の側に近寄ると、化け物は血の泡を口の端に付着しながら低く唸った。
しかし、それだけだった。
憎々しげにアーリィを見つめる金色の目は、今や荒い呼吸に合わせて徐々に閉じかけている。
喉元から首筋にかけての鱗がささくれており、そこから覗く痛々しい惨状が、この化け物と魔女との戦いの結果を物語っている。
「…まだ喋ることは出来る?出来るならアンタがなぜアタシ達を襲ったか教えなさい」
化け物の側に座り、アーリィが少しだけ敬意を払った口調で尋ねれば、化け物はしょぼしょぼする眼を無理やり開けてかすれた声を牙の間から吐き出した。
「それは—オレが—平和が好きだからだ—」
アーリィが眉を寄せて訳が分からないという顔をしたのが満足なのか、化け物はにぃっと爬虫類的な笑みを浮かべた。





拷問だと爪はぎが最強らしいです…拷問で検索したらトラウマレベルでした…
尋問だと水責めと音攻めが精神崩壊レベル…地味だけど怖すぎました…ライヤさん頑張れ←