複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照6200ありがとう御座います! ( No.483 )
日時: 2015/04/14 17:56
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: A1qYrOra)

カメルリング王国ルート 067



 バーンと玉座の間の黒塗りの扉が破れんばかりに開け放たれ、壁に激突した扉がすさまじい音を立てた。ルークを含めすべての人物の目がそこに立つ人の顔を見て唖然とした。
「ミルフィーユさん…?」
普段のミルフィーユの紳士的な態度ならあり得ない登場の仕方に、やっとのことで声を出したのはルークだけだった。
ミルフィーユは今しがた思いっきり蹴破った扉に目もくれず、ルークに青白い顔で笑いかけた。隈が目立つが、不思議とやつれた雰囲気は消え去っていた。
「ルーク君の登場を真似してみたよ。蝶番が壊れてれば完璧だけどね—どれ…」ルークの肩に手を置いて、茶目っ気たっぷりに悠々と扉を振り返り、肩をすくめた。「やれやれ、さすがに王室の蝶番は頑丈だね?」
「ミルフィーユさん…何—」つられて蝶番の方を困惑した表情で見つめていたルークは、ミルフィーユが脇に抱え込んでいる箱にやっと気づいて目を輝かせた。周囲の人物が困惑顔で顔を見合わせる中、ルークは喜びで飛び跳ねそうになった。
「それじゃ、できたんですね?!」
「その通り、ようやく我らがマスコット執事を取り返せそうだよ、万事解決だ」
「何が万事解決なのだ、発明家よ」ウウィンクしながら顔をほころばせたミルフィーユが箱を少しふって見せると、やっと衝撃から立ち直った国王が唸り声を上げた。
今まで玉座の間の扉を蹴り破った人物はいない。罪人として引き出されてきたライヤでさえも、大人しく扉を潜り抜けてきたのだ。
更に言えば、発明家一家の執事を投獄した際のミルフィーユとの口論を思い出し、忌々しげに眉根を寄せている国王が威圧的にミルフィーユを睨む。
「現在罪人の尋問の最中であるぞ。無礼者めが…」
 地鳴りのように低い威嚇の声に、ルークは反射的にまごつくが、ミルフィーユはまったく気にしてい無いようでルークの肩をぽんぽんと叩いてから、箱を持ち上げて国王に見せつけた。
「国王様?以前頼まれました発明が出来上がりましたよ。一刻も早くお知らせに参りました」丁寧な言葉づかいなのだが言葉の節々に挑むような挑戦的な勢いがあり、いつもの柔和そうな笑みというよりは意地悪そうに微笑んでいる。
齢10ばかりの幼いラグを牢屋に放り込んだことで、ミルフィーユの国王に対しての信頼は完全に失われたのだということがはっきりと理解できる。
それはルークも同じであり、今しがたまごついた自分が少し恥ずかしく思えた。

「ほぅ、できたか。どのようなものなのだ?」機嫌を直したように国王が嬉しそうにいい、リレーナとリリーに指示を飛ばした。
「メルセルムの尋問は少し休題する。お前たちは各々で尋問なり拷問なりをして先程の情報を聞き出せ。小一時間ばかりしたら状況を報告に参れ。そしてブランドリス、そなたは残れ。発明品の補助を手伝うがよい」
 ほっとしたような顔のライヤに、リレーナが不満そうな顔でお辞儀をし、リリーと数人の騎士、ルークを除いた告発証人がぞろぞろと玉座の間から退室した。
 牢獄で尋問をするように指示したのは、まだそこに囚われているラグに対するあてつけだとわかり、ミルフィーユが憤慨したように国王を眺めるが、王は素知らぬ顔をしている。
玉座の間にはラルス騎士団長と一塊の白騎士、宰相と王妃、そして対峙するミルフィーユとルークだけが取り残された。
「さて、それでは箱を開け、発明品を見せてみよ」
だがミルフィーユは箱を国王の御前に置いただけで、拒否するように腕組みした。
 ルークはひやひやしながらミルフィーユを見ていたが、ではお前が開けろと国王に命令されても同じように動かないことに決めた。
ルークが国王から目をそらすと、国王は苛立ったように発明家一家を睨み、どうしようもない頑固者の変わり者の偏屈一家だと小声で悪態をついた。
「何が気に入らないというのだ?言ってみよ、ミルフィーユよ」
「では言わせてもらいましょう」国王の妥協の声に待っていましたとばかりに頷き、腕組みしたままミルフィーユは国王より明るい真青色の目で深海色の目を見据える。
「私は約束通り発明品を作りました、それも三つもです。発明品の操作をするのは我々の執事、ランス・アームストロングを解放してからです。でなきゃ、箱は開けませんし、無理に開けようとすれば大爆発を起こすよう仕掛けがしてありますのでね。試したいのならどうぞ」
「……」
 国王が「ヤツの首をちょん切れ!」と口走るのではないかとハラハラしたが、国王は何とも言えない表情でルークを見下ろした。
「ほんとに、本当に爆発します。ライヤ・メルセルムが逃走を図った時に、僕たち告白証人目掛けて盗んだ発明品の箱を投げつけてきて、爆発を起こしました。幸い小規模の爆発で、癒しの呪詛を僕が知っていたので怪我を治療することは出来ましたが、このくらいの箱の大きさとなると爆発量も…」
手足が吹っ飛んだら、僕には治せないかも、ともごもごとつぶやくルークに、国王の傍らにいたラルスが不審物質を見るようにあっけにとられた表情で箱を凝視した。
「よかろう、ランス・アームストロングを釈放せよ」諦めた様に疲れ切った声の国王が手を叩き、騎士の一人を指差して、ここまで連れてこいと指で指図した。
 黒い扉を騎士の一人が駆け抜けていくと、ミルフィーユが満足気な顔をして国王に笑いかけ、国王は不機嫌そうに肩肘をついてその満面の笑みをにらみつける。

 しかし国王をイライラさせる価値はあったと、ラグの姿を見ればそう思わずにはいられなかった。黒い扉から怯えた様に歩いてきたラグは、ミルフィーユとルークの姿を見ると、痩せこけて青白くなった顔に笑顔を浮かべ、泣きじゃくりながら飛びついた。
小さな弟たちと再会を果たしたように、ラグとルークを大きく手を広げてまるごと抱きしめたミルフィーユは笑いながらぐるぐると回転し、後ろに倒れそうになって慌ててバランスをとった。
微笑ましくてしょうがないという様に王妃が胸に手を当て、ラルスは頷きながらニコニコとしている。
「さあ我が家に帰ろう!」と言い出しかねないミルフィーユに、国王は再開に水を差すのをためらいつつも、唸る様に咳払いをし、促すような視線を投げた。
 あぁ、と思い出したようにミルフィーユが笑いながら頷き、木箱を素早く開けた。そして中にたくさん詰まっている丸っこい機会から3つ選び出すと、説明し始めた。
「細長い機械は、内部に蓄えられている電流を相手に押し付けることで流すことが出来、相手をショック状態にすることが出来る。とくに甲冑を着た騎士たちには効果的ですね。うまくいけば一つの機械で大勢の騎士を連続的に失神させることが可能」
機械の先端についた金属の棒を指差し、これを相手に押し付けてください。ちなみにルーク君や電気系の魔法使いがいれば充電して再利用もできる代物ですよ、物理的な科学力ですから魔法使いの防御壁も突破できるでしょうと口早々に説明した。
 感心して頷く国王は、一言も聞き漏らすまいと玉座から半分腰が浮きかけている。
「次にこの球体の機械。押すとへこむようになっているスイッチを押すと、内部で静電気が発生し、中心部にあるマグネシウムリボンに発火し、すさまじい閃光を発生させます。目くらまし効果が期待できます。そしてこれ—」
 目まぐるしく動き回り、ミルフィーユは三つめのサイコロ型の機械を掲げて見せた。
「これは落とした衝撃で三十秒ほどカプサイシンを原料とした催涙ガスを噴出し、当たった不幸な相手は小一時間は皮膚がヒリヒリし、咳き込むように泣きじゃくるでしょうね。戦意喪失まちがいなしです」
間違っても今ここで落とすなよ?というような国王の視線を受けてか、ミルフィーユは三つ全部箱に戻し、献上するように国王へ差し出した。
 まだぐすぐすと涙を流し、ルークの側に迷子になった子犬のように鼻をすするラグの背中をやさしくたたきながら、ルークは感嘆していた。
(全部人を殺さないで戦闘不能に出来る発明品…これが殺戮兵器じゃない兵器だったんだなぁ)
僕は殺戮兵器そのまんまの爆弾や地雷くらいしか思いつかなかったのに。
これでもう第二の家族のような発明家家族のことは心配しなくていいんだと思うと、肩の荷が下りてずいぶんと楽になった。



ラグ君お勤めご苦労様でしt((いえ、出所おめでt←
今回は書くのが楽しかったですね。貴重な癒しキャラのラグ君が帰ってくる回でしたのでw
そして、参照6200ありがとうございましたっ!