複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照6200ありがとう御座います! ( No.487 )
日時: 2015/04/15 19:38
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

068 カメルリング王国ルート



 「すまない、サイオンジ殿。側近も、フランチェスカを見ていてくれないか?」
キールはフランチェスカを礼拝堂の祈りの椅子に座らせ、一身に祈りをささげつぶやくように聖歌を歌う修道士たちの方を眺めながら声を潜めて囁いた。
ほの暗く、数多の蝋燭に照らされた礼拝堂はこの世のものとは思えないほどの雰囲気をしており、簡単に幻想的などと言えないほどの不気味な神聖さを讃えている。
その闇に溶けてしまうような黒髪のツバキが、なぜ、というように小首をかしげて鋭くキールを見た。側近もどこに行くつもりかと慌てて問い詰める。
「俺は父上と母上の元に戻る。尋問の内容が気になるんだ。おそらく、あのライヤとかいうスパイ容疑者は今頃拷問も兼ねた尋問を受けていると思うから——」
言いながらキールはフランチェスカを探るように見つめ、その深海色の瞳が蝋燭の灯で揺らめくのを見て、目を伏せた。
側近は困ったという様に椅子に腰かけるフランチェスカとドア付近に立つキールを交互にみつめ、どちらの側にいるべきか測りかねているようだった。
「二人とも妹の側にいてくれ。俺は一人でも戻れる」猛反論を繰り出そうと口を開いた側近を片手で制し、もちろんと付け加える。
「もちろん廊下も部屋も今日はいたるところに騎士や使用人がいる。どこにいようが百人の騎士に囲まれているのと同じくらい安全だ。違うか?」
側近の心配げなまなざしを冷たくあしらい、キールはくれぐれも妹をよろしくと言い残し、扉に手をかけて礼拝堂から出て行った。


 無事に側近とツバキから離れられたことに安堵しながら、キールは妹の不可解な表情を思い出し、唇をかんだ。
ライヤというスパイが鎖でがんじがらめに縛られていても、敵国の差し金ならばキールも他の多くの人物も当然の報いだとみていられるが、妹は違う。
歩き出しながら、キールは答えを求める哲学者のように腕組みをした。
フランチェスカは類を見ないほどの平和主義者であり、彼女と意見がピッタリ合うのは牧師や修道士しかいないのではないかというほど、慈愛の心をたんまりと抱え込んでいる。
 そもそも長女が死産だったこともあり、その死を丸3年間嘆き悲しんだ王国が望みに望んだ待望の次女がフランチェスカだったわけである。
小さなころから死んだ姉の話を聞かされ、王国の国民全員がどれほど嘆き悲しんだかを耳にタコができるほど聞かされ大切に育てられれば、どんな命も尊重する心優しき子供に育つだろう。
フランチェスカの場合、自信に宿った強烈な魔力のおかげでそれが異常なまでに顕著に表れ、もはや偽善者の領域を吹っ飛ばし聖人の域に達してしまっている。
それが美徳だったはずだったのだが…その光景を思い出し、キールは首をひねる。
スパイが尋問において答えるのを拒否した際、手荒く扱われたというのに、フランチェスカは無表情でその光景を見ていたのだ。
「絶対にありえない…今までこんなことはなかった…」
キールに深々とお辞儀をする騎士たちを追い越して、その足は徐々に城の上層部へと向かっていく。もともと、玉座の間に戻るつもりはなかった。
一つの懸念事項がキールの思考回路をのっとったように彼を悩ませた。
 フランチェスカは悩み事が、それも身内に対しても明かしてはならない隠し事があるに違いない、とキールは階段を駆け上がりながら自分自身を納得させようと努力していた。
だから、スパイがむごい拷問を受けそうになってもそれを無表情で眺められたのだ。いや、むしろ、重大な考え事をしていて上の空だったのだ。
そうでなければいままでの、現在牢獄に放り込まれ終身刑を言い渡されている七人の盗賊たちへの死刑撤回を悲痛に訴えていたような行動の意味が解らなくなってしまう。
(フランチェスカは何かを隠している。それがもしかしたら…)
城のてっぺん、最上階にたどり着いたキールは、自分の部屋とは反対方向にある妹の部屋へと視線を投げた。
カメルリング王家の紋章が施された優雅な扉に、ためらいながら近づくと、周囲を見渡して誰もいないことを確認した。
(もしもフランチェスカが昨夜忍び込み魔導剣士によって深手を負った二人組を保護し、匿っていたら…)
この扉を開けて中にいる人物たちを使用人たちに目撃されたら、フランチェスカが大きな罪をかぶることになる。妹のやさしさを知る兄としてはそれは避けたかった。
扉に耳をつけ、中から物音が聞こえてこないかと息を殺しながら考える。
(妹と同じくらい慈悲深いキリエ牧師や、妹に尊敬され忠実な先生役を果たしているリグ僧侶とユニートが、もしかしたらここに閉じこもって怪我人を手当てしているのかもしれない…?)
思い違いであってほしいと願いつつ、そっと扉を開け、部屋に一歩踏み込んだ途端、がたがたごとごとと、奇妙な音が耳についた。
 絶望的な思いで音の根源であるクローゼットまで歩み寄り中をのぞくと、そこには縛り上げられてもがくように身じろぎする三人組が放り込まれていた。



こんばんはコッコさん!
やっと発明家一家が修繕されましたね。これについでバラバラになった人たちが彼らみたいにまた再会を果たせたらいいですねぇ…((意味深
コメントありがとうございます!