複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照6200ありがとう御座います! ( No.488 )
- 日時: 2015/04/17 21:00
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
カメルリング王国ルート 069
「どうなっているんだ…」
一瞬呆然としたものの、キールはすぐさま縛り上げられた三人組を引きずり出し、縄紐をほどいた。びっくりするほど簡単にほどける縄に戸惑いつつ、キールは三人組—キリエ牧師、ユニート、リグ僧侶の様子にさらに混乱する。
今まで行方不明だったはずの三人が、なぜかゆるく縛られ妹の部屋のクローゼットに放り込まれている時点で不可解なのだが、縄を解かれた彼らは一言もしゃべらずただもがくように手足を動かし、開いている目はキールを確かに映しているはずなのに、まったく反応しない。
「キリエ牧師殿…?」
魔術の気がないキールはめったにリグ僧侶とユニートに顔を合わせることはないが、月に一度ひらかれる王族の礼拝堂での夕べの祈りにはキリエ牧師が毎度足を運んでおり、その際に話をしたことがあった。
その際のキリエは宗教と哲学は実は切り離して考えられる、と少しはかなげに笑っていたのを覚えている。
少なくとも夢遊病患者のようにうつろな目をして身じろぎするような人では無い。
こんなことをしたのはいったい誰であるのか、もしかしたら本当にフランチェスカたち4人が逃亡者を保護し、手当てをしていたが、治療後恩をあだで返されてクローゼットに放り込まれた?
見渡す部屋には血の跡は見えず、椅子の下や本棚の影にも包帯のくずはない。ただ絨毯の上に大型の書物が開かれておいてあるだけだ。
なんとか三人を立たせて玉座の間へと連れて行きたかったが、すぐ思い直し、ふらふらとゾンビの用に歩き出した三人が転落死しないようにバルコニーを閉め、シランを求めて二段飛ばしで飛び降りるように階段を下った。
玉座の間の扉の前まで戻ると、今度こそ扉をけ破られまいと警備を増した黒塗りの扉の前は騎士でいっぱいだった。
そのうちの一人に走り寄りながら声を掛ける。
「幻術師殿はいるか?呼んできてほしい」
「いえ、幻術師殿は地下牢へ参りましたが…なんでもスパイの尋問を地下牢で行えと国王様が仰しましたのでそちらに—」
そうかありがとう、と素早く踵を返しうろたえる騎士を置いておよそ王族には縁のない地下牢獄へと走る。
シランは一番目の牢獄の前にしゃがみ込んでおり、キールが歩み寄るとあわてて立ち上がろうとしたが、青ざめた顔でまたしゃがみ込んだ。
同じように告白証人であるシュタイン亭の貴婦人とその上々客である体格の大きな男が腰が抜けた様に牢獄の床にへたり込んでいる。
シュタイン亭の貴婦人はその腕の中に、最年少の傭兵であるノイアーという少女をしっかりと抱きしめており、ノイアーは首だけを無理やり巡らせて、長く牢獄が連なる方向へ目を向けている。
「フランキール王子…その、向こうにはいかない方が…尋問が始まってそれで…」
何があったのかと眉根を寄せて彼らを眺めていると、シランが恭しく頭を垂れながら口を開いた。
耳をすませば確かに、押し殺したうめき声と、質問を繰り返し投げかける声が聞こえてくる。
確かに玉座の間では尋問を続けられないわけだ、と頭の中に血がしみこむ絨毯を想像して一人納得する。
「幻術師殿、あなたに見てもらいたいものがある。ついてきてくれないか」
苦痛を訴える声に耳を塞ぎ、キールはシランに有無を言わさずついてくるように指示し、シランは牢獄の奥へ一瞬目をやり、頷いてついてきた。
「取り乱さずに落ち着いて分析して見せて欲しい」と言いながら、たどり着いた扉を開けてシランを部屋の中へと招いた。
部屋の中を一見してみると、誰もいないように見えたが、部屋の隅や本棚の前に転んだ状態の彼らを見つけ、シランはぎょっとして紅い目を見開いた。
「ユニートさん!なんで本棚の前でアホみたいにバタバタしてるんですか?」
「どうやらみんな我々を認識できず、自分自身がどのような行動をとっているのかも分かっていないらしい」
ユニートの側に跪き、診察するように片目を指で押しあけながら眉を寄せているシランに告げれば、シランは深刻な顔をして「これは幻術の影響です」とつぶやいた。
その証明であるかのように、シランはユニートのめがねを掲げながら、「 火の第九室 解除 」と唱えれば、ユニートの支店の定まらない瞳が、ぼんやりと焦点を結びだした。
部屋の隅に向かって歩き続けていたリグ僧侶も、途方に暮れた様に棒立ちしてあたりをきょろきょろ見ていたキリエ牧師も、やがて正気を取り戻した。
「……?」
「気づきました?ユニートさん。幻術に掛かってたんですよー?」
術が解けた影響でぼうっとしているユニートに無理やり眼鏡を掛けながら、意識を取り戻した患者にしゃべりかけるようにシランがしゃべりだす。
「直前にこの人たちを見ましたよね?」
貴方たちもこちらに、とキールがぽかんとしているキリエ牧師とリグ僧侶の腕を引いてシランの前に座らせる。
「この世は終わったはずでは?」「さっきの砂漠はどこに?」「さっきまで底なし沼にはまってたのに」などと困惑して呟いていた人物たちは、シランが3つのマスコットを三人の目の前にぶら下げると黙り込んだ。
「確かに、見た気がする…」ユニートが眼鏡をかけ直しながら顔をしかめ、なぜ体中がずきずきするのか訳が分からないと辺りを見回し、ガラス張りのバルコニーを見て驚愕したように叫んだ。
「今は朝?!」
「なんですって?!」
「おや本当に…?」
ユニートがバルコニーを指差してわめくと、キリエとリグがそれぞれ反応する。その光景に笑い出しそうになるシランだったが、キールがそれをさえぎる様に口を開いた。
「少し話を聞きたい。正直に話してほしい。昨晩、フランチェスカと共にここで誰かを匿い、治療したか?例えば、血まみれのメイドと執事だとか…」
しかし帰ってきたのは「いいえ」の三人合唱で、シランが三人を弁護するように横から口を挟んだ。
「ツバキ団長によれば血まみれの二人組は自分たち自身で治療をし、そのまま窓から城の外庭へ脱出したって聞きましたけど。その証拠として一階の部屋に靴跡や血の跡などが残っていますよ」
「あなたたちとフランチェスカは、晩餐会が開始してから三十分後にフランチェスカが就寝するために別れたと聞きました。その後に幻術師に出会ったのか?そして深夜に賊侵入を聞きフランチェスカが部屋を離れた際にあそこのクローゼットに押し込まれたと?」
シランの言葉に目を伏せたが、キールはそれではと三人と目を合わせながら奥のクローゼットを指差した。
「いえ、そうではありません」すかさずキリエが声を上げ、バルコニーから差し込む太陽の光に呆然としながら「私たちは晩餐会が開始してから、ずっと王女様と共にいました。就寝なさるなどは一言も聞いておりません。ただ、そこにある魔導書を見ていたとき、使用人の二人組が居たことは覚えていますがそれっきり記憶が…」
差し込む太陽光線から目をそらし絨毯の上に開かれた大型の魔導書を手に取るキリエに、ユニートもリグレットも同意する。
「その使用人二人組っていうのが、このイヴとクウヤだよね?でも…それならなぜ王女様はこの三人と別れただなんて言ったんだろ?」
イヴとクウヤのマスコットをもてあそびながらシランが口にすれば、キールが腕組みをして部屋の中をうろうろと歩き出す。
「フランチェスカと話す必要がある…もしかしたらフランチェスカの慈悲をあてにした奴らが、見逃してくれるように頼んだ可能性もある…」そして尋問中に肉親にも言えない秘密を抱え込んだことで良心の呵責を起こし無表情だったのかもしれない。
意を決したキールは腕をほどき、扉に手をかけて四人を振り返った。
「あなたたちはここから一歩も出ないでほしい。すべて済んだら、声を掛ける。よろしく頼む」
そして有無を言わせず扉を閉ざした。
参照6300ありがとうございます!
そして今夜は連弾ですっ