複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照6200ありがとう御座います! ( No.489 )
- 日時: 2015/04/17 21:13
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
カメルリング王国ルート 070
礼拝堂の扉の前で、キールは一瞬扉を開けるのをためらった。尋問の最初しか聞いていないが、すでに帝国の賊どもは王都から脱出したという。それならわざわざ妹の秘密を暴く必要などないのでは?
(でもやはり…フランチェスカはどこかおかしい)
扉に寄りかかりながら、晩餐会以前のフランチェスカならばとる行動を思い浮かべてみる。
まず、修道院が破壊されたことで祝う気分など起きないと、晩餐会を欠席する。実際に欠席しており妹らしい行動である。
しかし、今日の尋問の最中、彼女は顔を覆いもせず無表情で尋問を眺めていた。もし思い悩んでいたとしても、そんなことありうるのだろうか?
そしてもう一つ不可解なのは、尋問会場から大人しく出ていき礼拝堂へやってきたことだ。フランチェスカが礼拝堂へ移ったところでスパイへの尋問や拷問は止まることはない。
しかし、会場に残れば暴力のかけらを見つけ次第声を上げて止めさせることが出来るのに、礼拝堂へ移動した妹。
妹の落ち着いた表情で椅子に座る姿を思い出し、キールは顔をしかめる。まるで別人のようだ。
これははっきりさせなければならないと、キールは礼拝堂の扉を押しあけてフランチェスカの名前を呼んだ。
「お兄様?」
不思議そうに小首を傾げ、こちらに歩いてくるその姿が闇の中からぼんやりと近づいてくる。その姿にどこか不審な点はないかと目を凝らすが、髪飾りも、髪の色の、瞳の色も、記憶のままのフランチェスカだった。
ツバキや側近がそのあとに続いてくるが、どうしても撒かなければならない。この話は兄妹だけでしたい。
「少し話がしたいんだ」
じっとフランチェスカはキールの目を見つめ、ゆっくり頷いた。
「それでは中庭でお話ししましょう」
「わっち等もお供いたします。勿論、話の内容は聞くつもりなど御座いません」
歩き出したフランチェスカについてツバキがきっぱりと宣言し、キールは思わず了承して眉根を寄せた。
「俺のいない間妹はスパイのために祈っていたのか?」
妹とツバキの背中を見ながら側近に耳打ちすると、側近はいいえと首を振った。
「スパイが盗んだ本を熱心に読んでなされていました。我国の歴史書を熱心に読むのはよいことですね」
そうだな、と曖昧にうなづきながら、キールは視線を妹へ投げた。
中庭にも騎士は大勢いたが、皆慌ただしく動き回っているので立ち聞きされることはないだろうとキールは安心する。
既にツバキと側近はこれほどの騎士たちがいるのだから平気だろうと後方をゆっくりと歩いていた。
フランチェスカと並んで歩きながら、キールはすぐに尋ねた。
「嘘をついたな」
「え?」
歩く速度を緩めずに、フランチェスカは周囲に目を向けながら不思議そうに聞き返してくる。何かを探しているように可憐な花壇には見向きもせずに視線を投げる様子は少し奇妙だった。
「昨晩、晩餐会開始後から三十分経ってからキリエ牧師、ユニート、リグ僧侶と別れたと言っていた。でもそれは嘘だ、そうだろう」
「なぜそう思うのですか?」
ますます歩く速度を増しながらフランチェスカが白を切ろうとする。年齢は離れているが仲のいい兄妹だと思っていたのだが、と少し信用されないことにがっかりしながらキールは先を続けた。
「お前の部屋のクローゼットの中から、行方不明中のキリエ牧師達三人が出て来た。彼らは幻術に掛かっていて、幻術師の兄妹に術を掛けられる直前までお前と一緒にいたと言っていた」
フランチェスカが黙り込み、芝生を踏む速度が少しのろくなった。どこかでグルグルと喉を鳴らすような奇妙な音が聞こえたがキールは無視した。
「お前だけは幻術を掛けられなかった。どうしてだ?見逃してくれと言われたのか?」
フランチェスカが足を止め、ようやくまともにキールの目を見た。しかしなぜだか、値踏みされるような攻撃的な視線のように感じられ、思わず一歩離れそうになった。
「それに、お前は罪人にさえ慈悲を掛けるような性格だったはずなのに、なぜ尋問の最中あんなに冷静だったんだ?まるで別の人間がお前にすり替わったみたいに奇妙だ」
自分自身で言った言葉なのに、妙に納得し、キールは妹の顔をまじまじと見た。
「ほんとうに…別の人間にすり替わったみたいだ。外は同じでも、中身がまるで違う…」自分と同じ色の深い海の底のような瞳をじっと見ていると、今までにはない色がちらりと走るように見えた。
「わたくしにはお兄様がおっしゃることがわかりません。なぜそのような酷いことを言うのですか?」
悲しみを讃えた顔でフランチェスカが胸に本を抱きながら静かに兄に訴えかけるが、キールはその本を指差した。
「その本、スパイがお前の部屋から借りたと言っていたが…そんなもの以前あったか?貸してみろ」
しかしフランチェスカは後ずさりし、それを拒否した。
更に不信感が募り、キールは無理やり本を奪い取ろうと手を伸ばす。
後にいるツバキと側近がどうしたのだろうという様に顔を見合わせるのが視界の端に映った。
「おやめくださいお兄様」
伸ばされたキールの手から逃れ、フランチェスカは兄を睨みつけた。その形相の鋭さに、咄嗟に答えがひらめくほどの殺意が込められていた。
「晩餐会の夜、誰かが幻術師兄妹と共にフランチェスカの部屋に入り、本物とすり替わっていたとしたら…スパイがお前に何かを渡す意味も理解できるが…?」
今ここで殺されるかもしれない、と思うほどの視線で睨まれながら、キールはフランチェスカに呟いた。
「もしそうならお兄様……頭のいいお兄様には——次にどうなるかも想像できるよねェ?」
フランチェスカは口が裂けるほどの笑みを浮かべ、横っ飛びに走り出した。呆然とした兄を残し、庭にある大きな茂みの奥に飛び込むと、次の瞬間何か巨大なものがバタバタと飛び出し空に舞い上がった。
「なん…あれは、リレーナのドラゴン…?」
何が起こったのか理解できないうちに、上空に舞い上がったドラゴンが足に本を掴んで小ばかにするようにケタケタと笑うのが聞こえた。
「こんなに早くばれちゃうとは予想外。でももう気付いたって遅いもンねェ〜」
この若い女のような甲高い捨て台詞により、フランチェスカの形をしていた人物が、ワイバーンにとって代わって逃げ去っていくということが理解できた。
「弓隊はあのワイバーンを撃ち落せ!奴は敵だ!そしてヤツの持っている本を回収しろ!」
指示を出した後、いったいなぜ人がドラゴンに変わることが出来たのか探る様に茂みの奥を見ると、鎖に繋がれて寝転がる本物であろうワイバーンが何事かと見つめ返していた。
ドラゴンの目を見つめながら、キールはもう一度空を振り返り、妹だったワイバーンを見上げた。
本物のフランチェスカは帝国の賊にさらわれしまったのかもしれないと考えると、ふつふつと怒りがこみ上げると同時に、もうどうしたらいいのだろうと脱力感に襲われた。
今回も多い…;
まぁ解決話だからしょうがないけど、読みにくくなければいいんですが…