複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照6300ありがとう御座います! ( No.495 )
- 日時: 2015/04/21 00:39
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
ミカイロウィッチ帝国ルート 068
根が張り巡らされてデコボコした樹海を、満身創痍で一週間歩き続けるとなると、結構な重労働である。クウヤは剣を杖代わりにして痛む脇腹を撫でようとして腕を上げ、さらに呻いた。
どこもかしこも痛い。
それなのに歩かなければならない。
「もう昼過ぎになっちゃうでしょ!痛いのはわかるけど急ぎなさい!」
前方で治れた巨木を乗り越えながら、アーリィが振り返ってクウヤに励ますともつかない怒鳴り声を上げた。
こっちは手首骨折で肋骨を打撲してるんだぞ?と大声を張ろうとするが、すぐに殴られたようにわき腹が痛み、堪えるように長くため息をつく。
「ぁあー…魔術で何か乗り物作り出してくれ…」
「何言ってんのよ、そんなの出来るわけないでしょうが」
大木の向こう側へぴょんと飛び降りたアーリィの言葉に、クウヤは立ち止まって息を整える。ここにイヴがいたなら泣き言文句ひとつ言わずずんずん進んでいただろうが、今は妹はいない。よって見栄を張る意味がない。
(樹海か…いい思い出はあんまりないな)
痛みをこらえて樹海を見回すと、約4年前の思い出が目の前に再現されるように、ぼんやりとした姿が森の中を駆け巡る。
小さな自分と、小さなイヴ、そして小さなシランがそれぞれの武器を片手に森を走り回って小動物に幻術を掛けて修行をしている。
そして樹海の中心にしずしずと立っている寂しい鉱山のてっぺんで、包帯を巻いた師匠が弟子たちの帰りを待っている…。
師匠との逃避行の間は、それが一種の旅行のようで楽しかった。しかし、容体が悪化する師匠と、その旅の結末に待っていた別れが、楽しかった三カ月ほどの思い出を黒く染めた。
(またきっと一緒になれるはずだ…)
イヴの作ってくれたマスコットに触れようとして、クウヤは痛みで飛び上がりそうになった。骨折した方の手首を動かしたため、声が出ないほど痛い。
それで現実に戻ったクウヤは、ふと、頭上を見上げた。何か巨大な影がわずかな木漏れ日を一瞬遮った気がしたのだ。
「鳥か—?」
頭上を見上げたクウヤは目を疑った。なにかよくわからない大きなものが、密集した樹木を突き破り、空からこちら目掛けて飛び降りてくる。
「見つけたァー!」
少女の甲高い声のような喚き声とともに、今しがたアーリィが乗り越えた倒木の上にどすんと着地したのは、後ろを向いた巨大なコウモリのような物体だった。
顔が見えないが、異様に長い尾がくるりととぐろを巻いて、今しがた倒してきたばかりのバケモノを思い出させ、思わず蒼白になる。
精神的にも肉体的にもいっぱいいっぱいの今、再びあの血肉戦をやれというなら死ぬ自信がある。
「アンタ…セイリーン?!」
呆然と立ち尽くしていると、倒木の向こう側から同じように困惑したアーリィの声が聞こえてきた。
「アンタ王女に化けてたんじゃなかったの?!命令無視してここまで来たわけ?!」
すぐ戻んなさい!と喚く声に、倒木の上の生命体はしゅんと縮こまる。その人間らしい表現の仕方に、クウヤはようやく事情が呑み込めてきた。
王国にフランチェスカ王女として置いてきたドッペルゲンガーのセイリーンが、なぜか奇妙なコウモリのような生命体になって後を追いかけて来たらしい。
セイリーンの縮こまる大木を遠回りしてアーリィの隣に立ったクウヤは、セイリーンを見上げる。
まるっきり王女の姿を捨てて、新たに奇妙な爬虫類コウモリに姿を変えたらしい。
その爬虫類じみた口が開き、おどおどした少女の声が答える。
「セイリーンがフランチェスカに化けてたことばれちゃった。ライヤのこともばれちゃった。ライヤが本をくれて、どうすればいいか教えてくれたの」
爬虫類セイリーンがアーリィに後ろ足でつかんでいた書物を差し出し、これでアーリィの機嫌が直るようにと願っているように見えた。
アーリィが書物を開けると、一見して普通の歴史書にしか見えなかったが、ある一ページだけ赤茶けてかすれた文字で中庭と書かれ、指で乱暴にこすったような、うねった羽の生えた蛇のように見える汚れが書いてあった。
「それ血なの。だからすぐわかった」
飢えるほど人好きなセイリーンが目を輝かせ、ライヤの血文字を首を伸ばして覗き込む。その長い首を見上げながら、訳が分からないとアーリィが本を閉じて質問する。
「ライヤがばれたって…スパイしてることがばれたわけ?」
「スパイってことがばれて、国王たちの前で尋問をされてたよ。ライヤは自分はもうだめだからワタシにこの本を預けて皇女サマに返しといてって頼んだの。でもワタシも奇妙だって疑われてバレて、逃げてきた」
「それでどうしてこんな恰好なの?」
アーリィが指を伸ばし、セイリーンの赤茶色の鱗一つ一つをゆっくりと撫でた。意外と滑らかなうろこは、人間の肌を鱗にしたような触り心地だった。
「ライヤが王国にドラゴンがいることを知らせたがったし、この姿ならすぐご主人を見つけられると思ったから」
なんですって?という大声に、セイリーンは1つずつ自分の知っていることを二人に話して聞かせた。
「例のバケモノはこの仲間かもしれないな…そうなるとまずいんじゃないか?」
「とにかく早く盗賊団の奴らと合流して帝国に帰って手を打たないと………それで、ライヤは生きているの?」
セイリーンは爬虫類の首を傾げて、悲しげに首を振った。
「今はもうわかんない…」
「そうか…」アーリィと顔を見合わせて、クウヤは苦り切った顔で首を振る。
「…それじゃ、海の方へ飛んでくれ。盗賊団の乗った船があるはずだから、とにかく合流しよう」
セイリーンの背中に乗り込んだ二人は、置き去りにしてきた仲間の末路を想像して、しばらくの間黙り込んだ。
今晩はコッコさん!
スパイの醍醐味と言ったら、仲間のために自分の命を賭けてウソをつくこと…裏切ると見せかけて裏切らないとこがスパイのかっこいいとこなんですよね!
そんな雰囲気が出てればいいんですけど…
コメントありがとうございます!