複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照6300ありがとう御座います! ( No.496 )
- 日時: 2015/04/25 15:59
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
ミカイロウィッチ帝国ルート 069
潮風が船室の窓から入り込み、イヴの血にまみれた民族衣装を徐々に乾燥させていく。リンの枕側に座りながら、イヴはぱらぱらと魔導書をめくっていた。
何が書いてあるのか全く分からないが、植物が唐草模様を描きながらうごめくような文字は見ているだけで楽しい。
触っても文字は反応しないが、本を閉じてまた同じページを開くとまったく違った模様を魅せてくれる。
今開いているページは文字に花が咲き始めたように見えた。
「きれい…どうやって作ったんだろ…」
内容はわからないが、窓辺に立てかけて延々と眺めていたくなる本だ。単なる本ならばシランを連れもどせなかった為こんなもの!と投げ捨てたくなるが、魔力のある本はイヴの心を慰めてくれた。
「ねぇあれ見て。何かとんでくる」
窓から外を覗いていたツヴァイが、イヴを振り返って声を掛けた。本を置いて窓から外をのぞくと、晴天の空のもと、何か黒い塊が雲の合間を漂っている。甲板で雑談をしていた団長たちも望遠鏡片手に空を指差していた。
「鳥にしては大きいね…しっぽが蛇みたい」
空を見ながらイヴがうーんと唸り感想を口にすると、ツヴァイが眉を寄せながらイヴを見上げた。
「さっきのバケモノの仲間だと思う?」
「どうだろう。そうじゃなきゃいいけど…」
またあの化け物が襲ってきたら、今度はイヴが最前線で戦わなければならない。化け物の精神をいち早く崩壊させて溺死でもさせなければ、この船はすぐに沈んでしまう。
空を旋回する物体は、日差しを遮って狭い甲板に黒い影を落とした。見えてくる物体は太陽を背にしており、眩しすぎてどんな姿か見当がつかないが、どうやらこちらに急接近しているという事だけはわかった。
その物体が巻き起こす旋風で波が波紋を引き起こし、船員たちはどたばたと走り回り、乱気流で船が大揺れしないように帆を急いで引き下ろす。
輸送用の小ぶりなこの船には大砲など積まれておらず、頼りになるのは各々の持つ武器のみだ。
イヴが槍片手に窓から飛び出していくと、甲板で背中を押されながらよろめくウィンデルとすれ違った。
戦闘員で無い彼を振り返ると、
「ウィンデル、お前は船室入ってろ!」
ヴィトリアルが船室の窓へと急いでウィンデルを放り込み、ツヴァイがあわててウィンデルの腕を引っ張って船室に引きずり込んだのが見えた。
すぐに閉められた窓のそばをナポレオン帽をかぶった船長がサーベルを抜いて走り過ぎ、船員たちを蹴飛ばす勢いでヴィトリアルの横に並んぶ。
「なんだありゃ、説明しろ」
「もしかしたら空飛ぶバケモンだ。とにかく海に突き落とせば何とかなるだろ…たぶん」
彼らの会話を聞きながら、イヴもそれしか方法はないとつばを飲み込む。
(ここで失敗したら、兄さんにもシランにも、そして師匠にも二度と会えなくなる。それは嫌…)
近づく化け物を見上げながら、イヴはすぐに適切な幻術が掛けられるようにと槍を構えた。
ある程度知能が無ければかけたところで無駄な幻術がいくつもある。たいていの野生動物なら五感を彷徨わせるか、体重を重くしてやれば無抵抗になる。逆を言えばある程度の知能が無ければ12の内、更にイヴが使用できる8つの幻術の内この二つしか効かないことになる。
そしてどちらも空中にいる場合落下してくる可能性が極めて高い。
「オールで船を移動させて…!」
イヴの滅多にあげない叫び声に、ナポレオン帽の船長は空にサーベルを振り回しながら怒鳴った。
「腕っ節自慢の筋肉野郎どもはオールで船を漕げ!」
船が人力で動くスピードよりも謎の生物が舞い降りる方がはるかに早く、イヴは最悪を覚悟しながら槍を振り上げて口を開いた。
「 サギッタリアス 」「 火の第九室 解除解除解除——! 」
ぐらりと傾いだ物体から、イヴの声をさえぎるように誰かがわめいた。その声に、イヴは誰よりも早く反応し、反射的に声を掛けたつもりがその張本人に先を越されてしまった。
「俺たちは敵じゃない、お前のお兄ちゃんだぞ、イヴ!」
盛大に叫びながら船の甲板目掛けて飛び降りてきた人物が、着地するや否や体を丸めてうずくまる。
「お兄ちゃんが帰って来たぞ…」
「いったいどういう事…?」
訳が分からず武器を構えた人物たちが兄を囲う中、イヴはそれをかき分けてうずくまる兄が本物であることに仰天していた。
まだ自分が幻術に掛けられていると思った方が納得できる。
戸惑うイヴの上に、化け物との未曾有の対峙を引き受けて樹海へ留まった魔女の声が下りてくる。
「アンタ満身創痍な癖に飛び降りるってどういう事よ?」
完全に船と同じ高さまで舞い降りてきた謎の生物は、赤茶色の背中にアーリィを乗せていた。武器を構えた船員たちは戸惑う様に顔を見合わせ、船長の指示を仰ぐ。
「こいつらは敵じゃない」同じように戸惑う船長に、ヴィトリアルが首を振って武器を下すようにと手で合図したが、まだ自分は剣を手放そうとはしなかった。
「大丈夫よ、アタシ達本物だから」それを見て、アーリィは甲板に飛び降りるなり振り返って小さなバケモノにそのまま飛び続けるように命令する。
赤茶色の鱗に覆われた小型のドラゴンめいた化け物は再び船の上空に舞い上がり、雲の中へとまぎれて見えなくなった。
唖然としてそれを見送っていると、アーリィが杖と共につかんでいた分厚い書物をヴィトリアルに差し出して言った。
「アレはセイリーンよ。アタシのドッペルゲンガーで、王女に化けていたやつ。ライヤに代わって帝国にこれを届ける役目を負ってるの」
「これってライヤの報告書だろ…?これを帝国へ送りつけてあいつは眺望活動をストライキってわけか?」
ライヤの眺望報告が暗号化されて記された本を受け取ったヴィトリアルが本の中身を見て無理に茶化そうとしたが、ページに付着した血文字がそれを全否定する。
「状況が急変したのよ。クウヤの手当てをしながら、知ってること話すわ」
なんでイヴ血まみれなんだ?と仰天しながら反動で痛がるクウヤの方へ足を向けながら、アーリィは首を振って呟いた。
参照6400感謝!