複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照7100ありがとう御座います! ( No.506 )
日時: 2015/08/04 14:35
名前: メルマーク ◆gsQ8vPKfcQ (ID: kphB4geJ)

カメルリング王国ルート 072


 太陽の日差しが少し緩やかになった昼下がりの空を、リレーナはワイバーンの背中に跨って滑るように飛行していた。上空の強風にあおられてはためく赤毛を耳にかけ、リレーナは眼下の樹海へと目を落とす。
緑の絵の具で誰かが描いたように目にも鮮やかな美しい森の海に、王国の王女の姿が見えることを期待するが、森が深すぎてこのまま上空からの捜索は期待できそうもない。
「仕方ないな、降りるよ」
嘆息し、リレーナはワイバーンの首筋をやさしくたたいた。その合図でワイバーンが滑空し、森の切れ間に向かって急降下する。
普通なら絶叫してもおかしくないスピードで突っ込むのだが、リレーナは暴風から身を守るために軽く伏せるのみで、声一つ上げない。


 薄暗い木々の間から隕石の様に飛び込んだワイバーンは、軽く翼を広げて減速すると地面に倒れて転がる大木の一つに飛び乗る様に着地した。
着いたよ、と言いたげに首を巡らせてリレーナの頭を鼻先で突っつくワイバーン。その頭を撫でながら、リレーナはどこまでも続く暗い森に目を走らせて少し苛つき気味に舌打ちした。
「こんなに広いのか。まったく帝国の奴ら面倒なことばかり…!」
ベルトから長剣を引き抜き、足場の悪いコケに覆われた地面に突き立ててバランスをとる。
これは相当な労働になりそうだ、しばらくは帰れそうもない。
せめて本格的に戦争が始まるまでは、ラルスの側に居たかったが、仕方がない。
捜索を開始しようと足元に目を落とした瞬間、リレーナは思わぬ幸運に目を丸くした。
苔むした地面に、何組かの靴跡が刻み込まれている。視線でその行方をたどると、掠れはするものの、森の奥へと続いている。
(あの捕虜の奴は本当のことを言っていたらしいな…)
心底意外そうに足跡をしばらく眺めていたが、ワイバーンの触り心地の良い額を撫でて笑みを漏らす。
素早く腰に巻いたポシェットから紙をとりだすと、そこにシュバルツ宛に足跡を発見したことをしたためて、手綱に結び付けた。
「お前はシュバルツの所へこれを届けに行って。私はここを調査する」
従順に森から飛び立つワイバーンを見送ると、リレーナは空から見た景色を思い描く。ここは鉱山の付近で、海からは数時間歩かなければならなさそうなところだった。
しかし援軍を待つ暇などない。獲物を見つけた狩人の様に、リレーナは静かに興奮しながら足跡をたどって森を進んだ。


 足跡はかすれているものの、よく目を凝らせば二組で構成されていることがわかった。
疲れた様に重い足取りに目を凝らし続けていると、徐々に異様な光景が視界に入り込んでくる。
転がる大木に、えぐれた大地。辺りにたまに跳ねる赤は、もしかして血液だろうか…?
「一体何が…」
一直線に木々が消滅した区間に出ると、そこの部分のみ昼下がりの眩い太陽光線が降り注いでいる。
わけの分からない異様な空間に、神聖さが加わる光景なのだが、ますます不気味さが増すだけだ。
だが足跡はまだ森を抜けていく。緊迫したように必死に走る足跡に、こちらにも緊張感が伝わってくる。

「!」
しばらく歩くと、血なまぐさいようなにおいが強くなり、誰かの話し声が細々と聞こえてきた。
息を潜ませて木々の隙間からのぞくと、老人とフードをかぶった人物が岩の塊に話しかけている。
(王女をさらった手先…?でも王女の姿はないが…)
耳をすませば、会話が聞こえてくる。
「私らが魔法をつかえたらいいんだがね、もう看取ってやることくらいしかできることはないようだ」
老人の声に反応して、しわがれた声が唸るように絞り出される。
「それよりも—戦争が始まる。奴らを止められなかった…占い通りだ」
(何の話だ…?奴らは帝国の手先なのか、それともただの一般人か?)
二人の人物は向き合うわけでもなく、岩の塊に顔を向けている。相変わらず血のにおいが漂い、周囲に目を向ければ、いたるところの木の幹に乾いて黒ずんだ血が跳ねている。
まさかあの奇妙な二人組が、これをやってのけたのだろうか?
「彼らは火種の一つでした。だからあなたが彼らを止めても、別の火種はくすぶっています。決して今回の戦争は止めることは出来ないでしょう」
しわがれた声でも、老人の声でもない第三者の声が聞こえ、リレーナは眉を寄せた。人間は二人しかいないのに、声の主は三人?
よく見てると、岩の側で何かがずるりと動いている。蛇のような長いものが弱弱しく左右に動いているが、あれは…?
「俺の死は何もかも無駄だったのか…」
「ですがあなたの死は…あなたの行動は、この戦争の結末を少しは変えました。それでもまた誰か、貴方のような存在が命を懸けて、その命を落とすかもしれませんけど」
不思議な会話に耳を傾けながらその光景を見守っていると、徐々に岩の正体が飲み込めてきた。
岩の輪郭を視線でたどれば、何か得体のしれないが、彼女の相棒であるワイバーンに似た爬虫類の姿に見えてくる。
だがこちらの方が異常なほど巨大で、弱って見える。
老人の足元に投げ出された爬虫類の頭が、血にまみれた口を開閉する。
「その結末はいいものか…?」
(なんだあれは…喋るのか!私のワイバーンに似ているが、喋るなんて)
「それはまだわかりません。いろいろな因子がいて、一つ一つの行動で結末が変わりますから。戦争の火種の数が消えるほど、貴方の望む結末に近づくでしょうけれど」
フードをかぶった人物が首を振りながらつぶやくと、瀕死のバケモノは命の灯が消えかかる眼を一瞬ぎらつかせた。
「それならなおさら、あの連中…あの魔法使いと…奇妙な、幻を見せる…担架を引きずるやつら…子どももみんな…殺しておくんだった」
(担架…魔法使い?…幻を見せる奴ら?!それって帝国の差し金の事か?!)
慌てた様にさらに情報を得ようと身を乗り出すリレーナだったが、バケモノの声はもうしない。
「奇妙な幻を、見せる…?」ただ茫然としたような、抑揚のない声が聞こえる。フードの人物が横たわるバケモノを両手で眠りから起こそうとするかのように押している。
「ヨメナイヤツ…さん、それは…どういう?」
「ソーサラー君、もう無駄のようだ。彼はもうこと切れてる」
老人がフードの人物を静止すると、「君の占星術では火種と呼ばれる人物を直接知ることは出来ないのかね?」静かに聞く。
「いいえ、そこまで詳しいことは読めません…ただ、起こりうることと、その大まかな場所の位置は読めます…」
戸惑ったように包帯の巻かれた指先で、口元に手を添えたフードの人物は、気を取り直したように老人に向き直った。
「サイトさん、僕は帝国に行かなくてはいけません。もしかしたら、もう一度だけでも、彼らに会うことが出来るかもしれない。4年前の怪我はだいぶ癒えましたし—」
リレーナは彼らの前に出て行こうか迷っていたが、それよりも早く今得た情報—樹海の中で王女をさらった帝国の手先集団がまだいるらしく、奇妙な化け物に襲われたらしいこと—を王国へ持ち帰らなければならない。
音を立てないように二人組から離れると、もと来た道を戻り、ワイバーンと別れたところへと引き返し始めた。



こんばんはコッコさん!
とんでもなくお待たせしてしまいました!すみません…
さぁ正義はどっち?もあっさり2周年まで来ちゃいました…
そして放置しすぎてシャープの後ろの文字が何だったか忘れかけているという…