複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照7200ありがとう御座います! ( No.509 )
- 日時: 2015/08/18 01:18
- 名前: メルマーク ◆gsQ8vPKfcQ (ID: kphB4geJ)
カメルリング王国ルート 074
ルーク達魔術師・魔導士一派は、一度カルマの研究室に立ち寄ってから、魔術の訓練のため地下牢までやってきた。
2、3年前から収容されている七人の盗賊たちの牢獄を通り抜け、更にもっと深くらせん状の地下牢を進んでいく。
やがて見えてきたのは細い鉄格子が幾重にも連なる、数十人を一気に監禁できるほどの一つながりの牢獄。
カメルリング王城が建国された当初、もしものため、と建設された巨大牢獄は話によれば一度も使われたことがないという。
「これだけ広いと、逆に囚われてる感じがしないよね」
ユニートが看守から受け取った鍵で開錠する間、興味深げに広々とした牢屋を眺めまわしたルークが呟く。
「僕の実家より広いよ。もしかしたら、ミルフィーユさんの家、入っちゃうんじゃないかな」
「……そんなに言うなら…ここを新しい研究室にしようか。ちょうど暗いし、これだけ広ければ本棚がいくらでも置ける」
すごいなぁ、と感心するルークを小首を傾げながら眺めていたカルマが、監獄に目を向けて品定めするようにつぶやく。
呆れた様に扉をあけ放ったユニートに続き、リグ僧侶が監獄へ重々しく足を引きずって入り込みながら、恐ろしげにもごもごとつぶやく。
「止めて頂きたいですね。鍵をなくしたら残りの半生ずっと牢獄なんですよ…そして同居人のネズミにかまれて、何らかのウイルスに感染するかもしれない…」
胃が痛い、と浅黒い顔をしかめるリグ僧侶の顔をまともに見て、ユニートが振り返りながら「貴方の場合魔術師なんですから、こんな牢屋吹き飛ばせるんでは?」と言うが、リグ僧侶はネズミの存在を確認しようと部屋の隅々に目を走らせているため聞こえてい無いようだ。
四人全員が牢獄の中に入り込み、さぁ本題に入ろうとユニートが鍵をフロックコートのポケットにしまい込みながら声を上げた。
「僕ら魔導士・魔法使いは物理攻撃をしてくる輩には、近づきさえしなければ簡単に翻弄することが出来る」
だから正直言って帝国の騎士なんて驚異の対象にはならないと、ここに騎士たちが居たら怒り出しそうなことをユニートはさらりと口にする。
「本当に怖いのは同族同士。しかも自分より魔力の強い相手だ。簡単に殺されてしまう」
そこでどうするか、とユニートは催眠術を掛けるように人差し指を左右に振る。
「1つはひたすら逃げる。敵わないんだから、逃げるしかないね」
逃げられたら苦労ないけどね。とユニートが心の中で呟いたようにしか思えないが、そういう手もありますねと素直にうなづくルーク。
「2つ目は弱い者同士で結束して戦う事。もしかしたら勝てるかもしれないね」言いながらユニートはリグ僧侶の方へ視線を投げる。リグ僧侶はユニートにうなづいて、引きずって歩いていた棒状の物をルークへと差し出した。
それはぼろぼろの錆びた、刀身が炎の揺らめきの様に波打つフランベルジュだった。
「そして3つめは、魔導士にしかできない。相手よりも勝る魔力の宿る武器を使う、だね」
ルークがフランベルジュを受け取ると、バチバチという炸裂音が牢獄中に響き渡り、牢屋の隅で体を丸めていたネズミたちがあわてて駆けまわる。
「いいかい、このフランベルジュの存在が戦いの行方を左右するんだ」
フランベルジュの炸裂音に負けじと声を張り上げて、ユニートが紫の閃光を浴びで明滅しながらルークを見た。
「この魔法剣にはあのフランチェスカ様の魔力が宿ってる。その魔力を引き出せば、例のピンクさんを倒すこともできる。僕らの生死は君に懸ってる」
「でも…どうやって…」修道院襲撃事件でのリグ僧侶と小さな魔法使いの鮮やかな魔術対決をまじかで目撃していたルークは、口ごもりながら「向こうの方が、どう考えてもベテランだし…相手の呪詛だって唱えられても覚えてないし防ぎようが…」
僕に命を預けられても困る、と必死にあてにしないでほしいと弁解するルークを黙らせて、ユニートは声を張り上げる。
「大丈夫。その点は君に期待してない」さらりと言った後、「攻撃はリグ僧侶、防御は僕とカルマが受け持つ。その間君には防御崩しをしてもらおうと思ってる」
防御崩しをしろと言われても、ルークにはいまいちピンとくるものがなかった。
それでも途方に暮れたルークを置き去りに、広い牢獄を半分に隔てて、訓練は開始された。
「リグ僧侶は治癒専門だが、本来優秀な魔術師だから例のピンクとも戦えるだろうし、ユニートに関してもフランチェスカ王女の魔術攻撃に耐えることが出来た人だし、この役割分担には異存はないよ」
リグ僧侶とユニートの魔術訓練を心細そうに眺めるルークに、カルマが呑気そうにつぶやいた。
さぁ、ではやろうか、とカルマが杖を掲げるのを見て、ルークはたじろいだ。
彼女の武器である杖は、つぼみが開きかけた花が急に凍り付いてしまったような形状をしていた。
綺麗でもあったが、そのまま突き刺されたら血が出たどころでは済まない殺傷能力を持っていそうだった。
「私たちが君に期待しているのは、そのフランベルジュを使った防御の破壊だ」
カルマは鋭利な杖で、ルークの持つフランベルジュを指し、簡単に説明を始めた。
「魔力による攻撃を防ぐ方法は一つだけ。シールドを張ることだ」
言いながらカルマは凍り付いた杖を一振りして呪詛をつぶやき、床の一部に小さなシールドを張った。
「このシールドを壊すには、このシールドの魔力よりも高い魔力を込めた魔法攻撃を加える必要がある—『フェリシタルフリーズ』」
淡いシャボン玉のようなシールドが、突如出現した鋭い氷の針に貫かれてあっけなく砕け散った。
「ルーク、君にしてもらいたいこともこれと同じ」
床に鋭く突き刺さった氷の針を恐ろしげに眺めるルークに向き直りながら、純白の学者服の袖をめくってカルマが言う。
「君の本来の魔力ならピンクには太刀打ちできないだろうが、王女様の魔力でなら、ピンクのシールドも破壊できるはずだ…さぁ実践に移ろうではないか?」
「でもこんな大きなもの振り回している間に簡単に殺され—」
はっきり言って長時間振り回せるほど軽くないフランベルジュに、じわじわと腕の筋力が消費されてきていたルークは慌てて後ずさりする。
しかしカルマは振り上げた杖を下ろそうとはせず、代わりに意外そうに瞬きした。
「別にそのフランベルジュを振り回す必要はない。素肌に触れさえすれば、魔導剣士である限り剣の魔力を使用することが出来る。だから君はその果物ナイフの方の魔法剣で戦えばいいわけだ」
そんな、重石を持って戦うのと同じじゃないか、と後ずさりしながらつぶやくと、「それは君が非力だから仕方ないよ」と笑われる。
「それじゃ頑張りたまえ。—『シャレスティ』」
戦う準備など何もできていないルークが何か言う前に、カルマの放った呪詛が発動し、白く冷たい色の氷の針が地面を駆け巡ってルークへと牙をむいた。
誤字ちょっと訂正…