複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照7700ありがとう御座います! ( No.520 )
日時: 2015/10/08 18:13
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: A1qYrOra)

ミカイロウィッチ帝国ルート 073



 芸術的なものに目が無い、褐色の髪をポニーテールにした少女。それがエディだよ、とイヴに教えてもらってから一人廊下を歩み続けている。
ポケットにしまわれた紙切れには、イヴの書いた文字が躍っている。喋れなくても大丈夫なようにと、手渡してくれたのだ。
(芸術的な物…)
何かあるだろうか、と首を巡らせて歩くけれどさすが宮殿の中、金目の物なら何でもある。
メイドが磨く装飾品、飾られた絵画、編み込まれた美しい絨毯、上等の客間でもないのにドアノブには高価な金属がつかわれている。
(どこを探したらいいのかな)
イヴと手分けしたと言えども、この広い宮殿を探し回らければならないのには変わりない。
それに明確にタイムリミットまでついているのだ。
遅れれば、あのメイドのリンという人物が死ぬらしい。
 

 「どうか致しました?」
突然声を掛けられ、ウィンデルは慌てたように顔を上げた。見れば、数人のメイドが公式心旺盛な目でウィンデルを見下ろしている。
「……?」
好奇心というよりもむしろ、子猫とか子犬などの愛くるしい生き物を見つめているときの目である。
普通小間使いが階級のある人物には話しかけることは暗黙の了解でほぼないが、どうやら困っている様子を見て、話しかける気が湧いたらしい。
と、そのうちの一人がウィンデルの抱える湿ったパペットに気付いたようで、あらあらと実に面倒見のよさげな声を上げた。
「ぬいぐるみが濡れてしまったんですね?乾かして差し上げます」
メイドは意気揚々とエプロンの裾にパペットをくるみ、水気を取り除こうと丁寧に絞っている。
ちょっと待って、と抵抗する暇もなく取り上げられたパペットを取り返そうと手を伸ばした途端、ガヤガヤと周囲の喧騒が激しくなった。


 なにごとかと周囲に目を向ければ、騎士たちが慌てた様にバケツを抱えて廊下を駆け抜けるのが見えた。
ウィンデルの側に立つショートカットのメイドが騎士のあとからついていく小間使いに何があったのかと不穏そうに尋ねると、彼は肩をすくめた。
「騎士の訓練場で、大火事が起こっているらしいけど…」
「また?この前は傭兵たちの訓練場で火災があったし…」まさか放火?と剣呑そうな顔をしたメイドに、小間使いは首を振る。
「どうやら魔法使いが決闘してるらしい…先日のも今日のも、そのせいだって騎士たちが話してるのを聞いたんだ…」
うそっ、とその言葉に驚いたように他のメイドが口をはさむ。「魔法使いなんてまだ生きてたんだ…!大戦で魔法使いが収集されて、全員戦死したって聞いたことあったから…」
その魔法使いはどこかからここ最近連れてこられたらしいよ、とひそひそと話を始めた小間使いとメイドたち。
「見に行ってみる?」ショートカットのメイドが口元に野次馬の笑みを浮かべて上ずった声で囁いた。「魔法使いってどんななのか見てみたい」
色めき立ってメイドたちが小走りに移動を始め、パペットをエプロンにくるんだメイドもその集団に慌てて追従していく。
 興味の対象から外されて、忘れ去られたことにびっくりしながら目を丸くしたウィンデルは、不本意だが持ち去られたパペットを取り戻そうと彼女たちのあとを急いで追いかけた。


 思いのほか足の早いメイド達のあとを必死で追いかけていくと、宮殿の奥にある訓練場が見えてきた。
長い廊下の先にある重々しい扉は今、珍しく両開きに開かれており、普段は見ることが出来ない中の景色が見えてくる。
音を吸収するようにと木材で作られた壁には騎士のオブジェのようなものが取り付けられており、オーソドックスな剣から名前も知らないような武器まで、壁に飾られている。
もしかしたら騎士達が訓練の時に使用しているのかもしれない。
その壁は今炎に舐められて、黒ずんでしまっている。野次馬の隙間から覗き込むと、タイル全体が煤まみれになっており、木で作られていた壁には矢が突き刺さっている。
炭くさい香りがあたりに漂っており、壁の一部が激しく損傷している。
「どこ?魔法使い…」
 その声にはっとなって見上げれば、追いかけてきたメイドの一団がすぐわきに立って首を伸ばしている。手を伸ばしてパペットを返してもらおうとした途端、人ごみが割れて一瞬だけはっきりと訓練場が見渡せた。
黒焦げの一面に、バケツを持った騎士たちに囲まれてポニーテールのシルエットが見えた。弓を背中に背負い、ちょっと困ったような笑みを誰かに向けているその人は外見だけならイヴの語った人相と一致していた。
騎士を押しのけて近寄ると、その少女が水色の目で不思議そうにこちらを眺めた。空のバケツを下げた騎士がわずらわしそうにウィンデルを退かせようとすると、救いの手がウィンデルに差しのべられた。
「ウィンデル、ここで何をしているの?」
見ればレイ・二—グラスが歩み寄ってくるところだった。押しのけてくる騎士から解放してくれたレイは、ウィンデルの目線までしゃがみ込んだ。
彼が無口でいるのは、騎士たちに押しのけられ怯えているせいだと思たのだろう。
「消火は済みましたから、野次馬共々解散してください」と早く向こうへ行って、と言いたげに騎士たちに告げた。
「レイ、このこは?」
「皇女様の手下の一人で、ウィンデル」振り向きながら言うレイは、不思議そうに首を傾げた。
「前に会ったときはよくしゃべる子だったのだけど…?」
イヴに感謝しながら、ウィンデルは紙切れを少女に差し出した。
「あたしに…?」
紙切れを渡されて、驚いたように少女はまじまじとウィンデルを眺めた。レイも不思議そうにウィンデルの行動を眺める。
紙切れを開いて文字を読み取ると、その少女は真っ青になって慌てて走り出した。
「エディ?!」
レイがその後姿をあっけにとられたように見送り、彼女の名前をつぶやいた。
どうやら彼女がエディという人物であっていたらしい。
レイはエディが落したメモを拾い上げて、眉をよせ、ウィンデルを見下ろした。
「兄さんの恋人の…リン・ミルネランスが、怪我をしたの?」
うん、とかわいらしい仕草で頷いたウィンデルは、レイに腕をとられて強制的にアジトへと引き戻されていった。



なんかページが100ページ単位から10ページ単位になったんですね?すごい数になっててびっくりしました