複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照8700ありがとう御座います! ( No.528 )
日時: 2015/11/05 22:36
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

カメルリング王国ルート 076



「このフランベルジュはフランチェスカ様が触れるまでは、唯の魔法剣だったのだよ。ちょうどルークの果物ナイフのように」
白い雪の舞う牢獄で、訓練の合間に一息入れているその最中にカルマは口を開いた。
魔力の消耗により体に気だるさが残るルークは「そうなんだ」と半ばどうでもよさげに肩をすくめた。
しかしカルマは気にもしないように続ける。
 赤い目を煌めかせて得意気に語る彼女の後方では、リグ僧侶がユニートの放つ炎の渦を軽くあしらっている光景が見える。
とんでもなくタフな人たちだ。僕はもうこんなに疲れたっていうのに。
「—王女様が魔導剣士であると発覚したのは、2年ほど前なのだよ。修道院に入られたのと同時だったらしいぞ」
「修道院で…?」
なんでよりによって一番平和そうな修道院で魔導剣士であると発覚したの?と不思議そうな顔をしていると、カルマは首をひねった。
「そこまでは知らんが…ただ礼拝堂に安置されたフランベルジュに触れた瞬間、王女様のすさまじい魔力がこの剣に宿ったらしい」
 ルークは雪にうずもれてひんやりと冷たくなった件の剣に触れた。
途端に炸裂音が響き、刀身に積もっていた雪が水になる。
「そもそも魔法剣って何でできてるの?」
その様子を眺めながら、ルークはふと疑問を口にした。
「それは一概には言えないが…」カルマは少し口ごもって珍しくお茶を濁し、考え込むように視線を雪に落とす。
 

 しばらくしてようやく口を開いたが、まだいつもの確信に満ちた声ではない。
「学者の間でも明確に答えは出ていないが…私が考えるに…」言おうか言わまいか迷っているようだが、ルークが催促するとカルマは頷いて話し出した。
「今の魔術師や魔導士が隔世遺伝によって魔術を利用できる事と同じだと、私は思っている。つまり…古代の民の遺伝的情報が残る…遺骨、とかかね」
「遺骨…?」
目を丸くするルークに、「今の我々が魔力をつかえるのは、古代の遠い先祖たちから受け継いだ魔術の遺伝子を持つからだ」と硬い顔をして告げた。
「こ、これに人骨が…?」
果物ナイフを異様な目をしながら眺めるルークに、カルマは何世紀も前の物だろうけど、と頷く。
 このナイフでいくつもの料理を作ってきたのだ。信じられない想いで果物ナイフから目をそらす。
もしかしたら僕が魔導剣士なのは、知らず知らずに古代の民の骨を食べていたからではなかろうか…?
気味の悪い思いを振り切るように、それじゃあとユニートの方を指差した。
「ユニートさんの魔導書は…?」
「あれは…」カルマが何とも言えないような顔をした。「人骨というより、革表紙に魔術師の皮膚がつかわれていると思うな…」
「えぇ?!」
思わず絶叫して立ち上がったルークは、全くもって理解不能だとばかりに鳥肌の立った腕を撫でた。
人の皮でできた書物を毎日小脇に抱えて歩いてるのか?!と正気を疑いそうになるが、よく考えればルーク自身も骨を砕いて出来たナイフを常日頃から持ち歩いているではないか。
「そんな顔をするな。私がつくった魔導書のインクだって、あれは血だぞ。魔力を継承するには魔力の宿る遺伝子を与えるしかないんだから、仕方がない」
「……」

 そうだったんだ、と頭を抱えたルークはどうにか落ち着こうと努めた。もっと神秘的で美しく謎めいた存在だと思っていた魔術が、血生臭く遺伝子情報に縛られたものだとは思いもしなかった。
「まぁ私の憶測だが、十中八九魔力を持つものは魔力の遺伝子を持っていることになるな。それが生き物でも、魔法剣でもそうだ。その証拠がさっきも言ったように、私の血をインクとして使った魔導書が、僅かだが魔力を持つようになった」
 休憩のつもりが逆に精神的に疲労したルークは、更に姿勢を崩して楽な姿勢をとろうと身じろぎした。
「遺伝的情報を得た後は、強力な魔力を流し込んでやれば魔力はこめられるのだと思う。しかし、人工的に作ってもせいぜい子供だましの玩具程度の威力しか期待できない」
人工的に魔法剣が作れるの?とびっくりしたように目を見開いたルークに、先に断わるようにカルマは首を振ってそう言った。
「何度も何度も作ろうと試したが、並の魔力では作るだけ無駄だった。唯一の成功作が、記録をするだけの魔導書だけだった。やはり、強力なものを作るには、古代の民の遺骨などを利用して作らなければ無理だ」
カルマはそういうと、純白の軽くカールした髪をかき上げて、少し腹立たし気に立ち上がった。
そしてルークにさぁ立つんだ、と言いたげに手をさしのばした。
ルークがその手を掴もうとすると、彼女はさらりと衝撃的な言葉を吐いた。
「その古代の民の遺骨がわずかだがとれるのが、わが王国と帝国のはざまにある鉱山なんだよ。…我々は大昔の人間の骨をかけて戦っているんだ」




参照がッ
すごいことにッ
8700感謝ですっ!