複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照10000ありがとう御座います! ( No.534 )
- 日時: 2016/01/14 01:53
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
カメルリング王国ルート 078
ワイバーンの額に腕を乗せながら、こちらに向けられる怯えの混じる好奇な視線を次々と容赦なく撫で斬りにしつつ、リレーナは人の波に視線を走らせる。
謁見の間には再び人がごった返しており、一度は訓練場に散っていた騎士や傭兵たちも練習着のまま石畳にたむろしている。
と、ようやく魔導部隊の輩が黒い扉を潜り抜けて謁見の間にやってきた。
彼らが最後であり、最後尾の少年が通り抜ければすぐに黒塗りの重厚な扉は閉ざされた。
「さて、集まったか」
玉座からぐるりと首を巡らせ、国王が満足そうに髭を揺らして頷く。だがその目は笑みをたたえておらず、リレーナのもたらす情報に少々神経質になっているように見える。
ただでさえ娘の安否が心配だろうに、何を思ってか国王はリレーナに主要な戦闘部隊の招集を直ちにせよと命令を下したのだ。
「よくぞ樹海から帰還した。さっそく樹海で見聞したことを申せ」
膝の上で神経質そうに両手を組み合わせ、国王は探るようにリレーナを見下ろした。その態度は一言も聞き漏らすまいと、まるで嘘をついても無駄だと言いたげのようだ。
王女の無残な亡骸を見たとしても、包み隠さずありのままに伝えよ。そう無言の威圧で伝えているように感じる。
リレーナはぐっと顎を引いて力強くうなづいてみせた。
王女の亡きがらほどではないが、異様な光景を見てきた彼女。それをどう伝えようか考えあぐねていたが、国王に免じてはっきりと言うことにした。
「私が樹海で見たものは、二組で構成されたと思しき足跡と—」
ひっそりと静まり返った中で声を響き渡せながら、リレーナは視線をライヤに向ける。
ライヤは左下のタイルにじっと視線を注いでいたが、リレーナに気付くと真剣なまなざしでこちらを見返してきた。
そこに動揺が紛れているのではないかと考えを読み取ろうとするが、さすがはスパイなのか、真剣に話を聞いているようにしか受け取れない表情のままだ。
「—得体のしれない巨大な爬虫類の死骸、そして荒れた樹海です」
「足跡と…得体の知れぬ…?」ざわりと揺れる謁見の間に、国王も眉を寄せて思わずつぶやく。
王妃はさらに強くハンカチを握りしめ、リレーナに食い入るような視線を送る。
「その爬虫類はその後すぐ息絶えたようですが、その際、老人と若者の二人組と親しげに会話をしていた…」
自分で報告すればするほど異様な光景であったことが思い出され、リレーナはワイバーンに視線を投げた。
相棒はきちんと口にポシェットを咥え、従順な忠犬の様にこちらを見つめる。そのぎらつく牙の並ぶ間に挟まる鞄の口から、すっかり涎まみれになったシュバルツからの手紙が見え、安心する。
やはりあの樹海で見聞きしてきたことは夢ではなかったのだ。
「その二人組は帝国に向かうと爬虫類の死後話し合っており、私はその先の捜索をシュバルツに任せ、一端報告に戻ってきた次第であります」
「では…フランチェスカと差し金どもはまだ樹海をさまよっているのだな…?」
若干爬虫類の話による動揺が隠し切れない声音で、国王がリレーナに尋ねる。「まだ無事なのだな?」
「それが…どうやらその爬虫類は差し金どもに襲い掛かったらしく、そのせいで樹海が凄惨な状態になっておりました」
辺りに血が飛び散る様を話してやると、王妃が声にならないうめき声を立てて顔をうずめる。
瞳に苦痛の色をにじませた国王は、こぶしを握って玉座の手すりを神経質に叩いた。
「しかし、爬虫類の最期の言葉によれば、どうやら狙った全員を殺すことは出来なかったようです」
あぁ神様!とリレーナの言葉に王妃がか細くつぶやき、傍らに立つキール王子の手のひらをぎゅっと握りしめる。
愛娘だけは助かっていて欲しいと神に祈っているようだ。
「その爬虫類とやらは帝国の手先を襲ったようだが、我が国にとっても敵なのか?」
若干安堵した表情で国王が口にするが、リレーナは首をかしげるしかできない。
「わかりません。爬虫類は戦争を止める為に動いていたようですね。どういうわけか我々の知りえないところで帝国勢の動きを察知し、彼らを殺すために襲ったと思われます…」
ふむ、と国王は思案深げに目をさまよわせ、玉座に深く身を沈ませた。帝国の敵が必ずしも王国の味方とは限らない。
戦争を終わらせようとする第三勢力が樹海で大暴れしているとなると、そこを依然逃走中と思しき差し金どもと行動を共にしているフランチェスカの安否は保障されない。
何やら決心した国王は玉座から身を乗り出すと、確乎たる決心を瞳に讃えて口を開いた。
「シュバルツに樹海から直ちに脱出し、全兵を船に乗せ、海よりミカイロウィッチに進出せよと伝えよ」
「…?しかし?」
フランチェスカ様の捜索はどうするのです、とリレーナが戸惑った顔をすると、国王は一瞬遠くを見つめ、小さく首を振った。
「フランチェスカがたとえ生きていたとしても1、2週間もすれば帝国へ連れ去られてしまうだろう。帝国の本格的な人質となれば、帝国に有利な状況となる」
さらに現在生きているかわからないのに、危険な樹海へ戦力を投入する訳にはいかないと、国王は厳しい声で告げる。
「もしも生きていたとしたら、フランチェスカが帝国へと到着する前に帝国を落城させる必要がある。さすれば人質を気にすることなくわが兵は戦うことが出来る…」
そうするしかあるまい、と国王が断腸の思いで言い切った。娘と王国まるまるひとつ。
どちらが大切か、ではなく、どちらを優先させるべきか、である。
命の数で考えれば、答えは言うまでもない。
「直ちに全兵は出動の準備をせよ。シュバルツの船が用意出来次第、出陣する!」
妻の声を出さずに泣く姿を横目に、国王は無常だと思いながらも、そう宣言した。
?!
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ありがとうございます?!