複雑・ファジー小説
- さぁ 正義はどっち ? 参照10200ありがとう御座います! ( No.539 )
- 日時: 2016/01/21 18:17
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: A1qYrOra)
ミカイロウィッチ帝国ルート 076
血が滴る光景を見て、エディは気絶しそうになった。
「何してるの?!」
絶叫したい気分だったが、かすれた声しか出ない。対するツヴァイは血に濡れたペンを投げ捨て、血があふれ出す傷口を確認すると、痛そうに息を呑みながらつぶやく。
「魔術でこれ…治して」
何を言っているのか訳が分からず、唖然としてエディはツヴァイを眺めた。自分で切り裂いておきながら、今度は治せと言う意味が解らない。
腕を伝って血がぽたぽたと絨毯に零れ落ち、白衣にまた新しい血の斑点が付く光景に頭がおかしくなりそうだが、そのままにしておくわけにもいかず必死に呪詛を思い出す。
「『ミレレラティール』!」
リンの傷口の様に、皮膚がくっつき、血のあふれ出る速度が弱まる。そのまま直視し続けると貧血を起こしそうになり、エディは目をそらすが、ツヴァイは息を止めてその様子に歯を食いしばって見入っている。
ようやく傷口がふさがると、ふーっとため息をこぼして脱力する。
傷口のふさがった感触を確かめているのか、ツヴァイは傷があった部分に触れて難しそうな顔をしている。
「それで、何が確認できたの?」
「まだ確認は終わってないよ。むしろこれからだよ」
げんなりした顔をしたまま、「ボクの考えが外れてたらいいけど」と呻くようにつぶやいた。
また何かしでかすのかとひやひやしながら見守っていると、傷があった場所に手を走らせて思い切り皮膚を上下左右に引っ張った。
途端に閉じていた傷口がぴっと線を引いたようにざっくりと口を開く。
ものすごく痛いが、正しい状況を判断するためにじっくり観察を開始する。
先程の傷口に似ているが、傷口同士が接着した部分がさらにズタズタになっている。
出血点は主にそこであり、すぐに血で見えなくなる。
その血を白衣に吸わせてじっくりと組織同士を観察すれば、やはりと顔をくもらさざるを得ない。
「やっぱり、新しい組織が作られているわけじゃない…」
普通、傷が癒えるとき傷口の周囲で死滅した細胞を消化する反応が起こり、そこから発生する化学物質で新たな細胞の発生が誘発されるのだ。そして新たな細胞と無事だった細胞同士が手を取り合って傷口を塞いでゆく。
ところが魔術による治癒では消化されるはずの死んだ細胞がそのまま残っている。
これが意味することは、魔術での治癒は新たな細胞を作り出しているわけではないという点だ。そもそも血栓(つまるところカサブタ)もなしに傷が消えていく光景も異様である。
ここから考えられる事実は、自然治癒と魔術は全く違うメカニズムで傷を閉じており、魔術では傷口をただ単に元通りにくっつけているだけで、治したことにはならないというわけだ。
「ちょっと…よく、わからないけど…」
それを、歯を食いしばってエディに伝えるのだが、彼女はひきつった顔のままこちらを見る。完全に不審者に対する目つきをされているが、それも無理はないだろう。目の前で核心をえるために傷を自分でこじ開けたのだから。
しかしそのおかげで魔術での治癒に対する理解が深まったのだからまだましだ。
「つまり、魔術では死んだ細胞を本来あった場所にそのまんまくっつけただけだから、こんな風に無理に引っ張れば傷口が開くんだ」
「でも、クウヤは……それに私の足の傷だってもうふさがってるし…シフォンさんの額の怪我も—」
出血を止める為にもう一度エディが呪詛を唱えて、傷口を魔術でくっつけながら尋ねる。傷が治る際に痛みが生じるのは、無理やり細胞を引っ張って元の位置に戻そうとするからで、大抵の場合武器によって細胞は失われる為その分しわ寄せが来るためだろう。
脳内で痛みの原因について考えながら、閉じた傷口を今度こそ刺激しないようにいたわりながらツヴァイは口を開く。
血を吸わせた白衣が皮膚にまとわりついてちょっと気持ち悪い。
「クウヤの場合は、骨は体の外には出なかった。だから、骨全部がまるまる存在した状態だったから、骨が元の位置に戻っただけ。君とシフォンは、リンのと比べると恐らく怪我した状況によると思う」
どうやって怪我したのさ?と尋ねられてエディはその当時を思い出す。シスターの姿で修道院に潜入していた際、背後から短刀のようなもので刺された。
シフォンは魔術師対決で砕け散った修道院の漆喰があたって怪我をしたのだが、その光景を見ていないエディは知る由もない。
「鋭利な刃物で切られても、傷口の細胞ってほとんど死なないんだよ。だから魔術でくっつけられただけでも、無事な細胞同士が強固に結びついて傷が開きにくくなったんだろうね」
その点、とツヴァイはリンの方を血に染まった白衣の裾を振り回して指差した。
リンは相変わらず天井を眺めたまま、絨毯に沈み込んでいる。
「リンは木材が高速で突き刺さったんだ。衝撃で傷の周りの細胞はかなり死んで、最小限に抑えたけど感染症にもかかったから、魔術でくっつけても自然治癒はあまり望めないね」
ボクの傷もペン先で削り取ったから、かなり細胞が死んでるはずだよ。だから傷口が開いたんだ、と肩をすくめる。
「さらに言えばリンの場合腹部が患部だよ。どうしたって腹部には力が入るからね。動かすだけでさっきみたいに傷口が簡単に開くよ」
その言葉に絶望的な気分で、リンを眺める。
なんともなしに万能と思っていた治癒の魔術の正体が暴かれた今、もはやエディの手でリンを救うすべはなかった。
以上、魔術の本来の姿でした。
しかし、これがすべて、ではありませんがね←
そして参照10200ありがとうございますっっ