複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照11200ありがとう御座います! ( No.551 )
日時: 2016/03/17 18:36
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

カメルリング王国ルート 081


「いよいよ開戦、なんだな」
もうじき出発する。そう両親に告げると、二人とも息をひそめるようにそう答えた。
「シランなら大丈夫だと思うけれど…でも無理せず、ちゃんと帰ってくるのよ?」
円卓に並ぶ椅子に腰かけたシランは、静まり返った自宅で両親のその反応を紅茶片手に受け止めていた。
 シランは紅色の目を伏せて、カップに置いた紅茶の水面に映りこむ飴色の自分を眺めた。
覗き込むその表情は無表情だ。
これから戦争に行く人間の表情じゃない。ましてや両親が最後の激励をしてくれた直後だというのに。


 あの日、師匠たちを見失った日、樹海を駆け抜けたシランは、両親を信じていた。
”イヴとクウヤの兄妹もご両親と再会して無事に逃げた”。
(僕はあの言葉を信じて樹海から逃げたんだ———でも…)
樹海を脱出したシラン一家は、そのままの足で王国へと飛び込んだ。
帝国から亡命してきた幻術師を、王国は快く受け入れて住まいも用意してくれた。
希少な星の幻術師の待遇はよく、シラン自身も師匠たちの安否を心配しつつも何不自由なく過ごしていた。
(イヴもクウヤも両親と再会できたんだし、星の幻術師だから、どこの国に逃げても歓迎されてるはずだし——師匠だって…)
寂しくなればそう考えて、手作りのマスコットを見つめては心を慰めていた。
彼らときっと再開できるのだと信じていた。
(—————…ホントに?)



 「確かそうよね」
「それがこんなに立派な幻術師に成長するとはなぁ」
誰に似たんだか、と両親が幼少期の思い出を語り合って微笑みあっている。
一時は帝国から亡命した一行を手引きしたとされ、拷問を受けかけたらしいがそこを脱走したらしい。
その折にシランと再会を果たし、王国で幸せな日々を送っている。
「ねぇ、父さん、母さんも」
紅茶から両親に目を移したシランに、あらなあに?と微笑みを溜めてこちらを向く二人。
その心からの笑みをじっと見つめようとするが、それが出来ずにそっと目をそらしてしまう。
「いままで、ありがとうね」
言えば両親ともに呼吸を止めてシランを一心に見つめた。シランが照れたように笑みをこぼすと、母は顔を両手で覆って泣き出し、父はな瞬きを繰り返しながら咳払いし、椅子の上で何度も姿勢を変える。
ニコリと微笑みながら紅茶を口に運んだシランは、吐きかけた言葉を紅茶と共に喉へ流し込んだ。
”ねぇ、父さん、母さんも、僕に嘘ついたことってある?”


「行ってきます」
言って手を振って実家を後にすると、夜の街を騎士達が同じように徘徊していた。
彼らも家族や大切な人とのもとへ訪問を済ませた帰りなのだろう。満足げな顔や不安そうな顔、寂しげな顔に恐怖に青ざめた顔、いろいろな顔が今度は同じ王城へと歩いていく。
彼らの後姿を眺めながら、シランは自分自身に心の中で問いかける。
(僕に嘘ついたことってある?)
知らないふり、してただけでしょ?どう考えたって話が出来すぎてる。
あの日樹海で両親に出会えたのは奇跡だろう。けれど、なぜ両親はクウヤたち兄妹と家族が再会できたなどと、知っているのか。
そもそも、同じ罪で帝国を負われた身なのに、なぜクウヤたち両親と共に行動していなかったのか。
そして……。
シランはため息をこぼして、今日こそはと意を決して考えたくはなかった思考を模索する。
 普通に考えれば、兵士に追われ師匠からも逃げろと言いつけられ焦っていた少年が、長い間離れ離れとなっていた両親にであったら、その嘘を信じても仕方がない。
けれど安堵して少し落ち着けば、その嘘を信じ続けることがどういうことだかわかってもいいはずだ。
もしかしたら両親は安全地帯に息子と共に逃げる為に、嘘をついたかもしれない。
イヴとクウヤは両親に出会っておらず、まだ何も知らずに樹海にいるかもしれない。
そしてなにより、両親が嘘をついていようがいまいが、あの鉱山のてっぺんで一人取り残された師匠は、死んでいるかもしれないのに。
(僕は最悪の事態を考えるのが嫌で、ずっと嘘を信じてる方が良かった。それに両親が嘘をついていても、あの二人は僕を探しに来てくれた)
今度こそは、僕が帝国でみんなを探す。
こぶしを握りしめて、シランは決意した。





ホントはちょっと気づいてたシラン君