複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照11900ありがとう御座います! ( No.558 )
日時: 2016/05/02 17:18
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

カメルリング王国ルート 085



 約束の時間には、あれだけたくさん出て行った騎士や傭兵たちもきちんと元に戻っていて、正直驚いた。
誰か一人でも、そのまま帰ってこない人がいたっておかしくはないのだが、今のところいないようだ。
 集まった騎士たちが、鎧に身を包んだ国王に激励されて一団、また一団と長い行列を作りながら船の停泊してある浜へと歩みを進めていく。
 荷車の後ろに載せられたまま、やがてルーク達魔導一派も深い闇の中を進みだした。
「騎士たちは歩いてるのに…なんだか申し訳ないですね」
馬車に揺られながら、月明かりがないせいで表情のわからない隣の人へと話しかける。
「しかたがあるまい、船まで歩いていたら疲れ切って戦いどころではなくなってしまう」
隣に腰かけていたのはカルマらしい。よく見ればわずかな星明かりに照らされて、白っぽい輪郭が足をぶらつかせている。
 「そんなことよりも私は、後ろに積まれている積み荷の方が気がかりですよ…」
すぐ真横から沈んだ声が聞こえ、ルークは飛び上がりそうになった。本当に暗かったため、隣に誰が座っているかなどわかりましないのだ。さらに念には念を入れて、わずかな灯でさえ禁止されているのだ。
「この積荷には爆弾やら何やらが詰まっているのでしょう?もし爆発したらと思うと…私もキリエ牧師と同じように歩けば良かっ…いやそれでは戦場で結果的に疲労困憊で役にも立てず…結局どちらでも犬死に…」
ため息交じりのこの声は、きっとリグ僧侶だ。ぶつぶつとネガティブなことをまた呟いており、ルークは思わず笑ってしまう。
「大丈夫ですよ、ミルフィーユさんもラグも、二人とも丁寧に作ってますし…」それに、と振り返って木箱に手探りで触れる。
「これは殺戮兵器じゃない武器なんです。爆発してもたぶん死にはしないと思いますよ」
 ルークがコツコツと木箱を軽くたたくので、リグ僧侶が落ち着きをはらえずにそわそわしているのが何となくわかる。
「爆発する危険性がないとは言えないけど、リグ僧侶には頑張ってもらわないと行けませんからね。馬車から落っこちないで下さいよ」
馬車の不規則な車輪音に負けないように、隅の方でユニートが窮屈そうに声を上げている。
 大きな幌馬車ではあるが、積み荷の占める範囲が多いため人が座れる範囲など微々たるものに過ぎないのだ。
そこに無理やり詰め込まれる形で魔導部隊が座るため、小柄な者たちはいいが、背の高いリグ僧侶などはには少々窮屈に感じられるのだろう。
「ユニートさんこそ眼鏡落とさないようにしてくださいよ?探すの嫌だし。踏んじゃっても、僕なおせませんからね」
シランがおもしろそうに声を上げて、歩く騎士に声を低くしろとたしなめられているのが聞こえる。
 確かに、これから待つ先に戦争がなければこれはなかなか楽しい状況かもしれない。
けれどここにいる全員の手には、武器が握られているのだ。
そして誰かは人を殺し、誰かは殺されて、そしてどちらかの国が亡びるのだ。
その命運がそれぞれにかかっている現実を考えると、微笑みが自然と消えていった。

 一時間もかからないうちに、船のまつ浜についたらしい。潮風が強く髪を弄って、方向感覚を失わせる。
先方を行っていた騎士達はすでに船で出航しているらしく、ルーク達を待っていたのは最後の一隻らしかった。
箱済み作業が終わるまでをドキドキしながら甲板で過ごし、不安と恐怖で足から血が抜けるような感覚を味わう。
もうすでにノイアーたちもはるか海の上なのだ。13歳の女の子が堂々と戦いに出て行ったのに、僕ときたら土壇場になって足が震えてる。
夜が明けたらもう戦地なのだ。
船の上でもやはり一つの明かりも禁止され、唯一の光源は船内のコンパスのある部屋のみだ。
けれど明るい場所に行けば自分が震えていることを悟られてしまうだろう。
不安で仕方なかったが、甲板の手すりにしがみついて何とか気丈そうにふるまい続けた。
 しかし、船が出港し陸から遠のくにつれて絶望感が増していき、このまま海に飛び込んでしまいたくなる。
強烈な不安感からか眠気は一切感じることが出来ず、しだいに周囲が明るみを帯びてきたようだった。
凝った首をゆっくりと巡らせて周りの人に目をやると、みなそれぞれ不安げな顔つきで四方をむいている。
みんなの不安なんだ、と思うと少し気が楽になったが、ふと目線を上げた先に見える大陸に気付くと、思わず溜飲してしまう。
もう目と鼻の先にまで来たのだ。