複雑・ファジー小説

さぁ 正義はどっち ? 参照13200ありがとう御座います! ( No.575 )
日時: 2016/08/16 12:08
名前: メルマーク (ID: KzMBmi6F)

カメルリング王国ルート 088


 分厚い雲の海まぎれ、時折顔をのぞかせて眼下に目を配るリレーナは、腰につけたポシェットを掻き回して、目当ての物に軽く目をやった。
滑らかな球状の危険物を掴むと、指を滑らせてくぼみに軽く触れる。
「どこにして欲しい?」
ワイバーンに囁くと、ワイバーンは喉をグルグル鳴らしながら宮殿のあちこちへと首を巡らせる。そしてある一点を鼻先で指すように指示してしわがれたカラスのような声で鳴いた。
「うん?」雲の合間から見渡すと、屋根の途切れた外廊下から、騎士の一団があふれ出す光景が見えた。黒塗りの服装に剣を携える姿からすると、彼らが国外でも有名な帝国の黒騎士団なのだろう。リレーナはよく見つけた、とワイバーンの額を撫でた。
「さぁ、滑空して」
ハーネスをがっちりとつかんだリレーナは、馬にやるように軽く相棒の脇腹を蹴った。その直後、内臓がひねられるような浮遊感と共に景色が迫ってくる目の回るような感覚が神経を支配する。ぐっと屈みこんで吹き飛ばされそうな風圧を避けると、ワイバーンがぐっと身を起こして落下速度を緩めた。
その途端大勢のうろたえた声が身近に迫り、リレーナは握りしめていた装置を思い切り地面に放り投げた。
輝く閃光と驚きの叫びから逃れるように、ゆるく回転しながら再び空に舞い上がるワイバーンとリレーナ。雲と同じ高さまで舞い戻った彼らは、そろって結果を見つめた。黒い一団はかすかに移動するものの、まばゆい光に飲まれて視界を奪われたようだ。
「使えるじゃないか、これは」
あの発明家のことを見直した、とポシェットに入る装置を撫でてつぶやく。そして獲物を見つめる猛禽類のような瞳で再び黒騎士達を眺めると、唇の端を釣り上げて笑う。
リレーナとワイバーンの持ち場は上空であり、そこから地上部隊に有利に物事が運ぶように線公団を上空からばら撒く役を仰せつかったのだが、リレーナもワイバーンも立派な武器がある。こう上空から戦闘を見つめると、彼らと同じように武器をふるいたくて仕方なくなる。
「…私たちもひと暴れしようか、相棒?」
返事する様にカラスのような声を響かせたワイバーンは、再び急降下し始めた。

分厚い風をまとわせて着陸したワイバーンは、その長い尻尾で手じかな黒騎士を一人跳ね飛ばすと、満足げに鳴き声を上げた。
「敵だ!」
目がかすんでもさすがに黒騎士らしく、気配だけを頼りに夜色の剣を構えた騎士達がぞろぞろと包囲してくる。
それを不適そうに眺めたリレーナは剣を抜き、かかってこいと高笑いした。
向けられた剣をはじき、まるで踊るように敵をなぎ倒す様子を、良くラルスは戦乙女とかいう言葉で呼ぶ。よくもまぁ、赤毛と同じほど身体中を血で染め上げた姿を見ておののかないものだ、と呆れてしまう。初めてラルスと出会ったところは、どこだっただろうか…。
そんなことを考えながら敵を足げにしていると、彼らの視界も回復したのだろうか、一突きの剣がリレーナの脇腹をこすった。
(少し遊びすぎたか…)
痛みに顔をしかめてその騎士を刺し貫くと、再びポシェットに指をすべり込ませて発明家の装置を取り出す。
(そろそろ本来の持ち場に戻らないと…)
くぼみをぐっと押し込んで向かってくる騎士の顔面にたたきつけた瞬間、再びすさまじいほどの閃光が周囲を包み込む。
腕で目を覆ったリレーナは、光がやむとすぐにワイバーンの元へ駆け出した。ハーネスを片手でつかんでひらりとその背中に跨ると、すぐにとびたてと命じる。
「なんだあれは?!」
ワイバーンが飛び立つ直前、鋭い声がリレーナを思わず振り返らせた。
宮殿の外廊下に立って唖然とこちらを見る二人組がいる。黒髪の男女は即座に剣を抜くが、一足遅かった。彼らが血塗れの芝生へと足を出す事にはすでにリレーナは上空に舞い上がっていた。