複雑・ファジー小説
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.10 )
- 日時: 2013/08/05 21:31
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)
「まずは一つ目の目標地点だな」
自転車を漕ぐこと二十分。俺は一つ目の目標地点である薬局に辿り着いていた。
ここで来る途中、それなりの数のゾンビを見た。ゾンビに腕を噛まれたと思われる男性が、腕を抑えながら俺に助けを求めてきたが、無視して自転車を漕いだ。何人か生きている人間と遭遇もしたが、それも無視した。正直一人でいるのはかなり心細かったが、遭遇した人間の殆どがギャーギャーと叫んで錯乱していたのだ。そんな彼らと行動を共にするのは危険が高すぎる。
こんな状況でも誰かを助けようと思う人はいるみたいだが、俺はそうじゃない。途中で車に乗った女性二人組を見掛けたが、彼女たちもそうだった。自転車で走る俺を車窓から見つめながらも、声を掛けること無く去っていった。まあこんな状況では当然だ。
と、頭の中で理解はしているが、襲われている人間の絶叫や苦痛に歪んだ表情を見ているとそんな簡単には言えない。あの時俺を見捨てた二人組も、しょうがないとは思っていても一言言ってやりたいと思ってしまう。まあ、俺が二人組の立場だったら見捨てたけどさ。
「さて」
薬局の前で自転車に降りる。盗まれると行けないので自転車の鍵は抜いておく。もしもの時、すぐ逃げれないのはキツイが、盗まれるよりはマシだろう。
窓の外から中を確認する。見ただけでも三匹ぐらいのゾンビがいやがる。しかし食料を調達出来る機会だ。今後はこういう機会も少なくなっていくだろう。今のうちに食料を確保しなければいけない。
ゴクリの唾を飲み込み、店内へ足を踏み入れる。
自動ドアが開く音にドキリとしたが、幸いにもゾンビは反応しなかった。
入り口にあった大きめのカゴを二つ手に取り、俺はゆっくりと進んでいく。
場違いに思えるお気楽な歌が流れる店内の中、俺は何から取れば良いのか悩んでいた。うーん……人間が生きるために必要な物として、まずは水だよな……。
棚の間をゆっくり進み、店の奥にある飲料水コーナーへ向かう。途中、この店の店員と思われるゾンビとすれ違ってドキリとしたが、気付かれる事は無かった。
並んでいる飲料を物色する。
天然水、コーラー、サイダー、メロンサイダー、オレンジジュース、アップルジュース、牛乳。
まずは天然水の1リットルの物を三本、500ミリリットルの物を四本。後コーラの1リットルを二本、オレンジジュース500ミリリットルの物を二本確保。
これだけでも結構な数だ。このカゴの大きさでは、自転車のカゴに一つ無理やり乗せる事は出来るだろうが、もう一つは手持ちになりそうだな……。
順調に選ばなければ。しかしまだ水道は動いている筈。家に辿り着いたら、水道水を集めておかなければ。
それから食べ物コーナーの方へ向かう。生物は腐りやすいからな……。乾パンとかそういうのを優先しよう。
客と思われるゾンビの隣をゆっくり通りぬけ、乾パンや缶詰が並べられている棚へ向かう。
まずは乾パンの缶を四つカゴに入れる。大分カゴが重くなってきたな。
カゴを下に下ろし、沢山はいるように並べる。
「……っぁ」
そんな俺を見下ろす様にして、棚の間からゾンビが現れた。ゆらりゆらりと振り子のように頭を振りながら、俺の方に近付いてくる。俺は小さく声を漏らし、その場で動きを止める。
ゾンビはそんな俺を数秒見つめたかと思うと、視線を外し、またゆらゆらと揺れながらどこかへ行った。驚かせんじゃねえよ……。
それから静かにカゴの整理をした後、小さめの缶を何個か入れる事にする。
選ぶのは美味しそうな奴だ。
焼き鳥塩味、焼き鳥タレ味、カレーチキン、ささみフレーク、鯖味噌、後マンゴー、バナナのドライフルーツも手に取る。
缶はひとつひとつが小さくて、沢山入れることが出来た。ドライフルーツは結構大きな袋なので、二つまで。
一つ目のカゴはあと少しでいっぱいだ。あんま入れすぎて中身を落とすとか洒落にならんしな。
ゆっくり店内を移動し、日持ちしそうな物をカゴに入れていく。
もうカゴが一杯だ。
「…………」
しかし結構な重量の筈なのに、カゴが非常に軽く感じる。俺ここまで筋力無かった筈なんだけどな……。
まあいい……。
次は医療品か。