複雑・ファジー小説

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.18 )
日時: 2013/08/10 23:57
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)


 強烈な飢餓感に襲われて、目を覚ました。
 眠りに着いたのは夕方だった筈だが、枕元に置いてある時計には午前九時の表示されていた。どうやら日を跨いでしまったらしい。
 俺はバットとリュックサックを装備すると、早足で一階へ降りる。腹を喰い破るのではないかという位の苦痛が、胃を締め付ける。恐ろしい程の飢餓感。
 冷蔵庫から最初に食べようと思っていた黒ずんだバナナを取り出し、皮を剥いて齧りつく。トロリとした柔らかい甘みが口に広がり、あっと言う間に食べきってしまう。一本では足りず、二本三本と一気に食べてしまう。五本入っていたのをあっと言う間に食べてしまった。まだ空腹感は残っていたが、あまり食べ過ぎる事は出来ない。あのバナナは母が買ってきたっきり放置していて腐り掛かっていたから良しとするが、次からはもっと計画的に食べなければ。
 残った空腹感は、蛇口を捻って出した水で誤魔化した。ついでに顔を洗い、歯を磨く。それから、家のゴミ箱や台所にあったペットボトルや、ポリバケツなどの容器を水で洗い、その後蛇口から出した水を入れる。いつ水が止まるか分からないから、今のうちに溜めれるだけためておこう。
 
 一応満たされた腹を擦った後、服を捲って自分の身体を確かめる。昨日付けられた傷は完治していた。やはり人間離れした治癒能力だ。その他に何か変化が無いか調べてみるが、他は特に思い当たる部分はなかった。
 俺を目覚めさせたあの飢餓感はただ事ではなかった。そりゃあ、夕飯抜いて昼近くまで寝ていれば腹は減るだろうが、あれは異常だった。
 これは映画や小説で見た展開から予想したに過ぎないが、もしかしたらゾンビに噛まれた影響かもしれない。ゾンビは今俺が感じていたような飢餓感を常に感じていて、それを満たす為に行動しているとか何とか。噛まれた俺はその影響で度々飢餓感に襲われる、みたいな。
 確かめようの無い話だが、だとしたら色々と気をつけなければいけない。さっき見たいに食べ物をバクバクと無計画に食べてしまいかねない。注意して置かなければ。
 
 その後、俺は二階に戻っていき、閉めていた雨戸を開いてベランダに出た。
 俺の家はあまり高く無いとはいえ、ベランダから家の周辺の眺める事は出来る。使うかどうかは知らないが、双眼鏡も持ってきている。
 椅子を持ってきてベランダに置き、周囲を眺める。

「昨日より増えているな」

 ホームセンターの前の様に、ゾロゾロといるわけではないが、それでも周辺には何体ものゾンビが彷徨いていた。人間の姿は見えない。だけど近くの家に全ての窓が雨戸で閉められている所が幾つかあるから、もしかしたら中に人がいるかもしれない。食べ物が無くなったら襲ってくるかもしれないから注意しなければ。もしかしたら何かの役に立つかもしれないが、危険度の方が高いからな。用心は幾らしてもし過ぎる事はない。気を抜くことはイコール死だ。
 
 それから俺はベランダで周囲を見張っていた。
 最初の二時間くらいは気を張っていたものの、特に何も起こらない。ゾンビがどこかの家に入っていく訳でもなく、人が出てくる訳でもなく。ウロウロしているゾンビを見ていても何も楽しくない。
 なので俺は警戒しつつも、情報収集する事にした。
 スマホだ。
 スマホもいつ電気が使えなくなるか分からないから、使える内に使わなければ。家には充電式と電池式の携帯充電器が二つあるから、家の電気が使えなくなった時はそれらを使えばある程度は持つかもしれない。
 しまったな……薬局で電池が無いか見て来れば良かった。

 スマホでWebを立ち上げ、ゾンビについて検索する。
 世界中でパニックになっているとか、政府がなになにを発令したとか、自衛隊基地内でもパニックが起きており現在解決に務めているとか、国民が島に行くために空港に殺到して地獄になっているとか、沖縄は一応ゾンビに対抗できたのか、受け入れ体制を厳重にしているとか、そういう事が書かれていた。
 ゾンビに対しては掲示板で見た通りの事が書かれていた。

・音と臭いに反応する。
・臭いは芳香剤や制汗剤を全身、服に振りかける事である程度ごまかせる。
・ゾンビは頭を攻撃すれば倒せる。
・ゾンビの血液を全身に浴びると、ゾンビに気付かれない。
・血液を摂取しても感染しない。

 と言った感じだ。
 他はとにかく、下二つはどうやって確認したんだよ。
 それから、やはりゾンビに噛まれて生き残ったという話はどこでも聞かなかった。俺の身体限定の特別な免疫でもあったのだろうか。生き残った研究者の所とかに行けば世界を救う薬とかが出来るかもしれないが、その場合は折れが研究材料にならなければならない。元の世界には戻りたいが、俺が犠牲になるのは御免だね。
 
「はぁ……ここもか」
 
 行きつけの掲示板や、毎日更新されていたWeb小説が止まっていたりしている事から、ネットを出来る人も徐々に減ってきているようだ。
 掲示板でも『噛まれたから最後の書き込みになる』みたいな奴も多いし。

 これからどうなるんだろう。
 
 俺は『これから』を考えて呆然としながら、掲示板を開いて情報を集めた。
 生き残るために。