複雑・ファジー小説
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.25 )
- 日時: 2013/08/12 22:39
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)
ベランダでスマホを弄りながら、そろそろ一度中に戻ろうかな、なんて考えていると、突如としてそれが起きた。
「うぁ……ぐっ」
強い嘔吐感。
腹の奥から熱い何かが込み上げてくる感覚に、俺は席を立って慌ててトイレへ駆け込む。ゴボゴボと自分の口から溢れだした物を見て、俺は恐怖を感じた。
血液だった。それも赤色じゃない。どす黒く濁った血液だ。
以前も同じ事が合った。ゾンビに噛まれた後、逃げ込んだトイレの中でも血液を吐き出した。あの時と同じだ。
口の中に苦い鉄の味が広がって、俺は本当に嘔吐しそうになる。
これは一体何だ。俺の身体はどうなっている?
多くの血液を吐き出して、ようやく収まった。吐き出した黒い血を見て怯えながら、それをトイレに流す。トイレの外にある手洗い場の蛇口を捻って血を洗い流し、うがいして部屋に戻る。
血を出したせいか、身体が酷く怠い。
「どうなってるんだよ……」
腹を抑えながら体内で起きている何かに恐怖を抱く。もしかして、俺はゾンビにならないんじゃなくて、ゾンビになるのが遅い体質なんじゃないだろうか? もしかしたらもう少ししたらゾンビになってしまうんじゃないか? 今のはその予兆かもしれない。
「あ、れ」
不意にグラリと視界が揺れた。気付いたら俺は床を見ていた。違う。俺が床に倒れたんだ? 何が起きた? 身体に力が入らない。意識が徐々に薄れてい、く。
もしかして、おれしぬのか?
ぞんびになるのか?
いやだ。
たすけて。
カーペットのザワザワとした手触り。
指を動かしてそれを確認する。
意識が徐々に戻ってきた。
怠い。
重たい身体を持ち上げて、何とか立ち上がる。
部屋が暗い。
開けっ放しになっていた窓から温い風が入ってきて、身体を撫でる。外を見るともう暗くなっていた。おかしい。さっきまで日が昇っていた筈なのに。
部屋にある時計を見ると、もう夜の八時だった。また長い間眠ってしまっていたらしい。
俺は雨戸と窓、カーテンを閉めて外から部屋の中が完全に見えない様にした後、部屋の電気を付ける。電球の眩しさに目を細めながらポケットのスマホを取り出そうとして、ふと俺は違和感を覚えた。
何だろう。
視界がいつもより高く感じる。
妹の部屋に置いてあるピンク色の全身鏡を見て、俺は目を疑った。俺の見間違いじゃなければ、身長が高くなっている。詳しくは分からないが、意識を失う前よりも四センチくらい高くなっているんじゃないだろうか。
それだけじゃない。
何というか、全体的にガッチリした様な気がする。
服を脱いで裸になり、確信する。ひょろひょろだった俺の身体が、何故か少し筋肉質担っているような気がする。顕著なのは腕だ。腕が太くなっている。特に二の腕の辺りが。
いったい何が起きたんだ。
確か吐血した後、急に身体に力が入らなくなって、意識を失ったはずだ。七時間近く経っていると思うが、たったそれだけの時間で身体がここまで変化するなんて事はありえない。
しかし現実に起きている。
混乱する頭で必死に考えた。
あー、うん。多分あれだ。ゾンビに噛まれた影響だな、これは。
説明が付かないことは、大体このせいにしておけば説明が付く。根拠は無いが、もうそういう事にしておこう。ウイルスか何かが身体の中で何かを起こして、俺は身長が伸びて筋肉も付いた。んー、筋肉も付いたけど、骨も太くなっているのかな…・これは。
しばらく考えてもそれ以外の理由が出てこないので、俺はそういう事にした。
まあ、ゾンビになったり、死ぬ様な気配は無いしな。放っておいても悪い影響は無さそうだ。
「さて……夕飯食べよう」