複雑・ファジー小説

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.35 )
日時: 2013/08/18 20:45
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)


 強い飢餓感に目を覚まし、時計を見ると、午後三時を過ぎたくらいだった。しばらくベッドの上でボーっとして、意識がハッキリとしてきてから立ち上がる。頭がガンガンとしている。大きくあくびして、俺はふと燃やしたゾンビの死体がどうなったのかが気になり、窓を開けて外を見る。

「あ」

 まだ燃えていた。
 というか、炎が近くの家も燃えていた。パチパチと火の粉が弾ける音が聞こえる。どす黒い煙がモクモクと立ち昇っている。
 燃える音に集まってきたのか、ゾンビの数がかなり増えていた。そいつらは炎に自ら近づいて行き、焼けゾンビになっている。燃えながらも覚束ない足取りで動き回り、近くの家出育てられていた花や草に火を付けていた。それが広がっていき、幾つかの家が燃えている。
 焼きゾンビが炎を拡散させたのか、それとも俺が燃やした死体の炎が広がったのか、どちらかは分からないが、これは不味いことになった。
 俺は呆けた表情でポリポリと頭を掻く。やっちまった。
 ゾンビが集まってきているし、炎も広がってきている。この家には居られなくなったな……。俺の家まで炎が来るまではもう少し時間が掛かると思うが……。
 
 取り敢えず落ち着こう。
 
 この吐き気を催すレベルの飢餓感をどうにかするのが先だ。
 俺はリュックサックとバットを手に、一階に降りていく。
 それにしても、今回はリュックサックを背負わずに外に出たり、叫び声を上げたり、しっかりと注意もせずに家に帰ってきたりと色々と無謀すぎた。こんな事を繰り返していてはいつか死んでしまうだろう。自省しなければ。
 冷蔵庫を開いて食べる物を選びながら、寝る前に傷口に巻いた包帯を捲ってみる。傷は大体治りかけていた。損傷が酷かった左手もどうなっているのか、欠けていた肉が戻ってきている。
 包帯はもう必要ないな。身体から外し、放り捨てる。もう少ししたら家を放棄しなければならない。もうゴミをポイ捨てしても構わないだろう。
 それにしても、この飢餓感は何だろう。これに襲われるのは二度目だ。
 前回と今回の状況を考えてみると、どちらも酷く身体を損傷した後だ。身体を回復するには大量のエネルギーを消費していて、この飢餓感はその代償かもしれない。
 冷蔵庫の中にあったサーモンやマグロと刺身の詰め合わせ(賞味期限切れ)を取り出して、刺身に醤油をぶちまける。入れ物に付いていた割り箸でそれらを次々の口の中に放り込んでいく。
 マグロの口の中でとろける食感とサーモンとコリコリとした食感。
 それらを楽しむ余裕はない。
 刺身を全て食べ終えてもまだ空腹感が収まらなかったので、納豆一パックとインスタントの味噌汁を食べ、その後水を大量に飲んで空腹感を満たした。
 
 その後、一度二階に戻った。
 ベランダから外の様子を見てみるが、依然として炎は燃えて、ゾンビも集まってきている。
 中に入り、自分の部屋を見回す。今まで集めてきた本やゲーム。名残惜しいが生き残る為には必要がないものだ。苦渋の決断をして部屋から出て、一階に降りていく。
 机にリュックサックを置き、中身を全て出す。家を捨てなければならないから、色々な物を持ちださなければならない。とは言え元々リュックサックには入るだけ荷物を入れていた。押しこめばもう少しは入るだろうが、もっと物を持って行きたい。あまり欲張り過ぎるのも良くないが……。
 そこで俺は窓を塞いでいた箪笥の一つを漁り、父さんが以前使っていた黒色の腰ポーチを取り出す。これならそれなりに荷物を持っていける。包丁や懐中電灯、一部の食料や薬をポーチの中に移す。これでリュックサックに結構な空きが出来た。
 まず冷蔵庫の中を覗き、そこから保存が長く効きそうな食べ物を外に出す。それらの量やカロリーを考えて、持っていく物と持って行かない物を選択する。パッケージに入ったままの物は、取り出してタッパーの中に詰め込んだ。ぎゅうぎゅう詰めでちょっとグロテスクな感じになっているが、タッパーに入れたほうが多く持っていける。それから肝心の飲み物だ。これも選択しなければならない。ジュースを優先してリュックサックの中に入れていく。
 それからサプリや薬などを選んで入れると、あっという間にリュックサックはパンパンになってしまった。チャックを締めるのに苦労した。
 俺は溜息を吐き、入れきれなかった食べ物や飲み物を見る。
 置いていくのは勿体無い。
 さっき刺身やらを食べたばかりだったが、俺はそれらを食べることにした。
 卵で目玉焼きを作り、納豆やバナナ、冷凍してあった肉を解凍して焼く。冷蔵庫にあった食材を結構な量使った。それらをバクバクと食べていく。勿体無いの精神だ。
 さっき食べたばかりだというのに、意外と俺の胃は大きいらしく、次々と入っていく。全てをあっという間に食べ終えてしまった。
 水を飲んで一休み。
 しばらく椅子に座って休憩しつつ、これからの行き先を考える。正直宛がない。人が多く集まるような大きな場所はゾンビが多いしな……。
 そう言えば、学校から家までの間に、数ヶ月前に活動を停止した浄水場が合ったような気がする。全く興味が無かったから今どうなっているかは知らないが。記憶ではそれなりに大きな所だったと思う。中の構造は分からないが、あそこならもしかして人が居ないかもしれない。
 色々と悩みながら、俺はその浄水工場に向かうことにした。
 椅子から立ち上がり、二階に上がってもう一度外の様子を確かめる。
 ゾンビの数が多い。
 自転車で移動しようと思っていたが、この中を自転車で通るのはキツイな……。車輪の音に反応して囲まれるかもしれないし……。
 俺は徒歩で移動する事に決定し、一階の扉から庭に出る。そしてこっそりと移動を開始した。