複雑・ファジー小説

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.36 )
日時: 2013/08/19 21:52
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)


 焼きゾンビを避けて歩く。

「…………」

 妹の死体を葬ってから。
 胸から、何かがポッカリと抜け落ちた様な気がしていた。
 抜け落ちた物は大切だった様な気もするし、心を蝕む悪い物だった様な気もする。
 喪失感と安堵があった。
 何が抜け落ちたのかは分かるが、言葉にする事が出来ない。
 抽象的に言うのならば、俺は心の一部を失ったのだろう。歩美を見殺しにした事で心の一部が壊れて、俺はその一部を切り離したのだ。
 あれほど荒れ狂っていた心は、今でもすっかり落ち着いている。
 歩美の事を考えても、もう何も感じなかった。
 もう終わった事だ。俺が終わらせた。
 歩美を殺したのは俺だ。もう言い訳するつもりはない。自己正当化はしない。
 俺が生きるためにやった。ただそれだけだ。
 俺が、俺の為にやったんだ。
 ゾンビになった歩美を殺したのも、歩美の死体を埋葬したのも、全て俺の為だ。
 ただの自己満足だ。
 自己満足で動いて、自己完結した。
 ただそれだけの話だ。
 

 
 家族を失い、心の一部も失った。今までの日常生活には欠かせなかった大切な物だ。だけどそれらはこの世界で生きて行くには重りになりうる。だから、もう要らない。
 生きて行く為に非情になろう。痛みも罪悪感も無視しよう。生きるために必要な物はなんだって利用してやろう。
 それが簡単に出来る程、俺は心無い人間じゃないと思う。だけど生きる為なら、心も捨てよう。
 
 この先、長生きしてどうなるんだろう。
 世界が元通りになることはもう無いだろう。
 今までみたいな安穏とした生活はもう送れないだろう。
 生きる意味はあるんだろうか。
 

 俺は死にたくない。
 血や内蔵や脳漿をぶちまけて、無様に死にたくない。
 あいつらみたいに死にたくない。

 だから生きる。
 死なないために生きる。
 絶対に。