複雑・ファジー小説
- 1 ( No.1 )
- 日時: 2013/08/06 10:50
- 名前: 石焼いも ◆ns5PzeHZB. (ID: hPHSBn6i)
なんてつまらない世界なんだろう。全部がセピア色に映り、濁り、闇となり溶けてゆく。
俺はこんなつまらない場所がとにかく嫌だった。逃げ出せるものなら逃げ出したかった。かといって逃げ出せる勇気(いわゆる家出というやつだ)は持ち合わせていなかった。この世界は嫌いだが、かといってはみ出すようなこともしたくない。だからこそ、俺は苦悩していた。
俺はいわゆる、学生という身分の人間だ。高校生——不安定な入れ物のような時期。その間に狂いのない正方形にする奴もいれば、ぐちゃぐちゃとした芸術品ともいえない代物にする奴もいる。その入れ物に、大人は知識という名の液体を注ぎ込む。正方形の奴は言わずもがな、ぐちゃぐちゃな奴にはそれが全くの無意味であると、あざ笑うかのように液体を拒絶する。じゃあ俺はどんな形なのかと問われれば、俺は何も言えなくなるであろう。
(それが分かったら苦労しないさ)
俺は無意識のうちに息を漏らし、ベットに倒れこんだ。倒れこんでからしばらくして、制服を脱いでいない事に気づき、重い体を持ち上げるように立ち、何も考えず制服を脱いだ。
俺はこんなんだが——高校では必要最低限以外は何も喋らず、中学でもやっていたからというくだらない理由で剣道に励み(真剣にやっている訳では無いのでこれは失礼な言い方かもしれない)、息をするために通っている——一応登校はしていた。行きたい訳では無いが、不登校児の引きこもりのような腑抜けな事はしたくなかった。だから、俺は近所のそこそこの偏差値の公立高校を受験し、見事前期で受かった。成績は元々そこまで悪くは無かった。
そんな俺の唯一の楽しみといえば、ゲームアプリであった。俺の両親は医者で、家にいない事の方が多いほど、多忙であった。小さい頃授業参観や運動会に来てくれた記憶が殆どない。どちらかといえば、俺が子供だったというのもあるが、寂しかった。まあ、今はありがたいぐらいなんだが。
それもあって、金に困るようなことも無かった。毎月それなりに小遣いは貰っていたので、他に趣味の無い俺はアプリの課金にそれをつぎ込んでいた。スマートフォンをまだ持っていなかった中学の頃は、使い道もなかったので貯金していた。それがよかった。気づけばかなりの額が貯まっていた。それを少しずつ崩して、原価ゼロ円のアイテムをただひたすらに購入していた。
俺は再度ベッドに倒れ、ポケットからスマホを取り出し、アプリのストアをチェックする。流れるような動作。毎日の日課であった。
ただ——今日は少し違っていた。いや、これが非日常の始まりであった。
「……?」
俺は思考する。初めて見る光景だ。
ランキングの一位のところには、真っ黒な画像のアプリがあった。名前は何も書かれていない。ただの空白しかないのだ。
俺は興味本位で詳細画面を開いた。しかし、そこには説明は一切書かれていなかった。普通ある筈のレビューも一件もない。ますます好奇心が湧いた。こんな気持ちになったのはいつ以来だろう。気付けば、俺はダウンロードの文字をタップしていた。無意識に。この気持ちを満たすために。
それがきっかけであった。
「な、な、な、」思わず声を漏らす。指が、その文字をタップした指が画面から離れない。離そうとすればするほど、指はめり込むかのようにくっついていった。
いや——実際にめり込んで、いや、吸い込まれていた。親指が画面と同化するかのように入り込んでいく。それは勢いを増し、指から手全体、腕を飲み込んでゆき、
え、 俺 は
一 体
ど こ へ
?
?