複雑・ファジー小説

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.1 )
日時: 2013/08/11 00:27
名前: 夕暮れメランコリー (ID: hMEf4cCY)

【一話:箱庭ノ中】


 この国は星が綺麗だ、と数年前に来た旅人が言っていた。それを聞いた僕の母親はたいそう気をよくして、この国について(もちろん良い所のみ)頼んでもいないのにペラペラと喋り出した。
 僕の家は食堂を営んでいて、しかもその時は十二時と言う絶好のランチタイムだった為、席は殆ど埋まっていた。初めて見る顔の人は僕の母親の饒舌さに驚き、常連さんは呆れたように笑う。それがこの食堂のよくある風景。
 さて、その時母親が何を話していたかできる限り思い出してみよう。大丈夫、僕記憶力は良い方だから。……そうそう、この国についてだった。
 この国は絶対王政を敷いていて、それは二百年ほど前から続いていること。だから高貴なる血を引いている王が国のトップに立つのは当たり前なこと。現在の王はとても夜空を大切にしていること……等など。そこで旅人は「だから灯りが全て蝋燭の火なんですね」と妙に納得した。
 僕の口からこの国について説明させて貰うと、この国は他の国との外交を一切禁じていて(しかも理由が「他国の汚れた文化を我が国に持ち込ませると素晴らしき我が国まで汚れる」らしい。笑ってしまう)、そのため他の国では「箱庭」と呼ばれている。恐らく「箱庭」呼ばわりのことは、この国では僕くらいしか知らない。僕だって二年くらい前、旅人同士の会話で小耳にはさんだ程度だし。
 ……話がそれたので、この国についてのことに戻すと、後は王が夜空が大好きなことだ。しかし王はただ夜空が好きなだけであり、それについての探求心は持ち合わせていない為に、月や星については全くの無知と言っていいだろう。いい年した大人が「月は自ら光っている」なんて言うか、普通。人前では言えないがあの王は馬鹿の部類に属してしまう。
 王がそんなどうしようもない人だから、国民にもやっぱりどうしようもない人は存在してしまう。王支援派と言う名の宗教団体(僕の母親とかね)とか。
 まぁ、僕が最も「どうしようもない」と思う人の話をしようか。
 僕の家の前に住むアイツの話を。