複雑・ファジー小説

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.10 )
日時: 2013/08/30 16:59
名前: 夕暮れメランコリー (ID: hMEf4cCY)

「は?」
 誰かと会話していた気がするが、ここにいる人間は僕を含め三人しかいないし、僕以外の二人は現在絶賛戦闘中である。この距離にいる僕と会話だなんて無理にも程がある。
 でも。



 ————簡単だよ。“星憑になればいい”のさ。



 この言葉が妙に引っかかる。確か星憑と言うのはここら辺に伝わる童話に出てくる単語で、この国が「箱庭」になる以前に外から入ってきた。子供の間ではかなり人気があり、かく言う僕も本がボロボロになるまで読んだ覚えがある。さて、あの本は何処にしまったっけ。と言うかあの本って正式な題名あったっけ。著者によって「星憑の物語」だったり「星の勇者」だったりしたから。




 さて、じゃあその話を説明しようと思う。

 国を捨てて流浪の旅人となった青年、ポラリスは草原を歩いている時に一人の少年と出会う。少年はポラリスに「北に行ってはいけない」と忠告するが、食料が尽きかけていたポラリスはその忠告を無視する。草原から一番近い国が北にあったのだ。
 道中、何も起こらず目的の国に辿りついたポラリスは、必要なものを買い揃えている時に怪物に襲われる。持っていた剣で必死に応戦するも、怪物の圧倒的な力にはかなわない。
 ポラリスが諦めていた時に救世主が表れる。それがあの草原で出会った少年だ。少年は不思議な力を駆使して怪物を打ち負かした。そしてあっけに取られているポラリスに「一緒に旅をしよう」と提案する。ポラリスはその少年に一つだけ条件を出した。「その力を使わせてくれ」と。
 少年は簡単には首を縦に振らなかった。この力は僕たちが使える力だ、人間が使ったらどうなるか分からない、と言って。
 ならばこの剣にその力を宿して使えばいい。ポラリスの提案にそれなら、と少年は星の形をした小瓶を差し出した。「いつでも僕らの力が使えるように」との事らしい。剣などを使えば人体に直接的な影響は出ないと思う、と少年は小瓶に力を溜め始める。
 それが物語の序章。ポラリスはその後、少年と共に旅をする。なんと不思議なことにポラリスは次第に老いていくのに対して、少年は全く成長をしない。遂にポラリスは少年に一つの質問を投げかける。

 ————「君は何者だ」と。

 少年は急に無表情になって、悲しそうな声でポラリスに真実を告げる。

 ————「僕は星なんだ」

 何処の星だと問われれば柄杓星だと答える。動かない星だよ、とも付け加えた。少年は柄杓星(すなわち北斗七星)で、そのうちの一つ、船乗り達が目印に使ったと言われる北極星だったのだ(北極星も実際は少し動いているらしいが)。
 少年は言う。「君はこの僕に取り憑かれた————いや、僕が取り憑いた人間だ。星に憑かれたんだから今後、君みたいな人の事をこう呼ぼう。敬意をこめて「星憑」と」
 そして少年はポラリスの前から姿を消す。それと同時に貰った小瓶も割れ、不思議な力も使えなくなってしまう。
 ポラリスは少年のことを「ホシビト」と名付けた。星の人だからホシビト。実にそのままな名前だ。
 物語はポラリスがあの草原に戻ってくる所で終焉を迎える————





 星憑なんて実際にいるわけがない。でも昔は自分もなれると信じて疑わなかった。
 そう、星憑なんて実在するわけがない。
 星憑なんて————