複雑・ファジー小説

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.12 )
日時: 2014/03/04 12:18
名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)

「まぁ、そんなお喋りは置いておいて、だ。ヨダカ、お前今の状況理解してるのか?」
「え、っと」
 正直、理解など出来る筈がない。だって僕は買い物に行こうとしたら嫌な奴に遭遇して、名前を勝手に変えられる半ば詐欺みたいなモノを受けて走って逃げてきた、ごく一般的な少年なんだから。
 こんなしたくもない貴重な体験をしちゃったからには、そんな事言えないんだろうけどね。
「……状況の理解も何も、ちょっと無理っぽいです」
「だよなぁ」
 シグナルと名乗った彼は、溜め息をつくと説明をし始めた。
「俺と弟のシグナレス……ってのはあの弓で戦ってるアイツな?……はいわゆる“空想上のものだと考えられてきた”星憑だ。星憑はあの話のように“ホシビト”と契約を結ぶ事によって、あの変な怪物“ホシクイ”を倒す力を手に入れる事が出来るんだ。とは言っても当然最強な訳ではないからな。小さい頃俺らが思っていたように星憑は『完全無欠の超人』ではない、星の恩恵を受けただけの人間だから」
 ……小さい頃の幻想が裏切られたような、そんな感覚を感じた気がしたが、大きくなった今考えればそんな事くらい理解出来る筈なんだ。あの話の主人公、ポラリスだって一回負けそうになったんだし。
「なんか、曇の上の話みたいです……」
「実際そうだぞ?お前はあのホシクイを俺らが倒した後はただの少年だ。星憑とかホシクイとか、一切関係が無くなる」
 そうだ、僕はただ巻き込まれただけの少年、ヨダカだ。きっとこの後この人の弟、シグナレスが華麗にホシクイを倒して、僕はまた普通の生活に戻るんだ。朝起きて、一日中食堂の手伝いをした後は寝る。そんな単純なサイクルがまた明日から巡ってくる。不安がらなくても良いんだ————





 でも本当にそれで良いのか?





 状況はホシクイの方が一歩優勢だ。このままいけばシグナレスは負けてしまうかもしれない。そうなったら僕はどうなる?一見するとこのシグナルと言う人も圧倒的戦力があるようには見えない。むしろ武器などを生成していたので援護型だろう。ちらちらと話に出ていた「クラムボン」を呼んだら一気に状況が変わりそうなものだが、それも難しそうだ。呼びに行くまでに時間がかかる。くそ、この場に誰かいないのかよ!?


 いいや、一人居る。
 ずっと逃げてばっかりで、そんな自分が情けないと日頃から思いながらも逃げてきた奴。


 完全に名前負けしている夜の鷹が!











 ————お、やる気になったみたいだねヨダカくん?
 ————お陰様でね。で、どうすればいいの?
 ————うーん、ホシビトとの契約方法は人それぞれだからねぇ。
 ————なんだそれ。何か変な呪文とか唱えたり、儀式とかやったりしないのか?
 ————それ結構契約に対しての偏見あるからね!?あー、困ったな。ヨダカくんが本気になるとか想定の範囲外だったよー
 ————声掛けた時点で範囲内にしておけよ。
 ————じゃあさ、「誓いの言葉」とかはどう?なんか面白そうじゃん?言葉は勝手に決めちゃっていいから。星憑になる際の手続きは勝手にしておくよ。
 ————そんなのでいいのか?
 ————おっけーおっけー。案外この世界ってユルいんだよ。




     『星に願いを』




 ぽつりと呟いた僕の視界が真っ白になった。